第44話 69ersの猛攻
翌朝、コロシアム付近には中に入り切れないほどの大量の観客が詰めかけていた。元々69ersは人気チームだし、前半最終戦の山場だから当然かもしれないけど、今後チケットを有料にしたら、一試合当たりどれだけ儲かるのかしら? ノーブラもマオの言う通り、今のうちに観客動員を増やしておかないと、チームの資金力に差がついてしまうかも。それがそのまま今後のチーム力に反映されそうで怖いな。
うちの選手たちは心なしか緊張しているみたいで、控室にも落ち着かない空気が漂っていた。トミーは気合いが入り過ぎているかもしれない。目が少し充血してるし。私は練習時間より少し早めにベンチに入ると、フィールドを確認した。昨日から変わったところは特にないみたいね。
あ、ノールランドからもファンが来てくれてる。それも結構な数。ありがたいとともに、彼らが座れる席があったことに少しほっとした。
スターターの選手たちがフィールドに現れると、場内に声援が響いた。
「ジョンモンタナー!」
「デヴィッドーッ!」
「ババンガバンバンギダーッ!」
「ミオちゃーん!!!」
最後、野太い声が聞こえた気がしたけど、気のせいだと思います。はい(笑)。
その後、相手選手がフィールドに現れると、場内から大歓声とウェーブが沸き起こった。ノール・コロシアムとはスケールが全然違う。あまりの壮大さに私は思わず呆然としてしまった。
そんな中、コイントスで69ersの先攻が決まり、試合が始まった。彼らはいつも通りの
1stダウン、ジョセフはモーションをかけ、こちらのマンツーマンを確認してからランを選択。2人のRBが同時にジョセフに走りこんでボールを受けると、中央右を抜けに来た。ボール
2ndダウン、ジョセフは再びモーションをかけ、今度はパスを選択。ただ、今度は2人のRBが左翼に走り、力任せに突破してきた。穴があいたところを左前から後ろに回り込んでいたWRに抜けられ、パスを通される。マイキーがタックルで押さえたものの12ヤード進まれ、ファーストダウンを取られてしまった。
これで浮足立ったのか、続く1stダウン、ディフェンスラインがジョセフのハードカウントに引っかかり、反則を取られる。スタート前にあわてて相手につっかけちゃったの。これで69ersは労せずして5ヤード前進。
3-4フォーメーションへの変更で私が懸念していたのが反則だった。これまで4人だったラインの人数を減らすと、それだけ彼らにプレッシャーがかかるわけで。もちろんタイミングをみてフェイクを仕掛けてきたジョセフが上手かったんだけど。
ここでマスターがタイムアウトを取った。
「あまり動きすぎず、気負いすぎず、落ち着いて行け!」
「「オッス!」」
後から考えると、相手はトミーのインターセプトを懸念してかロングパスは投げてこなかったの。そのかわりランで押しまくられることになってしまった。クラウゼヴィッツ戦で私が予感した「勝ちに行く」戦術をジョセフは最初からとってきたのね。
ノーブラの守備陣もなんとか応戦するものの、相手の出足がいい。気合が乗っているというか、迫力があるの。単純にランで押す中にも技術を見せてきて、簡単には倒れず、こちらの傷口を広げてくる。うちの選手も決して悪くはないんだけど、早いうちに反則を取られたせいか、タイミングに苦しみ、勢いで負けてしまっていた。
結局そのまま時間をかけてランで押し込まれ、タッチダウン。キックも決まり、7-0と先制されてしまう。
一方のこちらの攻撃、相手は守備でも地力を活かしてマンツーマンでこちらの動きを止めてきた。1stダウンでパスを選んだジョンはボールの出しどころを奪われて、いきなりサック寸前に追い込まれたの。こちらの動きが読まれているってわけではないみたいだけど、さすがスター集団だけあって、守備もうまい。結局こちらの攻撃で通用したのはベンちゃんの突破だけで、距離を稼げず無得点に終わる。
