見知らぬ知り合い

「おお! お久し振りです!!」


 近所のスーパーで突然、男に声をかけられた。


「あー……そうですねぇ」


 私は咄嗟にそう返してしまった。


 ――誰だ……こいつは。


 人違いか、それとも私が覚えてないだけか。いずれにせよ、「そうですねぇ」と言ってしまった以上はもう手遅れ。

 私は必至で頭の中の「人物データベース」を検索した。


 歳は私よりも少し年上、40代後半くらいだろうか……

 仕事か、プライベートか……

 「久し振り」と言うのはどのくらいの期間か……


「相変わらずやってます? これ」


 男はゴルフスイングの仕草をした。


「ええ、たまに……」

「たまに、であんなスコアが出るんですか!? さすがだなぁ」


 ――私とゴルフをした事があるのか!?


「奥さん、お元気ですか?」

「ええ、お陰様で……」


 ――妻の事を知っているのか……


 無難な会話で時間を稼ぎながらも、会話の中から必死にヒントを探す。


「そうそうあのクッキー! 美味しかったですよー」

「それは……何よりでした」


 ――クッキー。


 最近ウチの近くにオープンした洋菓子店。3か月前、あの店でクッキーを買って取引先へ行って……


 検索結果がようやく1人の人物をはじき出した。


 (富士島物産北茨城支店、第二営業部の課長代理か!!)


 挨拶程度しか言葉を交わさなかったが、確かこんな感じの人だった。


 ――名前はえーっと……


 ――安倍さん!!


 ――そうだそうだ、総理大臣と同じ安倍さんだ!!


 ふぅ、危なかった……


「おっと、ポン酢を忘れるところだった」


 男は、いや安倍さんは買い物リストのメモ紙を見ながらごそごそと買い物かごの中身をかき回した。


「お店の中をウロウロしているうちに、何を買いに来たのか忘れちゃうんですよねぇ」

「そうそう。メモを見ないと関係ないものばっかり買って、カミさんに叱られるんですよ、はっはっは!!」


 さっきまでのドキドキは一変。見知らぬ人が知り合いだと分かれば余裕である。


 まぁ、最初から仕事関係の人だとは思っていたけども。


「それじゃ石川さん、私はこれで」


「……はい」


 安倍さんはスタスタとレジの方へ歩いて行った。










 石川って、

















 誰だよ。

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