分岐点

ユキ達は護衛艦サーザーの艦橋はに居た。

「ノール艦長!」

副艦長のデヴィッドが艦橋に入ってきた。

「ファメス中将が見つかりました。アンスタツ郊外の小屋の中で拘束されてました。」

「やられたみたいだな。」

デヴィッドの報告を聞いてノールが一言呟いた。

「ノール艦長、どうしますか?」

ユキが聞いた。

「しばらくは様子見だな。下手へたに動くと、その元将官もとしょうかん上手うわてに出てくるからな。」

ノールが腕を組み考えた。

「とにかく、首都に入港して海軍艦隊と合流するのが先決だ。元将官の身元が分かったなら手配かけて警戒すればいい。」

ノールがそう言った。

「そういえば、スーザ達は?」

ユキが聞いた。

「スーザ大士とバン中尉は列車で、マロニス大士はバスで首都に向かっていました。スーザ大士とバン中尉はもう到着していて、ファメス中将救出作戦に参加していました。マロニス大士は原因不明の爆発事件で渋滞が発生していて、到着が遅れています。夕方になると聞きました。」

デヴィッドがそう説明した。

「よかった…」

ユキが安堵した。

「とにかく、そのドーバという男を捕まえればハッキリとするだろう。」

ノールが自信満々に言った。

すると通信兵が走ってノールの後ろに来た。

「ユキ大尉、サーベル総帥から伝言です。」

そう言いユキにメモを渡した。

『首相がユキに興味を持っておられる。もし首都に来るというなら日時をノールを介してこちらに教えてほしい。首相はユキの都合に合わせると言っておられるから到着し次第、こちらが用意した車で官邸へ向かってくれ。』

そうメモに書いてあった。

「ノール艦長。」

ユキが読んだ後にノールを呼んだ。

「なんだ?」

「サーベル総帥から首相が私に興味を持ってるらしく首都に入港するなら日時をノール艦長からサーベル総帥に教えてほしいとの事です。」

ノールはユキからそう聞くと少し考えた。

「うーん…ちょっと待ってろ。」

そういうと周りを見渡した。

「航海長!航海長はいるか!」

ノールは大声で呼んだ。

「ここにいます!」

声は左舷の見張り場所から聞こえた。

姿を現したのは航海長のベン=オドルビスだった。

「ノール艦長、何でしょうか?」

「ここの位置から首都に入港するまでどのぐらいかかるかね。」

ベンが聞くとノールが質問した。

「ここの位置と海流からすると…約…5時間。しかし、天候の影響もあるので6時間前後になるかと。」

ベンが地図を指差しながら説明した。

「天候は悪化するのかね?」

「低気圧が迫って来てますから大荒れになるかと。」

「なら入港は急がなくてはな。」

その会話に通信兵が割って入った。

「ノール艦長、気象台からの連絡で低気圧の接近で軍の第5、第8岸壁は使用禁止になりました。」

「確か第5と第8は東西に伸びてますから、この低気圧の進路では真横から風が来ることになります。岸壁に接岸する時に勢い余って激突する可能性で使えなくなったのでしょう。」

通信兵の情報からベンがそう推測し、説明した。

「なるほど…ほかの岸壁は使えないのか?」

ノールが通信兵に聞いた。

「今、国家幹部会議で陸軍と海軍の軍艦、軽巡洋、駆逐艦数隻と空軍のマメスで埋まっており、後は民間しか…」

そこで通信兵が言葉を詰まらせた。

「よし、わかった。もうすぐ国家幹部会議が終わる時刻になる。その時にサーベル総帥に入港予定時刻を連絡、民間港に停泊許可をもらい次第、港湾局へ入港の連絡しろ。」

ノールの指示で通信兵は敬礼し戻って行った。

「ユキ、早くても5時間から6時間後に入港する。」

「ありがとうございます。」

その会話が終わるとキャットラッシュの取り調べに同席していた船員が戻ってきた。

「取り調べはどうだった?」

「あれじゃあレンドルンの仕向けたということにはならなそうです。」

ノールの質問に船員はそう答えた。

ユキはえ?という顔をした。

「金持ちの乗る大型客船で盗みを働こうとしていただけで、テロではないと8人全員証言してます。ヘリは盗んだものを持ち帰る為で、テロ活動で飛ばしてきてはいないと。」

船員がそう説明した。

「確かに対戦闘用の武器は、あのヘリには搭載していなかったと見張り員から報告を受けた。」

そうデヴィッドが話した。

「ならなぜ対空砲火を浴びせたのですか?」

ユキが質問した。

「乗っていた奴がマシンガンを発砲し始めたのでな。まぁ今思えば、後ろから護衛艦が急ぎ足で来ていたから事態の急変を読み取ったのだろうな。」

ノールがそう納得した。

「どちらにせよ、キャットラッシュは強盗団でテロ行為には加担していないと分かりましたから、これから出来ることは、ドーバという男を捕まえなければならないということだけでしょう。」

