艦隊の消失

日付が変わって首都は雨が降り続いていた。

「サーベル総帥…」

無風に等しいほどの穏やかな雨を走る車の中は沈黙していたが、不意にユキがサーベルに声をかけた。

「ん…?なんだ?」

眠りかけていたサーベルが身体を少し起こし聞いた。

「どうすればいいのでしょう…」

不安げな顔ではなかったが、声は不安であると言わんばかりに小さかった。

「そうだな…」

サーベルは少し困った。

なんでも自己解決できるユキが初めて弱音を吐いたからだ。

そしてサーベルも同じように悩んでいた。

「それは…自分で見つけるべきではないかな…」

サーベルはユキに委ねた。

委ねたというより、サーベル自身、答えを見つけられなかったから押し付けたという言葉の方が合っているのかもしれない。

その時間は長くなかったが、首相官邸に着いた。

「サーベル総帥、お待ちしておりました。」

官邸職員が2人を出迎えた。

「首相と10時の約束だったが…少し早かったか?」

サーベルが職員に腕時計を見ながら言った。

サーベルの腕時計は9時47分になっていた。

「申し訳ございません。首相は電話会談をされております。終わるまで今しばらくお待ちください。」

職員は深々も頭を下げた。

「仕方ない、待とう。」

「その必要は無いぞ。」

職員の奥から男が歩いてきた。

「首相!電話会談中では…」

職員が近くまで行き言った。

「向こうに事情を言ってまた今度にしてもらった。」

首相は懐のスケジュール帳に書き込みながら言った。

「トリー、明後日の3時半からまた会談する。予定を入れておけ。」

首相がそう指示をすると一礼してホールを後にした。

「首相、私はこれで…」

「サーベル君、君も来るんだよ。君は私が忖度そんたくしないという承認になってくれたまえ。」

帰ろうとするサーベルを首相が止めた。

「しかし、私にも仕事がありますゆえ…」

「仕方あるまい。戻ってくれて構わん。」

サーベルは首相の願いを断った。

首相は口をへの字にして諦めた。

「なら、ユキ主席1等飛空尉。こちらへ…」

ユキは首相の案内で応接室に向かった。

質素のような白を基調とした広い部屋だった。

「失礼します。」

ユキは一言言い部屋に入った。

「まぁここに座りたまえ。」

首相が座るようにと手で指示した。

ユキはそのソファに腰掛けた。

「わざわざ呼んで申し訳ないね。」

そう言い首相も1人がけのソファに座った。

「言うまでもない、私が首相のアイフマンだ。」

首相が胸を張り自己紹介した。

「まず、何を話そうか…」

呼びたてたくせに何を話すか整理していなかった。

「首相。」

意を決したようにユキが呼んだ。

「なんだ?」

飲み物を片手に首相が聞いた。

「紅の飛空士は今も夢を持っている…」

ユキがそう呟くと、首相は目を見開いてユキを見た。

「またその台詞を聞くとは…まるで夢の中にいるようだな…」

首相は明らかに動揺していた。

「ギャン=ニーザのことを聞きたいんです。」

その言葉を聞くと首相はフリーズした。

目を瞑り呼吸を整えた。

2人が官邸で対談している頃、国境付近の海では海戦が繰り広げられていた。

「こっ…こちら、巡洋艦クリスファー!左舷被弾!死傷者多数!今から首都へ…」

マデランの巡洋艦、クリスファーが大きな火柱を上げた。

「こちら、レードル!クリスファー聞こえるか!?」

クリスファーは応答しないまま船首が天を仰いだ。

「こちら、海軍軍艦レードル!セントルに続いてクリスファーまで撃沈!戦局悪化!我々は…限界です!」

軍艦レードルの艦長、ライオンが本部に向け発信した。

それは首都に届いていた。

「何事だ!」

海軍総帥オータムが言いながら入ってきた。

「ライオン中将から正体不明の攻撃を受けたと連絡がありました。」

通信兵がオータムに伝えた。

「被害は?」

「巡洋艦セントル、クリスファーが撃沈、現在撤収中ですが、次々に被弾し限界であると…」

通信兵が詳細を記入した紙を見ながら言った。

「敵の武装形態はなんだ?」

オータムが聞きながら上着を自分の席に掛けた。

「それが…」

通信兵は言葉に詰まった。

「なんだ、言わんか。」

上着をかけたオータムが通信兵の元に歩いて来ながら言った。

「敵艦隊、及び敵機を視認できず…トマホークが…」

通信兵が言いかけるとオータムが机を叩き、大きな音を鳴らした。

「では何故見つけられなかったのだ!巡航ミサイルと言えど、レーダー補足くらいは出来たであろう!」

その声で全員頭が下がった。

「どうした。」

その顔を見てオータムはおかしいと気づいた。

「第4艦隊は…全艦レーダー補足出来なかったそうです…」

オータムは驚いた。

第4艦隊はレーダー補足を得意とする、エンドの布陣主要戦力が巡航ミサイルを1発も補足できなかったのだ。

戦艦レードルを始め、巡洋艦2隻、レーダー駆逐艦3隻、空母1隻、潜水艦1隻の計8隻。

