第32話渦巻く



「木村さーん。あれ?」


仮眠室で、いつも寝ている太郎の姿がなかった。


梓は、報告書を手持ちぶさたにしていた。


たまに、太郎は、黙って居なくなるが今回はちゃんと休暇届を出していた。


「よお、あずあず、木村見なかったか?」


廊下ですれ違った春男が梓に聞いて来た。


「休暇だそうです。」


「は?あいつが?おかしいな…。いつも仮眠室で、サボってても長期間休むなんて有り得ん。あずあず、あいつの家、帰りに覗いてくれないか?」


「はぁ…。良いですけど。」


夕方の独身寮は、静まり返っていた。


来年には、取り壊して新しく建て直すらしい。


その間、太郎は、仮眠室で過ごすのかな?でも、ルナもレナもミルキーもいるしな。


梓が、インターホンを押してもいつもの犬の声がしない。


「木村さん!居ますか?」


扉を叩くが、人の気配がない。


「あんた、木村さんの相方?」


突然、背後から声を掛けられて梓は、びっくりした。


若いが、どこか落ち着いている男が立っていた。


「はい…。」


「ふーん、もう木村さん消えたんだ。」


「消えた?」


「まぁ、具体的には消されたかな。」


男は、扉を背にして愉快そうに言った。


「消された?」


「忠告に来たけど遅かったか…。」


男は、タバコに火をつけると深く吸い込んだ。


男は、「あんたも気を付けなよ。」と言うとタバコを地面に捨てて靴の裏で擦った。


「あなたは、誰?木村さんが、どこに行ったか知ってるの?」


「俺は、田島。それは、俺の方が聞きたいね。」


田島と名乗った男は、そう言うと梓の前から消えた。

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