第128話暇

狭い駅ビルの3階に


木村探偵事務所はあった。


「あ~暇だな。」


木村太郎はアクビをした。


「おっはー!」


と事務員の田村美保がテンション高めで事務所に入って来た。


「美保ちゃん、今日も元気だね。」


「昨日の、合コンで一番人気だったんですよ!」


「ふーん。」


興味ない感じで太郎は髪の毛を掻いた。


「美保ちゃん、今日の予定は?」


「午前100匹に午後も100匹、犬の散歩です。」


「マジか~。」


美保が微笑して


「相談窓口が、200人のご予約です。」


と言った。


警察署でしていた仕事が署長に認められて事務所を作ってもらっただけの公共施設だ。


探偵は、建前である。


警察官に変わりはないのだ。


「木村さんって、暇だ~が口癖ですよね。全然忙しいのに。」


美保は、首の関節を鳴らしながら言った。


「あーそうかもね。」


太郎は、口をパッカーンと開けて答えた。


「木村さんって、モテるけど、合コンとか行ったらずっと一人で漫画読んでそうですね。」


「うん、その通りだね。」


「でも、マジで奥さん美人ですよね。」


太郎は、うーんと考えた。


「美人かな?」


「自覚してないんですか?自分の奥さんじゃないですか。」


うーんと太郎は唸って考え込んでしまった。


「新婚の時と変わらないんだよね。あずあずは。」


「あずあずって呼んでるんですか?」


「うん。」


「妬いちゃうな。」


「何で?」


「鈍感ですね。」


美保は、窓を開けて言った。


太郎も微かに感じる外の空気が凍てついているのを。


「うわ、行列ですよ。」


「本当だ、ダメ探偵に…来てくれるのはありがたいけどね。」


太郎は、ニッコリと笑った。

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