殉職

「メルディー少佐…」

スーザが今にも消え入りそうな声で呼んだ。

「スーザか…無事でよかった。」

メルディーは包帯だらけの身体を起こした。

「駄目です!そのままで…」

「なぁーに、目の一つや二つ、腕の一本や二本、生きてることだけでも感謝だよ。」

身体を起こすのをスーザが止めたが、メルディーは無視して起こした。

「すみません…私のせいです…」

スーザはそう言い頭を下げた。

「それは俺が死んだ時に言ってくれ。どっちにしろ、俺がお前を救っても救わなくても、結果どちらかが撃墜されることになる。お前よりテクニックがある俺だから水平に着水できたんだよ。お前の場合真っ逆さまかな?」

スーザをバカにしたような言い方でメルディーが言った。

「腕と足はなんとか治るだろうが…目がやられちゃ飛空士としては…正直復帰は無理だろうな。」

後ろからファメスが言いながら部屋に入ってきた。

「そうですね。元々私は飛ぶほうじゃなくて、飛ぶやつに指示をする方が図にあってますから。」

諦めトーンでメルディーが言った。

「昔からお前は大怪我するくせに命だけは拾って帰ってくるからな。その強運欲しいくらいだ。」

ファメスはそう言いながら椅子に掛けた。

「まぁ、その強運いつまで持ちますかね。」

ファメスに茶を出しながらそう言った。

「別にいいぞ?」

「私からしたら見舞いに来られたお客さんなんで。少しくらいはもてなさせてくださいよ。」

止めるファメスにそう言いスーザの分の茶も淹れた。

2人は出された茶を飲み干した。

「お前のことだ、毒は入れておらんだろう。」

「おちょくらないでくださいよ。」

2人はじゃれ合うように言った。

「まぁ、本題に移らせてもらおう。」

飲み干したコップをファメスがメルディーに返しながら言った。

「お前の勇敢さが報われたぞ。」

ファメスがそう言うと大きい封筒をメルディーに渡した。

「これは…?」

メルディーは受け取りながら聞いた。

「今言っただろ?「勇敢さが報われた」って。」

それを聞くとメルディーは封筒を開け、中を見た。

『メルディー少佐宛

先日の海戦において、自分の命を顧みず仲間を守り戦い、国へ貢献したとして、メルディー3等飛空佐へ、2等飛空佐への昇格を認めると共に、護衛艦サーザーの副艦長職を命ずる。発、海軍総帥、サーベル=フォン=ベル』

