第87話お友達 1

久しぶりに、制服に袖を通す。

以前、女王様に夕食に招待された時に、真鍋さんから手渡された物。

それ以来、着る機会がないから、ずっとクローゼットの中に閉まってたけれど、

ようやく着用する時が、来たみたいだ。


任務先に持っていく 物 なんてない。

手ぶらで、待ち合わせ場所であるロビーへ向かうと、すでにハヤトとマリアの姿があった。

ハヤトの隣には大きなキャリーバッグがある。

マリアは俺と同じく、手ぶらだ。



なんとなく、昨日の出来事があったから、なんて声をかけたらいいのか?わからず、黙っていると、


「・・・・ミカがまだ来てないみたいだ」


ハヤトが口を開いた。



「怪我は薬のお陰で治ったけれど、念の為、別の場所で安静にしてるんじゃないのかな?

それか、今回の初任務は、ミカ抜きの3人で向かうとか・・・・」


これからどのような感じで任務をこなすのか?わからない。

つーか、ミカとなんて一緒に居たくねぇし!

居ない方がいい。

そう願っていたのだけれど、エレベーターが開くと共に賑やかな声が聞こえてくる。



「皆!おはよう!あら~、似合ってるじゃない!」


真鍋さんだ。

まだ早朝だっていうのに、キンキンした声を響かせながら、ロビーへと歩いてくる。


そして、その後ろを右手を抱え背中をマルクしながら、トロトロ歩いてる人物が見えた。

ミカだ、ミカが右手を庇い顔を歪めながら歩いてる。

その姿を確認したハヤトは、



「ミカ!大丈夫?・・・・あっ・・・・」


近くへ駆け寄ったのだけれど、何かを目撃した後、酷く顔を歪め、ミカへ歩み寄るのを止めた。



どうしたんだろう?

ミカに近寄りたい訳じゃないけれど、何があったのか?は気になる。

少しミカの方へ近寄った時、何が起こったのか?ようやく理解した。



ミカの右手に包帯が巻かれている。

しかも、ただ巻かれてるんじゃない。

白い包帯の一部が、赤く染まってる。


傷が塞がっていない。


「・・・・あれ?・・・真鍋さん。

この前の薬、失敗だったんですか?」


ミカのあの表情。

漆黒の翼のせいで、汗こそ流れていないが、必死に苦痛に耐えているのだろう。

俺の時は、しっかり薬が作用し傷が塞がったけれど、ミカには通用しなかったのだろうか?

真鍋さんに質問してみると、



「いえ、お陰様で成功したわよ!

だから涼君の足も、すぐに治ったんじゃない。

これ、あの薬を錠剤にしたから。

万が一、任務先で怪我した時は、皆これを飲んでね」


完成したのであろう錠剤を、俺の目の前に差し出した。



んん?どういう事だ?

成功したのなら、どうしてミカの表情があんなに歪んでいるのだろう?

不思議に思った俺は、



「あのー・・・・、じゃあどうしてミカは痛がっているんですか?」


再び真鍋さんに質問をした。

すると、真鍋さんは表情1つ変える事なく、



「え?だって、ミカにこの薬飲ませてないもの」


それが当たり前かのような口ぶりで答える。




なんだって?!

どうして?!

何故使わない?!


ミカの事は大嫌いだけど、そんなのあまりにも酷すぎる。

だって、指がないんだ!

その苦痛がどれだけ大きな物なのか・・・・!



「どうしてミカには飲ませなかったんですか?

痛がってるじゃないですか!」


思わず大きな声になってしまう俺。

だって、そうだろう?

指がないのに、麻酔も鎮静剤も飲ませていないのだから。

自分がその立場になったら?・・・と考えると、背筋がゾっとする。



すると、真鍋さんは相変らずニコニコ微笑ながら、



「それがこの子に与えた罰だからよ。

死ぬまで、その苦痛に耐え続けなさい。

そして、一生後悔するといいわ。

同級生をイジメ、自殺させた事をね」


昨日の女王様と同じだ、同じ事を言い始めた。

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