そうデヴィッドがまとめた。

「君たちが出てから取り調べは他の奴が立ち会ってるのか?」

「いえ、長時間は流石にキツイとのことで3時間の休憩を入れてます。終わり次第別の人間が私たちの代わりに入りますんで。」

ノールの質問に取り調べに立ち会った船員が説明して返した。

「ユキ、しばらく道のりだから艦長室でニーアという尉官と一緒に休んでいてくれ。着いたら呼びに行く。」

ノールがユキに勧めた。

「艦長、艦長室は使わないのですか?」

「私はこの空の海が好きでね。艦長室という閉鎖空間で画面見てるより、こっちで風に当たりながらゆっくり眺めるのが好きなんだ。」

ユキが聞くとノールは微笑みながらそう答えた。

「分かりました。なら遠慮なく使わせていただきます。」

ユキはそう言い一礼したあと艦橋を出た。

「デヴィッド。」

ノールがデヴィッドを呼んだ。

「ノール艦長、なんでしょうか?」

デヴィッドが海を眺めているノールに聞いた。

「あの子は本当に12歳なのかね?」

ノールがデヴィッドに聞いた。

「確か、書類にはそう…」

「違う。」

デヴィッドが持っている書類を探るとそうノールが返した。

「え?」

デヴィッドは何を言われたのか分からず首をかしげた。

「あの子の頭は本当に12歳なのかね。」

「あぁ…とても12歳とは思えませんね。」

デヴィッドはノールの質問に相打ちを返した。

「ギャン一佐も大佐とは思えないほど行動力があって、あの頃の幹部達よりクリエイティブな頭を持っていた。まるでギャン一佐の分身を見てるかのようだよ。」

ノールは空を見てそう言った。

「ギャン一佐がおっしゃった『紅の飛空士は今も夢を持っている』という言葉が、ユキを見ていると身近に思えるよ。」

ノールは今度は寂しそうに空を見た。

空は益々ますます黒い雲に覆われていった。

艦橋の窓には雨粒が少し付いていた。

「航海長、これから荒れるだろうから客船との距離をもう少し離れて取り、航行する。」

ベンは敬礼すると舵を持つ船員に指示を出した。

「デヴィッド、しばらくは向こうとの行き来が出来ないから、向こうに居なければならない船員には今のうちに客船に渡るように言っておけ。向こうも同様だ。」

デヴィッドも敬礼して通信兵のもとへ向かった。

するとデヴィッドと入れ違いに別の通信兵がノールのもとへ来た。

「ノール艦長、サーベル総帥から民間港への入港許可を頂きました。港湾局からも、第三埠頭の2、3ブロックへ客船、そのうしろに護衛艦サーザーの停泊許可が下りました。」

こころよく受けてくれたことを感謝すると港湾局へ伝えろ。名前は私の名前で送れ。」

通信兵が説明するとノールは指示を出した。

通信兵は敬礼した後持ち場へ戻った。

その頃ユキはニーアと一緒に艦長室に向かっていた。

「そういえば…あれなんだったの?」

ニーアが聞いてきた。

「あれ…って?」

逆にユキが聞いた。

「ホテルのお風呂で言いかけたじゃない。マロニス君がドアを開ける直前に。」

改めて詳しくニーアが聞いた。

「あぁ…スーザが持ってた写真。ニーアとスーザともう1人の男の子はマロニスだとしたらあと1人の少女は誰なのかなって思ってね。」

ユキがニーアの質問に答えるように写真について言った。

「あれはお兄ちゃんとマロニスの同級生の、キト=ドストスキーという女の子よ。私はいつも遊んでもらってたわ。」

ニーアが思い出しながら話した。

「あの事件で逃げようとした時に肩を狙撃されて亡くなったわ。まさかそれがドーバだったとは…」

ニーアは下唇を噛み締め、手は強く拳を作っていた。

「…。艦長室はここね。」

少し沈黙の風が吹いたが艦長室の前についたことで沈黙は破られた。

「番号を入力すればいいのね。」

スラスラとユキが番号を打ち込み中に入った。

部屋には艦長席の机と広めのベッドがあった。

壁には大きな世界地図があり、その上にはなぞったような跡もあった。

もう一つの大きな机には地図とデバイダーが置いてあった。

「ザ・艦長って感じの部屋だね。」