と書かれていた。

「確かに…」

メルディーが静かに呟いた。

「メルディーが元気なのは分かったし、私たちも戻るとするか。」

その姿を見たファメスは椅子を立ち、濡れた上着と鞄を持った。

メルディーはその後ろ姿に敬礼で見送った。

「ファメス中将!」

スーザが病棟の廊下で呼び止めた。

「スーザ、ここは病院だぞ。」

控えめな声でファメスが注意した。

「すみません。」

スーザがファメスの背後で止まりそう言った。

「スーザ…」

ファメスがスーザに背を向けて言った。

「仇を取りに行くぞ。」

「はい!」

二つ返事でスーザとファメスは急ぎ足で病院を出た。

その頃、護衛艦サーザーはまだ大人しい嵐の中にいた。

「雨の音が私たちの心を落ち着かせてくれるな…心地よい風だ…」

ノールは艦橋で窓を開け風を感じながら呟いた。

「ノール艦長!」

デイヴィッドが艦橋に飛び込んできた。

「なんだ?騒々しいな…」

ノールが窓を閉めて言った。

「ではでは…失礼しました。」

デイヴィッドが艦橋のドアの鍵を閉めて言った。

「お前…デイヴィッドじゃないな…?」

ノールが艦長席から降りて聞いた。

「皆さん優秀ですねぇ…少なくとも、我々の時代でこんなに優秀な兵はいなかったですよ…」

声は別人だった。

「私に何の様だ。」

ノールは単刀直入に聞いた。

「随分と察しが良いですなぁ…」

男は艦橋を歩き回りながら言った。

「だから何の様だ!」

ノールが声を荒らげて聞くと銃声がした。

艦橋の床に空薬莢からやっきょうが落ちる音がした。

カラン…コロン…

「こういう用ですよ。ノール艦長。」

男はノールを撃ち、捨て台詞のように言った。

「うぐっ…うがぁ…」

撃たれたノールは吐血とけつしながら床に崩れた。

銃声は客船の方まで聞こえた。

「なんだこの銃声は!?」

「誰か連絡しろ!」

客船で騒ぎになると同時にサーザーでも騒ぎになった。

「艦長!開けてください艦長!」

通信兵がドアを叩き叫んでいた。

「どうしたんですか!?」

艦長室で銃声を聞いた2人が艦橋に上がってきた。

「それが、休憩時間を終えて戻ろうとしたら銃声が…」

「ここには艦長が残っているんです!」

船員たちが切迫して言った。

「仕方ないわね…」

ユキとニーアが顔を見合わせて外に走った。

「ちょ…ユキ大尉!」

通信兵の静止を聞かぬまま2人は外に出た。

「ニーア!あれ、撃てる!?」

ユキは左舷の降り梯子はしごを指差した。

「全然!大丈夫だよっ!」

そう言うとニーアはホルスターから拳銃を出して、梯子に照準を合わせた。

「いける…!」

ニーアの拳銃が火を吹いた。

銃弾は梯子を留めていたひもに命中し、梯子が降りた。

「ニーア!内側から開けるから艦橋のドアの前にいて!」

ニーアは走って戻るとユキはすぐさま登り艦橋に着いた。

「ノール艦長!」

ユキがノールに駆け寄った。

「に…ろ……」

消え入る声でノールはユキの胸ぐらを掴み発した。

「ノール艦長!しっかりしてください!」

ユキは傷口を見つけ、抑えながら言葉をかけた。

すると後ろで縄梯子が落ちる音がした。

カラッ…コロロ…

そしてユキの後頭部に銃が突きつけられた。

「チェック…メイト…!」

男が決め台詞のように言い放った。

「あなた…友軍じゃ…ないわね…?」

ユキが背後の人物にそう問いかけた。

「ほほぉ…やっぱり優秀だな。」

何者かが言い放った。

「ノール艦長になんの恨みがあるの…?」

ユキがノールの傷口を布で押さえながら質問した。

「こいつはレスト島拉致の後、レンドルン報復作戦の提案をしたんだ。我々の基地を海から吹っ飛ばしやがった…!!ノール…こいつだけは…殺す…!!」

絶体絶命と言える状況だった。

「今できることはそれだけなの…?」

ノールの傷を押えながら聞いた。

「これが…俺の報復だ…!」

力が入り過ぎて男の拳銃はカタカタと音を立てた。

「この人を殺して…あなた達の基地は帰ってくるの…?」

ユキの言葉に男は一瞬戸惑った。

カタカタと音を立てていた拳銃が音を立てなくなった。

「レスト島の心の傷も身体の傷も、あなた達を殺しても戻らない。私はそう思います。」

男の拳銃は次第にユキの後頭部から外れていった。

「復讐に復讐を重ねるのは、復讐しか生まない。あなたで絶つべきなんです。この連鎖をあなたが絶つことで傷は癒えるのです!」

ユキの言葉で男は膝から崩れた。

ユキは傷口から手を離し、艦橋のドアを開けた。

血まみれの手を見た船員は慌てて医療班を呼び、数人は艦橋に入り男に銃を向けた。

「お前!銃を捨てて頭の後ろで手を組め!」

船員がそう言い放ち囲んだ。

「私は…仲間を…見捨てられない…」

男は床に手と一緒についた銃をゆっくり持ち上げた。

パンッ!

パンパンッ!

船員が男めがけて発砲した。

銃は完全に床に落ち、男は血まみれで壁にもたれかかり、びくとも動かなかった。

「頭を撃ち抜いた。助からないだろう。」

船員はそう言い拳銃をしまってノールに駆け寄った。

「艦長!」

ユキが必死に傷口を押さえた。

しかし出血は止まるどころか増えていった。

「ユキ…もうよい…」

ノールは血まみれの手でユキの頬を撫でた。

「そろそろ…逝く時が来たか…俺も老いたな…」

自分の死期を悟ったかのように呟いた。

「ノール艦長、まだあなたは死んではいけない!」

ユキは止血を試みるが止まらなかった。

「これが私の運命さだめだ…その手を離してくれ…」

ノールは止血するユキの手を掴んで言った。

もう力の入らない手で。

「ダメです!あなたはまだ…」

「ユキ…!これは…命令だ……手を…離せ…」

力を振り絞りその一言にかけた。

ユキは唇を噛み締め静かに手を傷口から離した。

「私は船乗りだ…船の中で人生を終える覚悟は出来ておる…」

その場にいる全員が下を向いて聞いていた。

「この戦いに…ケリをつけろっ…!」

\はいっ!/

ノールの言葉に全員が敬礼し応えた。

それを聞き安堵したかのように、目を閉じ、敬礼した後、力尽きた。

外の雨は…男の死に嘆いてる如く、強く降っていた…


次の日、雨の中、2体の遺体が搬出された。

サーザーの船員は接岸した左舷に全員整列し敬礼していた。

ユキ達は艦橋で敬礼していた。

陸には駆けつけた陸海空の兵士が整列し、敬礼して見送った。

サーベルやファメスはその死に悔しげな顔をして敬礼していた。

「あいつは…私が語れるほどの人間ではありませんでした。悔しい…悔しい限りですっ…」

今にも泣きそうな声でファメスがサーベルに言った。

「仇をとる人数が増えたな…」

傘をささせ帽子を被ったサーベルには、今の天気と同じく、一筋の雨が流れていた。

悔しさと部下を失った虚しさに濁った雨が頬を伝い、そして、落ちた…



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます