奇襲と責任

まだ外が暗い時間、スーザは大きな音で目が覚めた。

マロニスとゴーラスは寝ている。

隣のユキを見たとき居ないことに気づいた。

スーザは上着をきて外に出た。

飛行甲板にはJ-1000の姿があった。

時間は午前5時。

指揮所の旗は赤から青に変わった。

その瞬間、勢いよくJ-1000が飛行甲板を滑り飛び立った。

「本当に上手くいくのでしょうか…」

ファメスの心配をよそにサーベルは無言で見送った。

水平線が青くなりかけている辺りにユキの機が見えたが、そのうち消えた。

ウィスキーポイントからゴリアル海域まで20km。デスアン基地まではそこから8km。

偵察できるのは日が上がる6時になる。

飛行ルートは基地を上空から2周し、搭載されたカメラで確認。

その後撤退するというものだ。

ユキからは海が永遠に続くような見えた。

父親はこの景色を眺めていたのかと思うと心に響いた。

一方空母マメスでは甲板に続々と戦闘機を上げていた。

戦闘用に特化した戦闘機、J-805式戦闘機だ。

朝6時、マメスの飛空士が乗り込み準備をした。

ユキからの一報が届いた。

「戦闘機視認、味方の機ではありません。敵軍の侵略を確認。」

その瞬間指揮所の旗が赤から青に変わって飛空士たちが飛び立った。

「よし、わかった。今すぐ帰投せよ。」

ファメスがそう返した瞬間だった。

サーザーの対空砲火が始まった。

左から数機近づいてきていた。

「敵機左前方!約6機!」

見張り員の言葉に空母の前方機銃が撃ち始めた。

「面舵いっぱい!最大戦速!対空戦闘用意!」

サーベルの言葉に空母は大きく左に傾き旋回し始めた。

ファメスは双眼鏡で確認していると水平線上に大きな影が見えた。

「サーベル総帥!11時の方向から編隊を確認!」

その瞬間、編隊の大きな戦艦が砲撃を始め、アンダーに1発当たり炎上した。

「くそっ!こんな時に湧いて出てきやがって!」

スーザは揺れる飛行甲板で1機格納庫から上がってくるのが見えた。

スーザは走り乗り込んだ。

「おいっ!まだ訓練生…」

「いいからっ!」

整備士の静止を聞かずエンジンを始動させ、飛び立った。

「スーザ!」

マロニスが止めたが、もう既に遅かった。

上空に上がったスーザは編隊の方向を見た。

すると約数十機がこちらに来るのが見えた。

スーザは機体を敵機と鉢合わせするように向け飛行した。

『知らないうちにウィンドライドを仕掛ければ敵機が交わすのは右。私は左に20度、上に30度の高さで交わす。』

スーザはその言葉を思い出し、ラダーを左にかけ滑らせるように飛行した。

相手はそれに気づかず発砲してきたがスーザには当たらなかった。

その瞬間機体を直し発砲して左に20度、上30度に機体を逸らした。

『交わしてから6秒で上半円に回り80度で降下』

スーザは6秒後に80度で敵機の中に突っ込んでいき、先頭機を発砲して燃料タンクに穴を開けた。

『燃料タンクに穴が開き、その漏れた燃料に弾丸を流せば引火する。』

一旦逸れて離れた位置でまた引き返し発砲した。

すると次々に爆発して落ちていった。

「さすがユキだな。」

そう言い次の戦闘機の後ろにつき撃ち落とした。

「よっしゃあ!」

グーで喜び次の獲物をみつけようとした時数発被弾した。

「うぉっちっ…!?」

すぐに交わしたため燃料は無事だが、機の動き操作する翼が撃たれ思う通りに動きにくくなっていた。

後ろにつかれスーザは逃げるしかなかった。

1発、2発と被弾し危ない状況に陥った時、前から後ろの敵機を撃ち落とすように発砲した機がいた。

撃ち落としたことを確認するとスーザ隣についてバンクを振った。

そこにはメルディーがいた。

「訓練生のクセしてやるなぁ。お前はもう戻れ。」

そう言いスーザを護衛するように周りを飛び回り近づいてきていた敵機を撃ちまくった。

車輪を下ろしフックも下ろして着艦するという時にメルディーの機が被弾した。

メルディーの乗った機体は平衡を保ったまま水面に落ちていった。

「メルディー少佐!」

そう叫んだが見えなくなってしまった。

スーザはそのまま着艦するために前を向いたが前から敵機が来た。

もう無理と思った時敵機が炎に包まれ右にそれて海に落ちていった。

弾丸たまの飛んできた方向を見たらJ-1000の姿があった。

その姿を見たあとスーザは着艦した。

ユキが姿を見せると敵機は天敵を見つけた小動物のように急いで飛んできた方へ戻っていった。

しかし空母戦艦と言われるマメスの砲弾が敵の空母の弾薬庫に命中したようで大爆発を起こした。

その瞬間敵の戦艦達の砲撃が止んだ。

「総員退避!この海域から離脱する!取り舵30!最大戦速!」

サーベルの声でマメスを先頭にサーザー、アンダーが東へ逃げた。

戦闘機は次々に戻ってきたが飛び立った30機のうち4機、後から飛んだ8機のうちメルディーの1機が撃ち落とされ戻って来なかった。

6時2分から始まった海戦は7時20分まで続き引き分けで終わった。

厳戒態勢のまま、近くの軍港ボートランドットに入港することになった。

ボスフォラスは先の海戦海域に居たが危険として遠回りでボートランドットに来ることになった。

「今は静寂を取り戻しています。海戦の被害は護衛艦サーザーの機銃が数機被弾し死傷者が多数。アンダーは砲弾が左中央に当たり沈没は免れましたが左中央の機銃兵が多数死傷しています。現在集計は困難を極めており、不詳。マメスから飛び立った戦闘機5機が撃墜されました。以上です。はい。わかりました。」

