第15話 自分らしく
翌朝。リリアナは久し振りにスッキリと目が覚めた。
近頃はずっと悶々としたり悩んでばかりいたせいで、良い睡眠がとれているとはお世辞にも言えなかった。今、これだけスッキリとしているのは久し振りだと言える。
自分を包み込む柔らかな布団からむくりと起き上がり、大きく伸びをしながら窓の外を見ると陽が昇って明るいが、時間で言えばまだ早朝と言う時間帯だろうか。
「……久し振りによく寝た」
昨日散々泣き腫らしたせいで瞼はとても重たくて熱を持っている。だが、命一杯泣いた分心が軽くなったようだった。
リリアナはそっとベッドを降りてカーテンを開くと、眩しい陽の光が差し込んでくる。
一瞬まぶしくて目を眇めるが、窓の外に映るまだ見慣れない景色が何故だかとても輝いて見えた。
「よし」
そう呟いて、リリアナは大きく息を吸い込んだ。
もううじうじするのはやめなければ。自分にはこれからやることが沢山あるのだ。ここで生きていくと覚悟を持って出てきたのだし、泣き言は出来る限りもう言いたくない。
「よし」
いつまでも悩むのは性に合わないと気合を入れ、リリアナは着ていた夜着をベッドの上に脱ぎ捨てた。そして自分で普段着に着られるようなドレスを選び出して着替えを済ませると、寝室を出た。
顔を洗おうとしてはたと動きが止まる。そう言えば桶もタオルもなければ水もない。
「……そっか。ドリーが来てくれるまで洗えないんだ」
不便だ。村にいた時なら自分で汲みに行って桶に水を張れるのに。
こういう時は身分が高い人は自由が利かないのかもしれない。そう思うと慣れるまではやり辛さを感じてしまうだろう。だが、これにも慣れて行かなければ。
そう思った時、部屋のドアがノックされた。
「リリアナ様。おはようございます、ドリーです」
「あ、はい。どうぞ」
待ってましたとばかりに声をかけると、ドリーが部屋に入ってくる。そしてリリアナの姿を見た瞬間、驚きに目を丸くしながら口元に手を当てた。
「リリアナ様、もう起きていらっしゃったんですか? それに着替えまで……」
「うん。おはようドリー。昨日はごめんね?」
腫れぼったい目をしながらも、明るく笑いながら謝るリリアナに、ドリーは首を横に振った。
「いえ、いえいえ。部屋に戻った時リリアナ様がバルコニーで泣き崩れていた事は確かに驚きましたけれど……。もう大丈夫なんですか?」
「うん、もう大丈夫。ビックリさせちゃったよね。本当にごめん。実は村でさ……」
この際だから全てを告白しようとすると、ドリーはあえてそのその言葉を遮ってきた。
「具体的には存じ上げませんが、リリアナ様のご事情は承知しております。大変な思いをされてきたのに、何のお力にもなれず心が痛みます」
「ううん、そんな事ない。これから先もドリーと一緒にいると、あたしどんどん元気になれる気がする」
「え……?」
「ドリーはとっても元気だし、面白いし。たぶんあたしたち年が近いと思うんだけど、気が合いそうだなって思ってる。だからドリーがいてくれると凄く落ち着くんだよね」
リリアナのその言葉に、ドリーは俄かに頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。
彼女の存在は確かに心を元気にする為にも絶対になくてはならない存在だと思った。自分が元気を貰う分、ドリーに何かあった時は自分が支えになろう。リリアナはそう心に誓う。
これからは、自分が皆を元気にしなければ。
気合十分。もう後ろは振り返らないと決め、リリアナは近くのソファに腰を下ろした。
ドリーはそんなリリアナ傍で持ってきた桶に水を張りながら、口を開く。
「リリアナ様は今日はどうされますか?」
「え?」
「しばらくは特にご予定もございませんし、何かご要望があるのでしたらお供いたしますが……」
桶に張った水にタオルを浸し、軽く絞ってからリリアナにそれを手渡しながらドリーがそう訊ねると、リリアナはタオルを受け取りながら首を傾げた。
「要望って言われても……。あたしには何が出来るの?」
「そうですね……。特に規制はかかっておりませんから、大抵の事であれば出来ると思います」
「じゃあ外出も?」
思いつくままにそう答えると、ドリーは困ったような笑顔を浮かべて首を横に振る。
「申し訳ありません。城の外への外出はよほどの御用がない限り認められないんです……。今は17年前ほどではないにしろ、戦の渦中にございます。まして、王族の方が外に出られるとお命を狙われかねません」
ドリーの言葉は納得できた。
確かによく考えればあっちこっちと勝手に出歩ける王族と言うのもおかしな話ではある。公爵や伯爵と言う身分であればまだ自由も利くのだろうが……。
「じゃあ、お城の中だけしか移動できないんだ?」
「えぇ。他国からの招待がある場合などは別ですが、通常は城内にいて頂くようになると思います。あ、そうですわ! もし宜しければ城内散策へ出てみませんか? まだこの城の事をご存じではありませんよね?」
城の中だけしか移動が出来ないと言うのはなかなか不便だと思うが、まだここへは来たばかりでこの城の事を何も知らない。ドリーの言う通り、城内散策と言うのもなかなか面白そうだ。
「じゃあ、そうしようかな」
「かしこまりました。では、朝食がお済みになりましたら参りましょう」
ドリーはニコニコと微笑みながらそう答えた。
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