第120話暗い空


「何か今日は暗い空だな。」


「春男ちゃんの命日なんじゃない?」


「縁起でも無いこと言うなよ。」


太郎は、ふてくされている春男を見て舌を出した。


「ドラゴンフッシュの居場所は分かったのかよ?」


「さてね?」


太郎は、コタツの中に入っていった。


仮眠室で春男はタバコを吸いながら貧乏揺すりが止まらない。


「ねぇ、春男ちゃん、人は何故、人を殺したらいけないと思う?」


「そんなの当たり前だろ。」


「もっと、具体的に答えてよ。」


「人権じゃないのか、人は殺されると人権がなくなる。そういうものだろ。」


太郎は、コタツの中から出て冷蔵庫を開けてコーラを飲んだ。


「春男ちゃんにしては素晴らしい答えだね。」


「おう、誉めてんのか?」


「昔は仇討ちが許されてたけど、今は、犯罪者が保護されて被害者は泣き寝入りだよね。」


春男は、難しい顔をした。


「それを排除しようとしてるのが、たっちゃんだ。」


「それは、難しすぎだろ?」


「分からないよ。たっちゃんが総理大臣にでもなったらね。」


太郎は、コーラを飲み干した。


やはりやめられない…人を殺す事を…。


ドラゴンフッシュは、アーミーナイフを握りしめて木陰に隠れていた。


いつからか?俺の中で性欲より殺人が勝ったのは?


母親という人間に捨てられた時?


いや、俺は母親という人間の腹の中にいる時を記憶している。


最初は、幸せだった。


しかし、父親という人間が俺を殺せと言った時に腹の中は冷たいロッカーになった。


俺は、生まれた時に泣かなかった。


母親という人間が施設の前に俺を放置した時は確か雪の降る季節だった。


俺は、人の未来を奪うモンスターになった。


大学を首席で入学して卒業した時には人を殺していた。


特に、妊婦を殺していた。


妊婦を殺して腹の中にいる赤ん坊を殺した。


二つの命を同時に奪う。


世の中は、不公平と不平等が蔓延している。


そんな暗い未来を子供に託すのは危険過ぎる。


学校に、朝、笑顔で行って死体になって帰って来る可能性は高い。


だから、殺すんだ。


たっちゃんは、ニイクラ、喜一郎、健太郎に聞いた。


【殺し屋は、何で人を殺めても良いのか。】


ニイクラ


「分かりません!」


喜一郎


「考えた事なかった。」


健太郎


「殺し屋だから。」


「そう、健ちゃんが正解。俺達は、殺し屋だから殺しても良い。そうやって正当化するしかないだろ。」


【さぁ、ここにドラゴンフッシュがいたら何て答えるかな?】


ニイクラ


「変態野郎の気持ちなんて分からねー。」


喜一郎


「ぶっ飛ばす!」


健太郎


「殺しが堪らなく楽しいから。」


たっちゃんは、不敵に笑って窓の外を見つめた。

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