暗躍者

夕日が落ちる前に雲で隠れたポートランドットは冷たい雨が降っていた。

ユキがホテルに入るとちょうど出るゴーラス、スーザ、マロニスと会った。

「どこに行くの?」

「夕飯食べに行くんだよ。」

ユキがそう聞くとゴーラスが答えた。

「ユキは食べてきたのか?」

マロニスが聞いた。

「うん。ノール艦長と会ってね。ご馳走になったの。」

「いいよなぁ、昔から知ってる人が近くにいて。俺もご馳走になりたいよ。」

ユキがそう返すとマロニスが羨ましそうに言った。

「じゃあ早めに帰るからさ、これ持っててよ。」

マロニスがそう言うとユキにカードキーを渡した。

「ちゃんと起きとけよ!」

そう言い残し3人は街に出た。

ユキは1人上がっていき扉の前でカードを入れ開錠した。

するとカチャという音と共に後頭部に何かで押される感触があった。

「動くな。」

幼めな女の子の声がした。

突きつけられていたのは拳銃だった。

「懲りないわね。アユ。」

ユキの言葉にその少女はうろたえた。

「はぁ…さすがね。ユキ=ニーザ。」

そう言うと突きつけていた拳銃を下げた。

「ちょっと来て欲しいの。」

そうアユが言うとユキの手を掴み別の部屋に入った。

「ここなら大丈夫ね。」

アユは部屋に入るとチェーンロックをかけた。

「折り入って話があるわ。」

アユのその顔にユキも真剣になった。


スーザ達は夕飯を食べ、ホテルに戻っていた。

エレベーターで14階に行き部屋の前まで来たマロニスがドアに貼ってある紙に気づいた。

「ん?なんだ?」

それを剥がすとその紙を裏を見た。

そこには、『1412号室に来てほしい。』とだけ書かれていた。

「どうした?」

異変にスーザが気づきマロニスのもとへ駆け寄った。

「これ。」

「何かあったのかもな。行ってみよう。」

2人はユキに何かあったのだと思い急いで1412号室に向かった。

ドアロックはテープで塞がれていた。

「勝手に入ってこいってことか!」

2人はホルスターに手をかけ中に入った。

そこにはユキのこめかみに銃を突きつけているアユの姿があった。

「動くな!動いたら命はないぞ!」

アユがそう脅すと3人は銃をアユに向けた。

「アユ!銃をおろせ!さもないと…」

ゴーラスがそう言うとアユは銃を下ろした。

3人はキョトンとした顔でアユ達を見た。

その代わりユキがホルスターから拳銃を取り出しゴーラスに向けた。

「銃を下ろすのはあなたよ。ゴーラス。あなたはアントファニス家と密接な関係じゃないの?」

その言葉にスーザとマロニスは事態が把握出来ずキョトンとしたままだったが、ゴーラスだけは違った。。

「おいおい、何を言い出すんだよユキ。俺たち仲間だろ?それとも何か?俺がレンドルン兵士だとでも言うのか?」

ゴーラスが焦りながら言った。

「ねぇアユ。私…あの人がレンドルン兵士と言った?」

ユキの言葉にゴーラスが目を見開いた。

「言ってないわね。」

そう答えたとき、やっと状況を察したスーザとマロニスはゴーラスから離れた。

「おい、2人までなんだよ。」

ゴーラスはそう誤魔化したが全員の視線は冷たかった。

「あなたは…レンドルンのスパイよ!」

そうユキが言い放った。

「待ってくれ!なんで俺がスパイになるんだよ!そんな勝手に言われちゃ困るよ!?」

大きなジェスチャーも含めてゴーラスがそう言った。

「じゃあなんでこの人がアユという名前なのか知ってたの?なんでアントファニスという名前を聞いて自分がレンドルン兵士だと疑われてるって分かったの?」

ユキが大手を掛けて来た。

「あと、あなたはポートランドット入港前の船の部屋で、ニーアという人を知ってるかと聞かれた時、あなたこう言ったわね。『ニーア…知らないなぁ…マロニス知ってるか?』と。」

ユキが聞いた。

「そ、それがどうしたんだよ。」

焦りの見えるゴーラスがそう返した。

「人間は自分の過去の記憶には絶対的な自信は持てない。忘れることもあるからね。だから知らない人のこと聞かれた時、人間は無意識のうちにその知らない人の特徴を知ろうとする。だからあなたは、ニーアをあの時には少なくとも知っていて、それを隠していたことになる。」

そうユキが問いただした。

「だからって言って俺をスパイ呼ばわりするのはやめてくれ!物的証拠でもあるって言うのかよ!」

ゴーラスがそう言うとユキが片手に持ったあるものをゴーラスに見せた。

「これはレンドルンが持っているスパイの報告書よ。メモリーカードにしてるのね。この中に、あなたの書いたものもあったわ。ゴーラス=ファーストっていう名前がね!」

ユキがそう言うとゴーラスは膝から床に落ちた。

「お前…」

マロニスが現実を信じきれないような声で言った。

「アユを知ってるのはな…以前、レンドルンの基地で見たことがあったからだよ…アユがニーアだと知ったのはな、スーザからニーアの写真を見せてもらった時に同一人物だと知った。だからすぐ分かったんだよ。」