ファメスは電話をそう言い終え切った。

「サーベル総帥、大統領に報告しました。外務大臣を通じて抗議するとのことです。」

ファメスは電話の内容を伝えた。

「いくら抗議しても聞き入れる国ではなかろう。スーザはどうしてる?」

艦長席に深く腰掛けサーベルが聞いた。

「メルディーのことで少し沈んでいます。」

「メルディーは助かったのであろう?」

「はい。今、サーザーで治療中です。命には別状ないものの…」

「重傷…か…まぁ無理もなかろう。」

スーザを助けたメルディーは幸いサーザーに助けられ一命は取り留めたものの足に火傷を負い、腕を骨折した上、破片が目を直撃して左目を失った。

その頃部屋ではユキがスーザに絆創膏を貼っていた。

「後先考えずにスーザが飛んだのはいけなかったな。」

そういうのはマロニスだった。

「あれは危なかったぞ?」

ゴーラスも一緒なって責めるように言った。

「あなたたち、自分の身を守るために咄嗟とっさにしたことがいけない事だと言いたいの?」

ユキは口調は落ち着いてるが明らかに怒っているような言い方で反論した。

「ですが、自分を守るとはいえ…」

「ならあなたたちはスーザと同じことを咄嗟にできるの?攻撃するやからに対してすぐに防衛することがあなたちはできるというの?」

ゴーラスの反論を言わせないようにユキは言葉を乗せた。

部屋は沈黙にさらわれた。

しかし沈黙を破ったのはスーザだった。

「いいです。自分でなんとかしますから。」

スーザは上着を持って着ながら部屋を出た。

「私は報告をしてくるわ。」

そう言い残しユキも外に出た。

2人はどうしていいか分からずフリーズしていた。

「少し俺たち言い過ぎたかな…?」

「そうだな…」

2人は顔を合わせて首を傾げることだけ出来た。

艦橋では先の海戦で被害にあった箇所や死傷者の集計で混乱していた。

「サーザーでは13人…アンダーは28人負傷…2隻合わせて32人が死傷…」

ファメスが言葉に出しながらメモを書いて集計に当たっていた。

「短期激戦だったが、ここまでで抑えられたことを神に感謝だな。」

サーベルが水平線を眺めながら悲しげな声で言った。

「それでも死者を出してしまったことは神を恨まざるを得ません。」

集計しながらファメスが応えた。

「…そうだな。」

少し重めに返したサーベルだったが、責任を感じているような声でもあった。

すると艦橋のドアが開く音がした。

おもむろにファメスが見るとスーザがいた。

「スーザ…」

その言葉にサーベルも反応して後ろを振り返った。

スーザは何も言わずにサーベルの横に立ち敬礼した。

「スーザ=ロン3等飛空士です。」

すごく緊張している表情のスーザだったが、一部は恐怖にまだ駆られているようだった。

「先の海戦ではご苦労。よく生きて帰ってきてくれた。」

サーベルはまずスーザをねぎらった。

「いえ、勝手な行動により、1人の命を危険に晒しました。私は、総帥がねぎらう必要の無い男です。」

スーザは自分を責めた。

しかしサーベルはなんとも思っていないような表情で艦長席からスーザの顔を見た。

「君はファメス中将に辞退を申し出ていたな。」

スーザは不意をつかれたような顔を一瞬だけ見せた。

「それは…」

スーザは言葉に詰まった。

