予想外の事態

「それで、あの子達にはどう言って戻ってもらいましょうか。」

ファメスが腕を組み考えた。

「戻るはずのサーザーがカッコ悪い姿になってるからなぁ…仕方ないなぁ…」

先行する護衛艦サーザーを見ながらサーベルが頭を抱えた。

「やはり護衛艦ファシフィットに来てもらうしかないですかね…」

ファメスも頭を抱えた。

2人が艦橋で考えている頃、スーザはデッキで明るくなってきた空を見て風に吹かれていた。

ユキはスーザの姿を見てデッキに降りた。

「俺は…なんで飛空士なんて志願したんだ…」

スーザが呟いていた。

本人にわからないのなら誰にもわからないのだが、それを自問自答していた。

「スーザ。」

ユキがスーザの隣に来た。

「な、なんだよ…」

少し驚き気味にユキに言った。

ユキは無言でサーベルから受け取った通達書を見せた。

スーザは通達書を見て驚いた。

「これは…何かの間違いだ。もう一度話してくる。」

そう言いサーベルのもとへ行こうとするスーザの腕をユキが掴み止めた。

「離せよ!」

スーザは振りほどこうとしたがユキは離さなかった。

もう一度強く振りほどくとユキの手は外れた。

スーザはそれを見ると歩みを進めたが、ユキはスーザに抱きつき止めた。

「だめ!」

まだ幼い声がスーザを止めた。

『行っちゃだめ!』

スーザの過去のビジョンが脳裏によぎった。

その瞬間スーザはふらつき壁にもたれかかるようにして床に座った。

「どうしたの?」

ユキはただ止めるために抱きついたのに、急に力をなくしたように倒れたので焦った。

「いや…何でもない。船が揺れたからすこしよろめいただけだ。」

そう言うスーザの手は震えていた。

「何があったの?」

そう心配するユキはスーザにとっては別人に見えた。

「何でもない…心配するなニーア…すまん、ニーザ。」

ユキを別人と間違える不自然さがスーザにはあった。

「おかしいわよ?」

ユキは心配したがスーザは何も言わなかった。

「すまん。一人にしてくれ…」

スーザはユキに一人にするように頼んだ。

ユキは心配だったが、一人のにするために階段へ歩いていった。

「ニーア…」

スーザは胸ポケットから写真を取り出しそう呟きながら眺めた。

ユキは2人の待つ部屋へと歩いていた。

その頃、海戦の起きた海域では戦艦が航行していた。

「あの戦闘機は新型というのかね。アユ君。」

その大柄の男は艦橋の外を眺めながらアユという人物に聞いた。

「はい。その通りです。」

アユという人物は短い髪型だが、よく見るとユキと変わらないくらいの少女だった。

「あれは恐らく今までより数倍優れた戦闘機です。飛行能力が旧式と異なっています。その上、搭乗員…いや、あちらの国の言い方では飛空士ですが、今まで類を見ない優秀な者のようです。」