ニーアが部屋を見渡しそう言った。

ユキはベッドに横になるとすぐに寝息を立てた。

やはり頭脳が大人レベルでも基本は12歳なのだ。

ニーアもその隣で眠りについた。

その頃スーザ達はファメスと一緒に空軍本部にいた。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

ファメスが頭を下げて謝った。

「ファメス中将は悪くありませんよ。」

空軍本部人事次長のムソー=ブラウンがファメスを擁護した。

「仕方あるまい。司令長官殿は呼び出され突然襲われ監禁された。列記とした被害者ですぞ。」

空軍本部技術開発次長のスイマチング=ロウジャーもムソーと同じくファメスの味方についた。

「しかし、中将ともあろう人間がヒョイコラと捕まり監禁ですか?」

トゲのあるような言い方をしたのは空軍本部危機管理対策室長くうぐんほんぶききかんりたいさくしつちょうけん司令長官補佐しれいちょうかんほさのミエリー=ファイトネスだった。

ミエリーは陸軍から出向しゅっこうしてきたため顔つきも悪ければ、発言も悪い。

「貴様!陸軍出向の分際で何を言う!」

「司令長官補佐のくせにこういう時補佐もしないとは、とんだ危機管理の持ち主だことだな。」

ムソーとスイマチングはミエリーを責めるような言い方をした。

「止めないか。せっかくアインがれたコーヒーが不味まずくなるじゃあないか。」

そう言うのは空軍本部大将で副総帥のレイガン=アン=ドストリアンだった。

「君が捕まったのは、君の危機感が無さすぎたことが原因だ。まぁ生きて帰ってこれたからこのように言われるのであって、死んでいたらこんな警告されずに、君は主席一等飛空将になっているだろうな。」

レイガンがコーヒーを飲みながら言った。

「はっ、以後気をつけます。」

その言葉にファメスはそう答えた。

「まぁいい。それにしても。監禁されていた時、ポートランドットにファメス君そっくりの人物いたというのは本当かね?スーザ主席1等飛空士。」

レイガンがスーザに聞いた。

「本当です。しかし、今こちらに向かっているユキ主席1等飛空尉からの話で、元レンドルン陸軍中将、ドーバ=ミクイレフの変装だと思われます。」

スーザが説明した。

「その確証はあるのかね?」

「ユキ大尉がこちらに来てくれれば詳しくわかります。」

レイガンの質問にスーザが答えた。

「そうか。ならその大尉から後ほど聞こう。」

飲み干したカップの底を見ながらそう言った。

その頃首相官邸では国家幹部会議を終え、各省庁大臣と各軍総帥が車に乗り帰っていった。

「サーベル総帥。」

首相がサーベルを呼び止めた。

「何でしょうか?」

車に乗り込もうとしたサーベルが動きを止めて聞いた。

「ユキ大尉はいつ来るかね?」

「入港は…あと3時間ちょっとです。」

首相の質問にサーベルが腕時計を見ながら答えた。

「なるほど…」

首相の顔が考えた顔に変わった。

「どうされましたか?」

サーベルは車に乗る動作を止め、車から出て聞いた。

「いや、夕方の5時半から予算補整議会があるんでね。」

「約4時間後ですか…」

首相が顔な手を当て言うと、サーベルは腕時計を見て返した。

「会える時間が限られてしまうからなぁ。いつも1時間前には控え室に入っておきたいという私のわがままも変えたくないのでな。言い出しっぺで申し訳ないのだが、明日の午前10時に変更してはくれないか。」

首相が腕時計と懐から出した小さなスケジュール帳を見て言った。

「別に構いません。訓練は明日の午後からなので、それまでに基地に返してもらえれば。」

サーベルは少しにやけながら言った。

「ありがとう。」

そう言いながら首相はスケジュール帳に書き込んだ。

「では10時までに官邸に来ますので。」

「あぁ、そうしてくれ。」

「では失礼します。」

首相はサーベルが言うと背を向け官邸に戻った。

サーベルもその背中に一礼して車に乗りこんだ。


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