一期一会

「長浜ですか! 大河ドラマ『江』の舞台になったところですね!」

「あー……そうだったかしら」

「それと、ショッピングモールも大きくて綺麗で良かったです」

「随分と詳しいのね」

「車でぐるぐる周りましたよ。琵琶湖一周を『ビワイチ』って言うんでしょ?」

「ビワイチは自転車で回った場合よ。車だったら簡単に回れるじゃない」

「そりゃそうですね」


 こちらのテンションに付いて来てないのが、電話口の話し声から容易に想像がつく。しかし、思いもよらず滋賀県の――琵琶湖の話ができる事に、嬉しさを隠し切れなかった。


 懐かしい景色が懐脳内に、まるでスライドショーのように再生される。

 長浜、滋賀、琵琶湖……1年と言う短い期間だったが、琵琶湖のある風景はとても気に入っていた。


「やっぱり地元だと当たり前過ぎて、何とも思いませんか?」

「他の土地の人がそう言うなら、そうなんだろうなって思うけど……京都が近いから良いわよね。私、京都好きだし」

「ああ、私も好きですよ、京都。北海道に引っ越してからは、一度も行ってませんけどね」

「え……北海道の人なの?」

「ああ、言い忘れてました」

「北海道の……どこ?」

「旭川です」

「――動物園の?」

「YES」


 さすがは旭川市。「動物園」と言うだけで、その他一切の説明が不要だ。


「滋賀よりも北海道の方が遥かに良いと思うけど」

「まぁ、長く住むと大変ですよ、いろいろと」

「それは滋賀も同じよ」


 観光と住むのとでは、全く違う。1年住んで滋賀の事を分かったつもりでいたが、まだまだ長期観光の範疇だろう。

 さっきまで自分が発していた「滋賀県良いところ!」の言葉の数々が、ひどく薄っぺらく思えた。


「あ、来たみたい」

「お迎えですか?」

「……別の意味に聞こえるんだけど」

「おっと、これは失礼」


「楽しかったわ」

「ええ、こちらこそ」

「まさか間違い電話の相手と、こんなに長話するとは思わなかったわ」

「夜中にいきなり『早く迎えに来なさいよ!』と怒鳴られた時はビビりましたけどね」

「私なら知らない番号の電話に出ないわ」

「次からはそうします」


「じゃあね、北海道民さん」

「さよなら、滋賀県民さん」


 これを「一期一会」と言うのかは分からないが、突然の――見知らぬ滋賀県民との会話は終わった。


 あるんだなぁ、こんな事って。

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