続く相手の攻撃、彼らはやはりランで押しまくってきた。ラインの人数が足りない我々はどうしても後手を踏んでしまい、徐々に後退していく。タッチダウンまで残り10ヤードまで追い込まれたとき、一度4-3フォーメーションに戻したものの、今度はジョセフのもくろみ通りに相手ボールホルダーの動きを見失ってしまい、一気に走りこまれてしまった。これで14-0。
なんとか攻撃の糸口をつかもうとしたジョンは、早いうちにワイルドキャットフォーメーションを試みるも、これは完全に読まれていた。相手ディフェンスラインにすばやく左右に展開されると、対応しようとしたこちらのオフェンスラインが動いて、中央に穴があいた。そこに相手LBが躊躇なく突っ込んできたの。中央突破しようと走りこんだベンちゃんがカウンタータックルをくらってボールをこぼすと、そのまま相手に拾われ、いきなり攻守交替。
再び敵の1stダウン、こちらはもう一度4-3フォーメーションに戻したんだけど、2人のRBが同時にジョセフに走りこみ、どちらにボールが渡されたかわからない展開からスタートすると、その2人は左右に分かれ、両者ともディフェンシブラインの横を抜けた。マイキーがタックルで抑えるも、いきなりランで6ヤード奪われる。想定していた動きだったけど、スピードとテクニックでかわされてしまった。
次の相手の攻撃も再びラン。今度は相手の右側に2人のRBに走られる。ティポーがブロックに行くも、壁となるRBに阻まれ、もう一人のボールホルダーに抜かれてしまった。結局2プレーでファーストダウンを奪われたの。
ここでマスターが2回目のタイムアウトを取り、カルナックに確認した。予想以上に動きにキレがあるらしい。確かにここから見る限りでも、相手を調子づかせてしまったのかどんどん速くなっているように思えた。試合の流れは69ersに傾きつつあったの。
「もう一度ゾーンで守り、その結果に関わらず、次はマンツーマン。その後交互に。ディフェンスラインはもう少し開き気味に行け!」
マスターが相手ペースを断ち切るために守備にメリハリをつけるよう、端的に指示を出すと守備陣は再びフィールドに戻っていった。マスターの表情は終始変わらなかったけど、その隣にいたジョンの表情は曇っていた。
続く相手の1stダウン、ジョセフは様子見でゆっくりモーションをかけ、こちらが動かないことを確認すると、パスの姿勢に入る。ティポーは相手WRを抑えたものの、逆サイドのWRに抜けられ、きっちりショートパスを通された。
タッチダウンまで残り20ヤードのところで再び1stダウン。相手のモーションに対し、こちらがマンツーマンで対応すると、今度はラン。相手のRB2人に対してこちらも2人ついていたものの、一人をうまく壁に使われて突破され、タッチダウンを許してしまった。一度相手に傾いた流れは簡単には元に戻らなかったの。
相手のキックが決まる中、マスターは静かにフィールドを見つめていた。
これまでの相手の作戦や動きはどれも過去の試合で見てきたものだった。にもかかわらず止められないのは、相手選手のスピードが一瞬速いから。
代わってこちらの攻撃。最初はランで様子を見る。しかし、ベンちゃんの特攻は相手の分厚いラインにはじかれた。本来は中央から行く予定ではなかったのだけど、左に走った後、相手のラインがターンでベンちゃんの前に立ちはだかったため、やむなく中を突くしかなかったの。相手の守備陣まで勢いづいてしまったみたい。
その後は何度かファーストダウンを奪ったものの、相手の分厚い守備にはじかれ、パスも出せず、フィールドゴールさえ奪えない。マスターが前半最後のタイムアウトをとって喝を入れたけど、状況は好転しなかった。
守備では再び3-4フォーメーションを試みるも、相手の勢いを止められないまま、後退を繰り返すことに。前半が終了したときには5タッチダウンを奪われ、スコアは0-35まで開いていたの。
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