徒然掌編集

八ヶ岳南アルプス

中身のない宝箱

 私は田舎で育った。


 今では「失われた」、もしくは「失われつつある風景」に囲まれている場所である。小学校は田んぼのど真ん中にあり、校庭はとんでもなく広く、他県の学校の校庭の狭さに驚いたものだ。「都会の学校には校庭がない」なんて話を聞いた時は気の毒にさえ思った。


 小学校の通学路の途中に小高い丘があり、その丘は木々に覆われていて、ちょっとした森になっていた。その丘の中心に伸びる一本道があり、緩やかな上り坂になっている。奥が見えそうで見えない、非常に微妙な坂であり、それが小学生達の想像力を掻き立てた。


 みんなで、


「あの森にはお化けが出る」


「この道は別の世界へ通じていて、行くと帰って来られなくなる」


 と言い、誰もその森の中へ入った事はなかった。まぁ、小学生達にはありがちな、そして他愛のない会話だ。


 私1人で下校中のある日、ふと小高い丘の一本道が目に入った。そして思った。


「この道の先には、何があるんだろう」


 と。


 私は意を決して、森の中へ続く一本道を進んだ。


 入口から少し入ると一気に薄暗くなり、本当にお化けが出そうな、ともすれば別の世界へ通じているような雰囲気だった。道の脇には壊れた自転車が無造作に放置されていたり、物置みたいな小屋があったり、何とも不気味である。


 進むに連れて木々はその濃さを増し、風が葉っぱを揺らす音しか聞こえなくなった。私は恐怖と不安で「引き返す」と言う選択肢が思い浮かんだが、僅かに好奇心が勝った。


 これは冒険なのだ。この道の先に、きっと何かがある。少年の心を満たす何かが……


 どれくらい歩いただろうか。


 少し視界が開けて来た。


 ――もう少しだ!


 直感的にそう思った。自然と早足になる。やがて上り坂は終わり、道は平らになった。


 道の先には……


 何もなかった。


 道は丘の向こうの田んぼに繋がっているだけだった。お化けが出る事も、ましてや別の世界へ通じてもいない。


 まさに、拍子抜けだった。子どもながらに私は思った。


 宝箱は、「中身は何だろう」と想像している時が一番楽しい。例え中身が空の「ただの箱」だとしても、開けるまではキラキラ輝く宝箱なのだと。

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