第14話 DDR全曲クリアされる!

「なぁ・・・あいつ魔道士のナーヤだよな・・・」


早朝、狩りに出てる冒険者が平原で見かけたのはジョギングをしているナーヤの姿であった。

しかし、その足取りは重すぎて走っていると言うよりは50倍重力の所で頑張って歩いている某戦闘民族の息子の様であった。

ナーヤは魔道士である、基本的に戦闘では後方から魔法で支援をするのがメインで動く事は殆ど無い。

なのでそんな魔道士が外を走っていると言う光景は非常に珍しかった。




「ぶふぅ~あ~疲れた~」


帰宅して座って肩で息をしながら出てる汗を拭き取るナーヤ。

魔道士と言うのに薄着で汗だくになっているのでとってもセクシーだ。


「でも頑張らないとね・・・」


そう言って汗が引いてからいつものローブに着替えたナーヤはロクドーの奴隷商の店へ向かう。

先日ロクドーが出現させたDDRは音ゲー発祥の地と呼ばれる酒場に置かれている。

既に酒場なのにエーテルとポーションの売り上げの方が良くて酒場と言うよりもフードコートみたいになっていた。

特に店の中央にDDRが設置されているから余計にそう感じてもおかしくないだろう。

あれから毎日DDRは大盛況で隣のナコム国からもプレイヤーが旅行がてらプレイしに来るくらいである。

ビートDJマニアを通じて同盟国となったコンマイ国とナコム国は国境を通過する審査が非常に簡略化されて楽になっている。

その為、国同士の行き来が非常にしやすかった。


「私この曲好きなんだ~♪」

「レツゲでしょ?私も好き~♪」


HARD限定曲の黄色い円盤曲、「レッツゲットダウト」は女性に大人気であった。

特に曲の中盤とラストに2回来るチャーチャーチャーというリズムに合わせて

↓↑

←→

↓↑

の配置ステップが非常に楽しくプレイヤーの心を掴んでいた!

たった数日しか経過していないのにプレイヤーの半数くらいは既にNOMALレベルを全曲クリアしておりHARDレベルに突入していた。

特にこのゲームが現金ではなくMPを消費すればプレイできるという事から誰でもプレイ可能と言う事実が拍車を掛けていた。

複数回プレイするにはカウンターでエーテルを買って飲めば良いのだがそうでなくても1回プレイしてMPを枯渇させ魔力欠乏症になれば1回のプレイ用のMPまで最大値が上昇するので8時間ほど寝れば全開する。

しかも超回復により200まで増えたMPは起きた時には208まで回復しているので次回プレイしても意識を失う事はないのだ。

ロクドーがこの事実を知った時に「消費税かよ?!」って突っ込みを入れたのは言うまでも無いだろう。

しかし、この数日で数名がボス曲である『パラノイヤ』に挑戦した者は居たのだが未だクリア達成者は居なかった。

その為、挑戦するだけで観客が集まり3曲目にそれを選ぶかどうかでギャラリーの熱気がはっきり別れていた。




「ロクドーさん来たよ!」


ナーヤはロクドーの元奴隷商の店を訪ねた。

そして、驚愕する・・・

そこにはロクドーの奴隷で在るエミがロクドーに直接指導されてパラノイヤに挑戦していたのだ。


「そこでビジステップだ!」

「はいっ!」


横を向いて駆ける様に並んだ←↓→と言う配置を踏み抜けるエミ。

パラノイヤの譜面は全ての曲の総合譜面であり曲毎の踏み方をしっかりマスターする事がクリアへの近道なのだ。

ちなみにエミ、DDRに目茶ハマリしておりこの時既にパラノイヤを残して全曲クリアしていた。

来て早々自分よりも遥か先に居るエミに嫉妬するナーヤ。

だがそのエミのステップは確実にナーヤの実力を伸ばすのにお手本となる動きであった。

嫉妬しながらもそれをしっかり見詰めて吸収しようとするナーヤ。


「最後の連打気を抜くな!」

「はいっ!」


エミの表情はかなり辛そうだ。

それはそうだろう、全部の曲の総合譜面とは言え全ての曲の中でも最速の曲であるパラノイヤ。

同じ動きをすればいいとは言え曲の速度が全曲の中でも最速のBPM180!

これは音楽の中でもかなりの高速に位置する速度だ。

その速度で8分の3連打が流れてくるのをエミは焦りながらも踏む!

このゲームはゲージが残量0になったらその時点でゲームオーバーになる。

その為一瞬たりとも気を抜けない!