ゴーラスが大人しく話し始めた。

「まさかアユがバラしたのか!?」

悔しそうにゴーラスが聞いた。

ユキはメモリーカードのゴーラスの目の前に投げた。

「バラしたのは、あなたよ?」

ユキが見せていたメモリーカードは厚紙で作ったものだった。

ゴーラスはそれに気づくと床を思いっきり殴りつけた。

「クソッ!クソォォー!」

そう言い悔しがるとドアが勢いよく開いた。

「手を上げろ!」

そう言い入ってくるのは警察だった。

「ゴーラス=ファーストだな?スパイ容疑で話がある。こっちに来い!」

警察が手荒にゴーラスを引っ張っていった。

その後すぐにバンが入ってきた。

「無事でよかった!」

バンがそう言ったが全員ポカンとしていた。

首が少しずつ曲がっていった。

「誰?」

全員が口を揃えて言った。

バンがズッコケた。

「って!俺だよ!通信官のバン=ユグジー!」

そう言われても分からないようだった。

「はぁ…もういいよ…」

そう言うとユキが話しかけた。

「それは置いといて…マメスの方は?」

「置いといてって……マメスの方なら…」

バンが説明した。

マメスでは将校が次々と持ち場に戻るためそれぞれのヘリに乗り込んでいった。

「ではターズ副艦長。また後で。」

そうサーベルが言った。

しかし、ターズはサーベルと会う約束などしていなかった。

「はい?また後でとは?」

そう聞き返すとマメスの船員とファメスがターズを囲んだ。

「なんだね!君たちは!」

そうターズが怒鳴った。

「ターズ副艦長。スパイ容疑で聞きたいことがあります。」

ファメスがそう言うと当然ターズは否定した。

「ぶ、無礼者!私がスパイだと!?笑わせるな!!」

ファメスは懐からトランシーバーを取り出しイヤホンジャックを抜いた。

『繰り返す、拘束されたゴーラスはスパイを認めている。父親に協力を頼まれたとも供述している。すぐにターズ副艦長を拘束してくれ。』

トランシーバーから聞こえる声はノールだった。

ターズは目を見開き、終わったかのような顔をした。

「了解。」

そうトランシーバーで返した後ファメスはターズの方を向いた。

「改めて、ターズ副艦長。スパイ容疑で聞きたいことがあります。ご同行を。」

そうファメスから言われると何も言わなかったが船員に連れられてヘリに乗り込んだ。

ヘリはドアが閉まると上昇し、ボスフォラスではなく陸の方へ飛んでいった。

「軍で捕まったスパイを裁くのは、確か総帥でしたね。だから『また後で。』と言ったんですね?」

ファメスが聞いた。

「作戦ベタの君が、あんな素晴らしい作戦を考えつくとは思わなかったんでね。何かあると思ったよ。」

笑いながらサーベルが言った。

「酷いですね。あれでも考えたんですよ?でも、ぜーんぶユキに変えられちゃいましたけど。」

ファメスがそう言うとサーベルは大笑いしながら艦橋へと歩き出した。

「総帥!いくら何でも笑いすぎです!」

ファメスもそう言いながらサーベルについていった。

その頃、ユキ達はホテルで国家防衛省の職員に事情を聞かれていた。

「ではまたお話を聞くことになると思いますがその時はまたご協力ください。」

職員がメモを書きながらそう言った。

「アユ=バンデムさんにはまた後で国家防衛省に来てもらいます。レンドルンからの亡命としますので。」

別の職員がそう言い残し部屋をあとにした。

「今回はアユさんとユキ大尉のお手柄ですね!」

バンがユキの横で喜んだ。

すると廊下を誰かが走る音が聞こえた。

バンの部下の通信兵だった。

「バン中尉!大変です!」

息を切らしつつ入りバンの前まできた。

「どうしたんだ。」

そう聞くとバンの部下は息を整え答えた。

「レンドルンから、デスアン基地を返還することと、レンドルンの外務大臣が謝罪にくるという連絡が入ってきたそうです!」

その場の全員が驚いた。

独裁国家のレンドルンが侵略行為を認め、謝罪するなど地がひっくり返るほどの大事件であった。

その話はマメスにいるサーベルとファメスのもとにも伝わっていた。

「うーん…何かあると思いませんか?」

ファメスはこの事実を怪しく見た。

「こちらが攻撃するのを察したか…それとも…」

「それとも、アユとの交換を申し出るか…だな。」

このようになってしまった理由を考えていたファメスの台詞せりふをサーベルが奪った。

「そうですね。スパイの報告書を握っている彼女をみすみす逃すなんて事はしないでしょうし。」

ファメスはサーベルの考察に納得した。

「奪った基地を返し、外務大臣自ら敵地へおもむいて謝罪まですることを辞さないほど、アユを手放したくないのかもしれんな。」

サーベルが目をつぶり言った。

その時後ろから通信兵が伝言書を持ってきた。

通信兵はファメスに渡すと敬礼し、戻っていった。

「えーっと…読みます。『明後日午後7時、大統領官邸にレンドルン外務大臣、シェッタス=テゾーリが訪問することに決定した。ついては、大統領をはじめ、首相、外務大臣、陸、海、空軍総帥も同席することになったため、ここに招集致す。なお、詳細は後日通達する。発、外務大臣、ゲーチス=アスト。宛、空軍総帥、サーベル=フォン=ベル。』だそうです。」

ファメスがサーベル宛の伝言を代読した。

「なら、副艦長のいないこの船はファメス中将、君に託した。良いか?」

サーベルは明後日の講和出席での留守をファメスに頼んだ。

「はっ!異存ありません。」

ファメスは声だけ気が張っていた。

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