アユがそう説明した。

「偵察編隊の一群の目撃した、たった1機でこちらの戦闘機の20機分に相当する戦闘機…搭乗員も選りすぐりという話には、どうも我々には信じ難いようだ。」

大柄な男が目を閉じ言った。

「だがな…我々レンドルン連邦海軍はこの戦いに必ず勝つ…勝たなければならない…国家総統に勝利を報告せねばならない…」

そう悔しがる男は机を思いっきり叩いた。

「何としてでもあの戦闘機の出番を失えるような作戦を練り上げろ!」

大柄な男はそう言い放つとアユも含めた軍人たちが敬礼して慌ただしく準備し始めた。

大柄な男は心の中で、なぜ勝てないのか…そればかりを考えていた。

空母戦艦マメスでは先の海戦で遠くに見えた戦艦のことについて話していた。

「レンドルン連邦の戦艦、アンダストールなのか?」

ファメスがそういった。

「はい。あの大きい主砲3門が4機、機銃やカタパルトを見ても、あれはレンドルン戦艦、アンダストールだと思われます。」

レンドルン情勢に詳しく、2等飛空佐で砲雷長のカタス=ヘンローがあの戦艦のことについてそういった。

「では爆発した空母はアンダストールと共に移動していたところを見ると…正規空母のスファレンストである可能性があるな。」

サーベルも昔の記憶を頼りにそう言った。

「恐らく。一番うしろにいたアンダストールと同じ大きさの戦艦は、アンダストールの姉妹艦でアンダストール級3番艦のゴスメールズである可能性があります。」

カタスはそう続けて言った。

「なら、乗っていたのは…」

「レム=アントファニス大将だろうな。」

ファメスの言葉をサーベルが奪った。

「レム=アントファニスってレスト島拉致を行った海軍将校ですか!?」

通信官のバンが聞いた。

「ああそうだ。」

レスト島拉致とはマデラン共和国の最南端の島でレンドルン連邦が軍事的に侵略し、レスト島の住人約3000人の一部800人を拉致し本土へ連れ去った事件である。

「あの残虐で残忍な男と鉢合わせしたなんて…」

3人は今いる現実を信じきれなかった。

その頃ユキは部屋に着いていた。

「マロニス、ゴーラス。」

息を切らしたユキが入ってきた。

「どうしたんですか?ユキ大尉。」

ゴーラスが聞いた。

「これ、サーベル総帥から。」

そう言いサーベルから受け取った通達書を二人に渡した。

「ん…?1等飛空士に昇格…!?やったぞ!マロニス!」

マロニスとゴーラスは肩を組んで喜んだ。

「あのさ…」

ユキが自分のベッドに座って聞いた。

「ん?なんだい?」

マロニスが聞いた。

「ニーアっていう人知ってる?」

その言葉にマロニスの顔色が変わった。

「ニーア…知らないな…マロニスは?」

ゴーラスは考え答えたが、マロニスは少し様子がおかしかった。

「スーザと幼なじみのマロニスは知ってるのね?」

ユキが食いこんで聞いた。

マロニスは観念したかのようなため息を吐き椅子に座った。

「知ってるよ…忘れたくても忘れられねぇ…」

マロニスの言葉にユキは疑問をいだいた。

「それどういうこと…?」

ユキはもっと入り込んで聞いた。

「ニーアは…俺達が殺したも同然なんだから…」

その言葉にユキもゴーラスも驚いた。

「どういうことだよ…殺したって…」

ゴーラスが困惑しながら聞いた。

「俺達の出身は…レスト島なんだ…」

2人は驚いた。

それでユキは察しが付いた。

「助け…られなかったのよね…?」

「…そうだ。無理やり連れていかれるニーアを…俺は…スーザは…怖くてそのままにしたんだ!」

まるで今目の前に悪魔がいるような怯え方でマロニスは答えた。

「その後は?」

ゴーラスが聞いた。

「分からねぇよ…あれっきりだ。でも…スーザが飛空士になったのは、連れていかれた妹を見つけることだろうな。あいつは何も言っちゃあしねぇが、俺に飛空士にならねぇかって聞いてきた時のあいつの顔は、それを物語ってたよ。」

2人は黙ってマロニスの話を聞いていた。

「俺は…軍に入って強くなりたい、ぜってぇあんなことは二度とさせないって思いで入ったんだ。訓練してる時も、機銃の引き金に手をかけると…連れていきやがったあいつらを……そう思っちまうんだ…」

2人はマロニスにかける言葉がなかった。

「へへ…今なら俺は殺人犯と同じ気持ちになれるぜ…」

マロニスは力を抜き天井を眺めていた。

「あいつがメルディー少佐の事でこんなにも沈んでる理由は、たぶんニーアの時と同じく助けてあげられなかったことを悔やんでんだよ。まぁ他にも理由はあるだろうけどな。」

マロニスはイスから立ち上がりベッドの上で横になった。

「そのニーアちゃんって何歳だったの?」

ユキが聞いた。

「3年前の誕生日だったから、今年で…ユキの1つ上になるよ。13歳だ。」

マロニスは指折り数えた。

「そっか…」

ユキがそう言うとしばらく部屋は沈黙に包まれた。

「船員に告ぐ。」

その沈黙を破ったのはファメスの声だった。

「予想外の事態により、我が第8艦隊は大きな損傷を被った。現在、ポートランドットに入港中である。港に接岸し次第、一部の船員は船から降りてくれ。君たちはポートランドットのみ自由行動とする。護衛艦2隻、空母マメスが修復され、こちらにもどってき次第、報復行動を取る。しかし、ポートランドットはレンドルンとの国境の街である。軍服での行動は避けてくれ。しかし、護身用の拳銃は所持して構わん。だが、見えるようには携帯しないでほしい。出航予定は今のところ未定である。船は3隻すべてアンスタツ軍港に向かう。」

