第43話混乱 6

「確かに、この人は人を殺しました。けど・・・・・!」


取り乱すハヤトに、俺は、



「よかったじゃん、ハヤト。これがモンスターなら、俺達は怪我する事なく倒す事が出来る。

だって、今の俺達は、人間よりも優れた存在なのだから・・・・」


右手の腕輪に意識を集中すると、そこから剣を取り出す。



「涼!待て!ダメだ!そんな事をしちゃ・・・!」


腰を抜かし、その場に座り込んだハヤトを尻目に、俺は目の前のモンスターに向かって歩き始めた。




「やめてくれ!殺さないでくれ!謝罪する!罪は認める!」


目の前のモンスターが、何やら叫んでいたけれど、俺はその言葉を無視し、




「クズ、死ねよ」


モンスターに目掛けて、剣を何度も振り下ろした。

最初は抵抗していたけど、そのうち段々抵抗をしなくなり、動かなくなっていく。

モンスターに剣を刺すたびに、どんどん力が漲ってきて、それが気持ちよく思えた俺は、

目の前の物が死んだとわかっていても、何度も剣を突き刺した。




「涼!上出来よ!」


それを見ていた真鍋さんは、喜び、俺に抱きついた。

誰かに褒められる事自体初めてなのと、照れもあり、俺はその場に立ち尽くしていた。



「涼・・・・お前・・・・・」


腰を抜かしていただけのハヤトが、俺の事を軽蔑した目で見ている。

何も出来なかった、腰抜けの癖に、俺を愚弄すると言うのか?



「涼、貴方はとても良い事をしたの。

何も恥じることはないわ。 むしろ、自慢していいのよ。

自分はモンスターを倒した のだと。

ハヤト、貴方はまた訓練のやり直しね、全然ダメだわ。

リーダーも失格。


涼、これからは貴方がリーダーよ。

リーダーとして、皆を引っ張っていってちょうだい」



その言葉を聞き、俺は笑いが止まらなくなっていた。

いつもの、どうしたらいいのか?わからないんじゃない。

本当に嬉しくて、笑っているんだ。



リア充な生活をしていたハヤトを抜き去り、俺がリーダー。

今まで負け犬人生だった、俺がリーダー。


俺が一番偉いんだ!


「ハヤト、早くトレーニング施設へ戻りなさい!

涼は、無事実戦をクリアしたから、今日の訓練はここで終わり」


真鍋さんはハヤトにトレーニング施設へ戻るよう促す。

ハヤトはその指示に従い、素直に施設へと歩き始めた。


しかし、先ほどの出来事が余程ショックだったのか、覚束無い足取りだ。

ハヤトを見送った後、何もやる事がない俺は、



「じゃあ、俺、やる事ないんで、部屋に戻ります」


真鍋さんに声をかけ、部屋に戻ろうとしたその時、



「待って!もし良ければ、後10分くらい時間をくれない?

これから、貴方の相方になる人物・・・マリアと対面して欲しいの」


それは、思ってもいなかった出来事だった。


マリアと会える?!

ずっと、気になっていた子、マリア。

願ってもいなかったチャンスに、



「待ちます!」


腹のそこから声を出し返事すると、



「じゃあ、談話室で待っていて。

モンスター討伐からそろそろ戻る予定だから、着いたら連れて行くわ」


真鍋さんはエレベーターの方へと歩いていった。



モンスター討伐。

もう、マリアは外の世界に出て、人を殺しているのか・・・。


俺も、談話室へと歩く。



マリアが俺の相方になるという事は、一緒にこれからモンスターを討伐するという事だ。

一緒に人を殺す。


俺は、人を殺す事に抵抗なんてない。

むしろ、同じ人間同士に害を与える奴など、人間だなんて思えない。


でも、ハヤトは躊躇い、殺す事が出来なかった。

人それぞれ、生まれた場所も育った環境も違う。

考え方も、バラバラで当然だ。


マリアはどうなのだろう?

モンスターを殺す事について、どう考えるのだろうか?

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