シーズン2 あとがき

シーズン2 あとがき

 魔術師ゾディアス・リブレウスの言問い。そのシーズン2を通読していただき、ありがとうございます。


 いかがでしたでしょうか? 登場人物の入れ替わりが特徴の本話ですが、シーズン2ではそれが小幅にとどまりました。グレタが退場し、使い魔としてマルタが登場。その他に、ゾディ以外は女性ばかりだった屋敷に男の子としてレクトが加わりました。ソノー、メイ、レクト、エルスのちびっ子四人が、これからのシーズンで話の主力になっていきます。人物の出入りが落ち着きますね。ただ、マルタは今後どこかで離脱します。その後の使い魔との交代が避けられなくなります。


◇ ◇ ◇


 シーズン2では、登場人物の出入りを抑えた分、住人の生活変化を前面に出しました。一番それが大きかったのは、言うまでもなくマルタです。蜘蛛から人間への転身を果たしましたからね。力があるにも関わらず何かに縛られる存在から、自分を自由に演出して楽しむ生き方へ。それは、筋を重んじるがゆえに窮屈になっているゾディにとっては憧れに近い生き方です。だからこそ、マルタの今後を心配はしていても制限するつもりがないんです。風として自由に生きよ、と。


 でもレクトの場合は、その正反対です。自由を貫くためには強い意思と力が要るんですが、まだ子供のレクトにはどちらもありません。己の思うままにふるまえば、誰からも疎んじられて自滅してしまいます。騎士を見て憧れるという動機の是非はともかく、誰かから無理に変えられるのではなく自発的に自分を変えようという流れにレクトが乗ってくれて。ゾディは心底ほっとしたことでしょう。


 そして、ソノー、メイ、レクトがスカラに通い始めました。ゾディが語っていたように、意識を外に向けることは客観視を鍛えるためにどうしても必要なんです。幸い三人ともスカラになじんで、友達が出来ました。友達との意思疎通やルール作りを通して、自己主張と自律の意識が育っていきます。スカラに行かせたゾディは一安心ですね。


 ただ……わたしたちの身近にある学校と話中のスカラとでは、仕組みがかなり異なります。初等科の六年は日本の義務教育の小学校に相当しますが、無条件の進級ではなく試験で上位級に進むシステムで、学年が固定されていません。そして、無償で学校に通えるのは初等科だけなんです。王宮のある王都ならともかく、貧しいケッペリアではほとんどの子が初等科しか修了出来ず、すぐに家業の手伝いをすることになります。もっと学びたいと思っていてもお金がないと進学出来ませんし、ど田舎のケッペリアにはそもそも高等科がありません。当然、ソノー、メイ、レクトにも近々同じ選択が突きつけられることになります。

 ゾディもアラウスカもいますから、修学だけなら屋敷でも出来るんです。でも、そこには同年代の友達がいません。初等科の修了と同時に友達を失ってしまうことを踏まえて、三人はその後どうするかを考えなくてはいけないんです。決して甘くは……ありません。


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 シーズン2では、大掛かりな戦闘がいくつかありました。ボルム残党との攻防戦。巨大狩り蜂との対決、そして最後は即位式での立ち回り。ですが、いずれも住人の鍛錬として行っていることにお気付きでしょうか? 前二つはマルタ、最後のはレクトの鍛錬ですね。大勢の民草のために滅私奉公すれば、その功がゾディを王に押し上げてしまいます。ですが、ゾディは自分がいつであることに強くこだわります。王なんてまっぴらなんですよ。マルタやレクトがいつでいられるための条件整備をする。シーズン2でのゾディの戦いは、かなりパーソナルな理由に基づいたものなんです。


 ゾディは権威や権力というものを全く信用していませんし、自分がそれに関わることも忌避しています。ですから、政治とか権力争いに口を挟むつもりは毛頭ありません。ルグレス王国の代替わりに関わったのは、あくまでもレクトを政争から切り離すため。それ以外の意図はありません。シーズン2のラストでゾディが言った言葉。自分の人生の王は自分自身。王はそれだけでよかろう。実際にそうすることは難しいかもしれませんが、ゾディは今屋敷にいる子供たちそれぞれの人生を作り上げてもらいたいんです。特に女性で線の細いソノーとメイにね。次のシーズンでは、自立に向けた取り組みが少しずつ始まることになります。


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 シーズン2で新登場したメンバーの概要をまとめておきましょう。


 マルタ。シア、グレタの後釜の使い魔ですね。ベースは飛び蜘蛛(ハエトリグモ)。極めて動作が俊敏で、攻撃能力が高いのが特徴です。見かけの年齢は二十代前半。小柄ですが、全身くまなく鍛え上げられています。女性というより少年の雰囲気ですね。黒い短髪に、大きな黒い瞳。口元にいつもシニカルな笑みをたたえています。五感が発達しているだけではなく、わずかですが先視さきみの能力を持ってます。操る武器は苦内くない

 マルタは巨大狩り蜂との戦いに勝利して、人間の身体と生き方を手に入れました。人間になってからは無駄な力が抜け、攻撃的なところが幾分丸くなって、ひょうひょうとしたキャラに変わっています。それでも言葉遣いは乱暴で、感情表現はダイレクト。相手の心を先読みして自分の言動を調整するという概念は全くありません。マルタのしょうは風。ソノーやメイは、そのつかみどころのなさを苦手にしています。逆に、レクトがすごく懐いています。


 レクト。ルグレス王国の前王テビエ三世の落胤らくいんで、庶子ということになります。ソノーの一つ年下、弟である幼王テビエ四世(カルム)の一つ年上で8歳。王位継承権を持ちますが、実母はすでに黒幕の手によって粛清されています。王の愛妾であった美人の母親の血を引き、顔立ちは整っています。髪は栗色で、瞳はダークブルー。

 王国乗っ取りを企む黒幕に飼われていたため、性格がこれでもかとひん曲がっていました。礼儀や挨拶なんか知ったことかという超俺様で、屁理屈も悪口も言いたい放題。人の嫌がることをあえてやらかす、ひねくれ者でした。あのゾディですら、制御にひどく手を焼きましたね。

 しかし屋敷を訪れた騎士団との出会いを通じて騎士に強い憧れを抱き、棒術の訓練に熱中するようになりました。その熱意と努力は誰もが認めるところです。細かいことにこだわらない自由人のマルタが大好きで、マルタの言いつけにはきちんと従います。


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 シーズン2のタイトルは、一から十二までの数字をそのまま使いました。もっとも、タイトルを二文字で揃えるために十一と十二は少しだけひねりましたが。次のシリーズでは、また別の趣向で展開しようと思います。


 さあ、これからシーズン3に突入します。屋敷のメンバーはそのままですが、決して平穏無事な展開ではなく、ゲストの出入りが多い上にゾディが活発に動くシーズンになります。個々のメンバーの抱えている課題解消と自立に向けた訓練。ゾディがそれらにどう向き合うかを、じっくりご覧いただければ。


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