「うぁああああ!!!」


エミの口から声が漏れる!

かなりこの3連打が辛いのだろう。

それが2回続けてくる。


ここでBPMに付いて詳しく語ろう。

BPMと言うのは1分間に何回4分の拍が何回訪れるかを数値化したものである。

つまりパラノイヤの連打は1分間に360回のリズムで踏まないと駄目と言う事になる。

それは秒間に直すとと6回!

つまり3連打を0.5秒で踏まないと駄目と言う事になる。


「よし!抜けたぞ頑張れエミ!」

「はいぃいいい!!」


連打さえ抜ければ後は続く4分譜面を踏み切れればクリアだ!

だがこの時点でエミの下半身はガクガクに震えていた。

限界を超えた体を気力だけで動かし最後の最後まで耐えるエミ!

そして・・・遂にクリアした!!!


「やった・・・やったぁあああああ!!!」


周りで見ていた奴隷の少女達が歓声を上げる!

彼女達もDDRにハマリやり込んではいるのだが未だにHARDの曲に梃子摺っていた。

その中でエミ一人だけが飛びぬけて上手く今この時に初めてDDR最強のボス曲パラノイヤをクリアしたのだ!

その場に座り込み喜びの表情を浮かべるエミ。

それを自然にナーヤは拍手していた。

この異世界で初めてパラノイヤをクリアしたエミだったが実はこの時酒場の方でも一人のプレイヤーが自力でこのパラノイヤをクリアしていた。

まるでシンクロニシティー、だがその場は静寂に包まれていた。

エミがギリギリCランクでクリアしていたのに対しこの男はBランクでクリアしていたのだ。


「ぬぅうう・・・」


鋭い目つきにまるで麻薬患者の様な顔色の悪さ。

初めてのクリアにより全ての譜面が確認されて必死にメモを取る人も居たがその場は静寂に包まれる。

この男の異常性に誰もが息を飲んでいたのだ。

それは順番待ちの時からであった。


「食事はこれでいい・・・」


そう言って男の手には食べれない事は無い雑草の束と硬く作られたパン。

そして先程川で酌んできた水の入った入れ物。

まともな食事などここ数日していない。

DDRとの出会いが彼を変えたのだ。


「人付き合い?そんなものはDDRには必要ない」


そう言いきって他人との関わりを完全に断った男はDDRと出会ってから無職となっていた。

先祖代々続けて来た藁を集めて売る仕事を捨ててDDRをプレイするだけの人生にシフトしていたのだ。

MPの事もありDDRをプレイしたら家に帰り仮眠を取る。

そしてMPが回復したらDDRをプレイしに行くだけのこの生活をここ数日続けているこの男の名前は『ズー』


プレイが終わり全曲クリアした事に満足しズーはニヤけた笑みを浮かべながら酒場を出て行く。

帰宅して仮眠を取り再び酒場に8時間後に来るつもりなのだ。

彼が居なくなってから場は沸くのだが誰一人と彼に声を掛ける者は居なかった。





場所は再びロクドーの元へ戻る。


「あっ来たねナーヤ」

「うぅ~ズルイですエミさん」

「まぁまぁ、ナーヤにも直ぐにクリア出来るよ」


ロクドーはナーヤを宥めながら曲の攻略法を別の奴隷がプレイしている間に簡単に説明して予習させる。

この後、ナーヤもパラノイヤをクリアし酒場の方でも次々とクリア達成者が現われる。

その日だけで今までクリアされた事のなかったパラノイヤが多数の人間にクリアされた事実は直ぐに人を介して広まりその数時間後にはロクドーの元へも伝わる。

そこでロクドーは次なる動きを見せるのだった。


「ナーヤおめでとう」

「ま、まぁ私にかかればこれくらい余裕よ」

「そんなナーヤにこれお願いしていいかな?」


そう言ってロクドーが手渡したのは1枚の紙。

帰りにDDRの置かれている酒場に届けるように言われたのだがナーヤを含めそれを見て全員驚愕する。

そこに書かれていたのは隠しコマンドであったからだ。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


難易度選択画面で以下のコマンドを足で入力すると隠しモードに移行します。


・↑↑↓↓↑↑↓↓ 更に上の難易度『ANOTHERモード』

・←→←→←→←→ 譜面が上下左右逆転する『MIRRORモード』

・↑↑↓↓←→←→ 8パネル全てを使う『DOUBLEモード』


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


DDRプレイヤー達の戦いはまだ始まったばかりであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る