レーダー補足を得意とする第4艦隊をくぐり、巡航ミサイルを当てられるわけがなかった。

「…全艦レーダーの故障はないのだな…?」

オータムは動揺しながらも別の可能性を考えていた。

「はい…第4艦隊は先月機材の総替えをしましたので…」

オータムに怯えながら、また正体不明の攻撃に驚きながら通信兵は答えた。

「…しばらくここを頼む、第4艦隊には海域を離脱し撤退するよう伝えてくれ。」

「はっ!」

オータムはそう言い残し出ていった。

通信兵は伝言を伝えに管制卓に座った。

「こちら本部、戦艦レードル、今すぐ当海域を離脱、首都へ帰投せよ。」

『…それは…出来ない…』

その言葉に通信兵は違和感を覚えた。

「オータム総帥からの命令です!従ってください!」

『繰り返す、それは出来ない…』

「何故…ですか…?」

『第4艦隊は…壊滅的…レードルも被弾…エンジンルームに浸水…自走不能…第2射が来る恐れありとし…これより自沈する…!』

「待ってください!被害報告を先にください!」

自沈宣言を聞き反射的に言った。

『第4艦隊で…海に居るのは…レードルだけだ…』

「分かりました。必ず生きて帰ってきてください。」

『それは…出来ない…』

「必ず帰ってきてください!」

『艦長の職をよく知ってるか…?通信兵よ…』

通信兵は言葉に詰まった。

『このレードルで何年も仕事こなしてきたんだ…副艦長に報告を頼みカタパルトより本部へ向かった…ここは私に任せてもらおう…』

その言葉を最後に通信が切れた。

「ライオン中将!」

その言葉は間に合わなかった。

その頃首相官邸では首相とユキが話を終えていた。

「では、そういう事でいいかね?」

書類の束をめくりながら首相が言った。

「大丈夫です。はからいに感謝します。」

ユキは座りながら頭を下げた。

「いやいや、大丈夫だ。」

書類を置いて首相が言った。

その時、応接室のドアが勢いよく開けられた。

「首相!大変です!」

そういうのは秘書だった。

「なんだ貴様、ノックぐらいせんか!」

首相はそう怒鳴りつけた。

「失礼しました、首相、緊急の知らせで…」

秘書がそう言うと2人で耳打ちをし始めた。

「わかった。すぐ行く。」

そう言うと首相が書類を片付け始めた。

「何があったんですか?」

そうユキが聞いた。

「国境付近で第4艦隊が撃沈された。それも正体不明の攻撃により、だ。ユキ大尉も来てもらう。」

「しかし、サーベル総帥が…」

「彼も来る!いいから急ぎたまえ。」

首相はユキを強引に連れていった。

その時、海軍本部は混乱状態だった。

「どこからの攻撃なのか調べろ!あと艦隊の消息を掴むんだ!」

慌ただしくケーン中将が指示を出していた。

「ケーン中将、現状は。」

そこに首相とユキを連れたオータムが聞いた。

「はっ!現在艦隊の消息は不明、攻撃地点も不明で、攻撃を受けた地点はボンレス海のK地点周辺であるという所まで掴んでおります。」

ケーンが胸を張り答えた。

「こういう時は…」

首相はそこまで言いかけユキを見た。

「首相、この子は…?」

ケーンがユキを見下げて聞いた。

「空軍のユキ=ニーザ大尉だよ。」

首相が紹介した。

「ニーザ…ギャンの娘さんでありますか…?」

少し驚き首相に聞いた。

「そうだよ。ファメス中将とサーベルのゴリ押しでな。女性入軍の架け橋だよ。」

そういいユキの肩をポンポンと叩いた。

「面影がありますね。私は海軍中将、ケーン=モローバーだ。よろしく。」

そういいケーンとユキは握手交わした。

「ギャンの夢が叶うわけですね…」

ケーンはやっと終わったかのような顔をした。

「ケーン中将!」

するとある通信兵がケーンを呼んだ。

「今行く!すみません、また後で。」

そういい通信兵の元へと走った。

「なにか分かったかね?ユキ大尉。」

小さな声で首相が聞いてきた。

「攻撃は恐らく…」

ユキはひそひそと話した。

「ギャンであればと考えていたが…親子でも思考回路は違うようだ。」

そう悔しめな表情を見せた。

しばらく待つとケーンが戻ってきた。

「首相、攻撃地点は以前不明ですが、生存者の乗る救命ボートが探知されました。」

ケーンが報告した。

「なら、その地点にユキ大尉、君を派遣しよう。見つけて知らせてくれるだけでいい。」

首相がそういい背中を押した。

「行ってこい。」

その一言でユキは動いた。

部屋を出ると首相が動いた。

首相は受話器を取り、電話をかけた。

「海軍本部から掛けている首相のアイフマンだ。海軍艦隊攻撃の件で空軍基地から戦闘機と偵察機のスクランブル発進を許可する。ユキ大尉がそちらにつき次第飛んでくれ。」

そういい受話器を元に戻した。

「ついに動いたのか…」

そう言い首相は椅子に重い腰を下ろした。










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