船員全員静かにファメスの話を聞いていた。

「降りる船員は…第1、第2、第3、第5、第8雷撃部隊200名。飛行訓練生8名。左舷第1、第5、第9機銃兵24名。右舷第6機銃兵8名。第1、第2格納庫整備士48名。食堂配膳12名。以上300名だ。残りの100名で東は60キロのアンスタツへ向かう。今呼ばれた者はポートランドットで待機。荷物は着替えなどはすべて持って退艦してくれ。以上。」

そう言いファメスは放送を切った。

ユキたちはすぐに荷物の整理を始めた。

他の呼ばれた船員も退艦の準備を始めた。

「これでよろしいですね?サーベル総帥。」

ファメスは艦内マイクを下ろしサーベルを見て聞いた。

「うむ…致し方ないだろう。」

サーベルは眉間にシワを寄せて言った。

マメスは岸に対して平行になるように回転し、岸に横付けした。

岸のゴムクッションに艦が当たると大きく揺れた。

そしてタラップが下ろされ、私服の船員が降りた。

全員自由にホテルを探しバラバラになった。

マロニスとゴーラスとスーザたユキはの4人で行動することになった。

「あの子を一人にして大丈夫かのぉ…」

またおじいさんになるサーベルをファメスはなだめた。

「大丈夫ですよ。それに、飛空士は飛び立つ時1人です。」

ファメスはそう言うが少しどこかに心配する気持ちがあった。

その頃スーザ達はホテルを探し歩いていた。

「あの…ユキ大尉…?」

ゴーラスが恐る恐るユキに聞いた。

「もうタメでいいから。んで?なに?」

ユキが聞き返した。

「その服…」

ゴーラスは真面目が故に言いにくそうだった。

ユキはまだ幼い少女のため軍服とのギャップがある服が意外過ぎて、周りは気になっていたようだ。

マロニスはともかく、スーザは妹のことでユキを直視しなくなった。

「この可愛い少女が腰に拳銃を携えてるいるなんて考えられねぇな。」

マロニスがそうはやし立てた。

「撃とうか?」

ユキが腰に手を添えて言った。

「じょ、冗談だよ…」

マロニスは本気でビビりそう返した。

するとスーザが建物に入った。

そこはホテルだった。

入ると少し良いホテルだった。

フロントでは15の少年と12の少女だということもあり少し手こずったが、ユキの階級手帳により解決した。

「すみません。あいにくお部屋が3部屋しか残っていなくて…」

フロント係が申し訳そうに言った。

「マジかよ…他はないの?」

マロニスが粘った。

「申し訳ありません。残りは3部屋で…」

そう困り果てるフロント係だったが、ユキがダブル部屋を2部屋を選択した。

「お部屋は1420号室と1421号室を取っております。大変申し訳ありません。」

そう謝罪しながらフロント係はユキに2部屋のカードキーを渡した。

部屋は14階。

部屋の前に着くと4人は部屋割りを相談した。

1420号室にはユキとマロニス。1421号室にはゴーラスとスーザが泊まることになった。

「やっばい!すごい眺めっ!」

やはり主席1等飛空尉でも中身は少女なんだとマロニスが思った。

ユキは荷物を開けると脱ぎ始めた。

「お、おいっ!」

マロニスはユキがいきなり脱ぎ始めたことにビックリして、ユキに背を向けた。

「別に見てもいいわよ、減るもんじゃないし。」

ユキがマロニスにそう言い放ったが、マロニスはやはりみれなかった。

「もう着替えたからみてもいいよ。」

そうユキに言われ振り向くとさっきの普段着とうって変わってジャージ姿だった。

「今から運動してくるから、夜までには戻るよ。」

そう言いながら上ジャージを上げ、腰にホルスター付きのベルトをして隠し、外を出た。

「なら俺は昼寝しとこっと…」

そう言いマロニスはベッドの上で横になった。

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