第33話アリス 3

私から足が無くなってから、数週間くらい経ったある日。


看護師さんと言われる人達以外の人が、部屋を訪ねてきた。


私のこの姿を見て、大体の人が、 哀れな目 で見るのだけれど、

その人は、私を見た瞬間、ニヤリと笑うと・・・



「初めまして!マリアちゃん! 私は真鍋っていうの、よろしくね!」


テンション高くそう言うと、私に右手を差し出した。


大人だ・・・・しかも、女。

シスターも大人で女だった。

そして、真鍋と名乗るこの人も、大人で女。


私は、手を布団の中に入れたまま、差し出す事は無かった。

大人の女 という物を、拒絶したのだ。




「あら?手は動かなかいんだったっけ?」


そう言うと、真鍋と名乗る女は、手に持っていた資料をパラパラめくる。



「・・・・動くわ。ただ、その手に触りたくないだけ」


大人の女 に対して、初めての反抗だった。

こんな事を言えば、シスターなら確実に私の事を殴る。

だから、真鍋と名乗る女 も、きっと私の事を殴る!そう覚悟していたの。


でも、そんな予想は大きくはずれ・・・・




「そうよね。ごめんなさいね、私が無神経だったわ」


笑顔でそう言うと、資料をパタンと閉じた。



何故、この人は私のこんな態度に怒らないのだろう?

真鍋の態度に、私は少しずつ、惹かれていった。



真鍋は、ニッコリ微笑みながら、



「ねぇ、また地面を自由に歩いてみない?

このまま、ベットの上で暮らすなんて、あんまりだわ。

やっと、あの人達から開放されたのだから、これからは貴方は 自由 に暮らす権利がある。


勿論、両足を無くしたままでも、自由はあるし、幸せにだってなる事は出来る。


だけど、貴方には、もう一度両足を手に入れ、やって欲しい事があるの」



そう語り始めた。




また地面を歩く・・・・?

やって欲しい事・・・・?


なんだろう?


私は、特に両足が欲しいとは、思ってはいなかった。

やりたい事はなかったし、何をやればいいのか?わからなかったから。

一生、ベットの上で外の景色を見ながら、生活する事も、悪くは無い・・・むしろ幸せだと思っていた。



そう決めていたのにも関わらず、真鍋の言葉に惹かれていく。



生きる目的も、やる事もない私が 出来る事 ってなんだろう?




「私ね、とても大切に思っていた子が目の前で死んじゃったの。

でも、悲しくないわ。

その子は、死ぬ事であの地獄から開放され、 自由と幸せ を手に入れたのだから。

だけど、寂しく思う事があるの。

もう2度と、あの子の笑った顔が見れなくなる事が。


私に 出来る事 って何かしら?


このままベットに横になったまま、外の景色を見ている日々を過ごすと、

あの子の事を思い出してしまって、悲しくなるの。


だから、苦しくてもいい。

何か やる事 が欲しいわ。

そうすれば、気分もまぎれるから。


・・・・私って、わがままね」



こんなに言葉を発したのは、いつ振りだっただろう?

アリスの前でも、こんなに喋った事なんて無かったから。


言葉を話そうとすれば、涙が零れてしまう。

だから喋らないようにしていた。


それなのに、私は 真鍋 に自分の意思を、涙を零しながら、必死で伝えていた。

それは、どうしてなのだろう?

自分でもわからない。



すると、真鍋は



「わかった。

貴方に 生きる目的 を与えましょう。

必ず成功して見せるわ、ありがとう」



笑顔でそう言った。


そんな真鍋の姿を見て、私は布団の中から、右手を差し出す

交渉成立という意味を込めて。


先ほど、握手する事を拒んだから、

真鍋はきっと、私の右手をスルーするだろう・・・そう思っていたけれど・・・



彼女は私の右手を無言で力強く握ると、部屋を出て行った。




初めて、大人の女 の前で、涙を流した。

初めて、大人の女 のと握手をした。

初めて、大人の女 を信頼しようと思えた。



これが、私と真鍋との出会い。

運命ってあるのね。

驚いたわ。

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