「私は1度だけ部下に怒られたことがある。私はその時3等飛空将だったときだ。仲間を危険に晒してしまった時にな、辞表を当時の1等飛空佐の男に出したんだ。人事次長だったからな。その時に、大声で怒鳴られた。『あなたは仲間を危険に晒したから逃げるのですか!?あなたはそんな軽い決意で少将を務めていらっしゃるのですか!』とね。私はその叱咤激励に救われて今、ここにいる。」

昔話のような話をサーベルがスーザにした。

スーザはさっきより落ち着いた表情だった。

「私はその男の言葉を借りて君に言おう。君はそんな軽い気持ちで飛空士になったのか!」

サーベルが渾身の一撃とも言える言葉を投げかけた。

艦橋は全員静まった。

サーベルは艦長席に座り直した。

「まぁ今となっては私は誰にも言えないのだがな。」

サーベルは最後にそう付け加え水平線を眺めた。

「今私が言えるのは…メルディーの分まで君が頑張れ、くらいだろうな。謝罪はいい、下がりたまえ。」

サーベルはそう言い残しスーザを下げた。

「…失礼します。」

スーザも何か言いたげだったがこらえて部屋を出た。

それと入れ違いにユキが入ってきた。

「失礼します。」

さっきのスーザのとは違いはっきりとした声で入ってきた。

「偵察の結果を報告します。兵は確認できませんでしたが、敵機と思われる機を4機視認。塀の上に常駐している兵の姿は確認出来ず。敵機が無傷でいるということは占領されている可能性が高いと思われます。」

ユキはサーベルに結果を報告し敬礼した。

「偵察と先の海戦はご苦労だった。あと…」

サーベルがユキを労ったあと、身体ごとユキを向いた。

「さっき本部からの報告でな。ユキ=ニーザ主席1等飛空尉は訓練生から正式に昇格することが決まった。」

サーベルはそう伝えた。

「ありがとうございます。」

「後な…」

サーベルはユキのお礼の言葉に被せるように続けた。

「スーザ=ロン3等飛空士を良い働きだったとして主席1等飛空士に昇格することが本部から正式に通達が来た。ゴーラス=ファーストとマロニス=ドンは1等飛空士に昇格するとも来た。これを伝えてくれ。」

そう言いユキに折り畳まれた紙を渡した。

「通達書だ。私の直筆でサインもしてある。渡してくれ。以上だ。」

渡した後、また外を眺めた。

「わかりました。失礼します。」

そう言いユキは外に出た。

「こんな時に昇格が決まるなんて、あの子達には最悪な訓練卒業でしょうね。」

ファメスがドアがしまったのを確認した後でサーベルに言った。

「だが、この経験で自分たちは本物の戦いを知った事だろう。それはいい経験だ。あの子達が成長するきっかけになって欲しいと願うがね。」

サーベルはその願いを込めて言った。

すると見張り員から声が上がった。

「前方、ポートランドット港の灯台が見えました。距離約8千。(8千=8000m)」

「両舷微速!」

\両舷微速!/

サーベルが指示を出すと機関兵が声に出し艦のスピードを減速させた。

「早くどうにかならんもんかね。この戦いは。」

呆れたような口調でサーベルが言い放った。

すると場をわきまえなかった一言で艦橋の船員がサーベルを見た。

「ハングリッドが居れば私を殴っておるかな…」

少し小さめな声で誤魔化した。

灯台の光はなおも明るく船を照らし始めた。

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