第31話アリス 1

「ここから逃げようなんて、なんて愚かな行動なのでしょう」


シスターのお説教が続く中、思い浮かぶのはアリスの事。

ちゃんと逃げ切れただろうか?

それだけが、心配だった。




「全員に大きなペナルティーを与えたら、バレてしまいそうだわ。

だから、ここは代表して・・・・マリア、貴方が全員の罰を受けるのです」



その言葉を聞いた、周りの子達は、ブルブルと震え始めた。

ペナルティーを与えられるというのに、私は落ち着いていた。

それは何故か?というと、もう、覚悟を決めていたから。


ここで死んでも構わない。

いいえ、ここから開放されるのなら、喜んで私は死を選ぶ。

やっと死ねる!そう思っていたのに・・・・。




「マリア、貴方の両足の骨を折る事に決めました。

折ってしまえば、逃げる事は不可能になる。

そして、他の子達に対して、見せしめる事も出来るでしょう?」



そう言うと、シスターは私の上半身を抑えはじめた。


骨を・・・折る?

それは、嫌よ!



「骨を折るだけじゃダメ!いっそ、殺してよ!」


私は大きな声で、そう叫んだ。

しかし、シスターは



「殺すだけなんて、つまらないわ。

貴方が苦しまなくちゃ意味がないの。

だって、これは罰なのだから、苦しむ姿を皆に見せなくちゃ、罰の意味がないわ」





そう言うと、シスターはバッドを私の足に何度も振り下ろした。



「ぎゃああああああああああああああ!!!!」



何度、叫んだことだろう?

もう、喉が潰れて、声も出ない。



痛みで意識が途切れ途切れになる中、



「アリスを捕まえたわ!さぁ、こっちに来なさい!」



シスターの声が聞こえた。


アリス、捕まってしまったの?

貴方だけは、生きて自由を掴んで欲しかったのに。


私の願いは、天に届く事はなく、

目を開けると、頭や身体から血を流したアリスが、シスターに引きづられながら、室内へと入ってきた。


生きているのかしら?それがばかりが、気になって仕方がない。


「今回の首謀者はアリスで、間違いないのね?」



「・・・はい・・・間違い・・・・ありません・・・・」



やっぱり、みんな自分が大切なんだ。


事実を話せば、ペナルティーは免除する と、シスターが言った途端、

皆、アリスを裏切り、本当の事を言い始めた。


確かに、アリスが 逃げよう とけしかけた張本人だけれど、

皆が逃げたのは、自分の意思だ。

逃げたくなければ、残っていれば、良かったのに。



でも、そんな事、皆には関係なかった。


この作戦が成功すれば、

「勇気を持って逃げた自分が偉い」と、自らを褒め



失敗をすれば、

「全てはアリスのせい。自分達はけしかけられただけだ」と、しらばっくれる。



自分の命が助かるのなら、他人を蹴落としてもいい

ここは、そういう場所なんだ。




シスターは、逃げた子全員の意見をまとめると、



「では、アリスはこの件の元凶とし、処刑する事にしました。

でも、楽には殺しません。

アリスは悪い子だから、その身を持って、苦痛を味あわせなくてはね・・・」



そう言い、アリスの全身にバッドを振り下ろした。


アリスを裏切った子達は、その行為から目を逸らしていたけれど、

私は、アリスが動かなくなるまで、見続けた。



生きているアリスの姿を目に焼き付けるんだ!


ある時を境に、アリスはピタリと動かなくなった。

きっと、死んだのね。

妹みたいな存在だったアリスが、目の前で死んだというのに、私は冷静だった。


アリスは生きて、自由を手に入れたかったのに、結局死んでしまった。

死んでしまったけれど、この檻から開放されたアリスは、幸せなのだろうか?

アリスが幸せになれたのなら・・・・、この時は、そう思っていたの。



何百回とアリスを殴り終えた、シスター達は、全身返り血を浴び、真っ赤に染まっていた。

これが同じ人間だなんて、私には思えなかった。

この人達は、人間の仮面をかぶった、怪物だわ。

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