ユキの秘密

訓練当日、ユキを含めた訓練生8人は乗艦する空母戦艦“マメス”の前に居た。

「でっけぇな…」

うるさいマロニスが静かになるほどの大きさだった。

空軍の中でも主力と言われる空母である上に、最大戦力の布陣、エンドの布陣と言われる、陸、海、空の総戦力に空軍でたった1隻の空母なのだ。

「そりゃそうとも。」

その声に訓練生全員がそちらを向いた。

「第1戦線には海軍の戦艦“ボスフォラス”、“アルテネ”、“サゴマ”。

第2戦線には陸軍の輸送戦艦“ダーダラス”と、この空軍の空母戦艦“マメス”なんだ。」

突然現れ説明した男に訓練生は誰だという目を向けていた。

「あの…どちら様で?」

ゴーラスが聞いた。

「あぁ突然すまない。俺はノールという者でな。マメスの前の護衛艦、サーザーの艦長をしている。」

その言葉に全員気をつけの姿勢になった。

「アハハ、そんなに固くなるな。君たちと同じような存在と思ってくれていい。」

ノールがそう言うとユキが後ろから前に出てきた。

「ノール主席1等飛空尉、お久し振りです。」

ユキの言葉にノール少し驚いた。

10年も前の階級で呼ばれたからだ。

「おいっ!お前!失礼だぞ!主席1等飛空尉が護衛艦の艦長になれないことくらい分かっているだろ!」

スーザが肩を掴んで止めた。

ノールはユキの前まで行き、スーザのその手を強く掴んで離した。

「君の名前と階級は…?」

少し緊張した顔でノールが聞いた。

「私はユキ=ニーザ主席1等飛空尉です。」

その言葉に訓練生は全員驚いた。

「お前っ!スラム育ちのくせに嘘を言うな!」

スーザがそう強く言った。

しかしノールは凄く驚いていた。

頭に血が登ったスーザはすぐに血の気をひいた。

「生きていたのか…」

そうノールが言うとユキの両肩を両手で添えて下を向き泣いた。

「…ノール艦長…?」

ゴーラスが聞いた。

するとノールはハンカチで涙を拭き立ち直した。

「君たちは知らないのだな。でも、この子の階級は主席1等飛空尉である事を忘れるな!君たちこそ、失礼であるぞ。」

そう言うとユキはスーザの前に立って、ユキの階級手帳を渡した。

スーザはすぐに開いて階級を確認した。

階級手帳には『主席1等飛空尉、ユキ=ニーザ』と書かれていた。

スーザは驚き青くなった顔のまま手帳をユキに返した。

「2歳だったのに私の階級を覚えていてくれたんだな。さすがは天才の娘。でも今は主席1等飛空佐だから、覚えていてくれ。」

ノールは左手でユキの頭を撫でて笑顔で言った。

「ノール主席1等飛空佐、失礼しました。」

ユキは首から下げて謝った。

「いいんだよ。君が生きていたことを知れただけでも…ギャン1等飛空佐の事を近くで感じられるだけでも、私は君に感謝しなきゃな。」

周りは何のことか分からなかった。

「152回訓練生!8名はいるか!」

大声で言う人がいた。

「君たち、行ってきなさい。私はユキともう少し話したいからな。」

『はっ!』

ノールに言われユキを抜いた訓練生でその大声を発する男の元へ向かった。

男の前で整列をして敬礼した。

「あれ?あと1人は?」

その男が聞いた。

「ユキ主席1等飛空尉はノール艦長と話しています。」

スーザが質問に答えた。

「そうか…わかった。ちょうど今、立て込んでるから。後で案内するから…あと…30分は空母の周りで待ってて。」

その男に言われ全員了解という意味で敬礼した。

「なんかやる気無さそうだったな…」

マロニスが冷めた感じで呟いた。

「それにしてもさ…あのユキっていうスラム育ちの少女は何者なんだ?」

スーザがまた熱くなりかけて言った。

「主席1等飛空尉だからな…ファメス中将殿の許可をもらった…くらいしかわかんねぇな…今までの統計にあったかな…」

ゴーラスが頭を抱え考えた。

訓練生はノールの元へ歩いていたが怒鳴り声が聞こえた。

その声はノールだった。

「なぜ私に言わなかったんだ!ファメス!」

「仕方ないだろ!?サーベル総帥から極秘と言われたんだから!」

「それでも5カ月の間私に言うくらいの事は出来ただろ!?俺たち同期なんだから!」

「…そうだな、すまないノール。ギャン一佐いっさの娘がスラム街で育ったなんていう風評が彼女を傷つけてしまうと思ったんだ…それに彼女は国防大臣閣下の大事な調査役なんだ。わかってくれ。」

「それはわかった。俺も強く言いすぎた…すまない。」

そのやり取りを陰から訓練生が聞いていた。

ふとノールが腕時計に目をやった。

「あと1時間で出航だ。俺は先に戻る。ギャン一佐に恥かかせんなよ?」

そう言いノールは艦に戻っていった。

「お前もな。」

ファメスもそう言い戻った。

「ギャン一佐って誰だ…?ゴーラス、お前知ってる?」

スーザが聞いた。

「知らないな…それに俺の父さんは海軍だし…」

ゴーラスがそう返した。

「…あれから30分は経つな…そのことはファメス中将殿に後で聞いてみよう。」

そうマロニスが言い、さっきの場所に急いで戻った。

「あ、こっちこっち!訓練生集まれー!」

マロニス達はさっきの男の元に戻ってきた。

そこにはユキもいた。

「1、2、3…よし全員居るな。今から艦内を案内する。俺はメルディー、3等飛空佐だ。ちょっと急いでる奴らもいるから通路は1列で歩いてくれ。じゃあ行くぞ。」

訓練生はメルディーについて行った。

まず階段を上がって空母の滑走路に出た。

「ここが滑走甲板。君たちが訓練で使うことになる。端から端まで約550mある。侵入してきて引っ掛けロープは端から20m、29m、33mの3本。引っかからなかったらタッチアンドゴーしてまたチャレンジしてね。次。」

メルディーのやる気無さそうな説明を聞いて、そのまま艦橋下の入口から入って中に下った。

「ここが格納庫。今見えないけど先端から第1格納庫、第2、第3と続いて、今いるのが第4格納庫。で、後ろの奥が第5格納庫。以上。次。」

説明を聞いた訓練生のユキ達はメルディーに連れられてもっと下に下った。

その先は迷路のようだった。

「君たちの寝床はこの先の5-1区画の81番室と82番室だから。あとは自由に見ても良いけど怒られないように節度ある態度でいてくれ。あとは君たちでベッドの場所決めといて。以上。」

そう言ってメルディーは階段を上がっていった。

マロニスとスーザ、ゴーラス、ユキは同じ部屋だった。

「よろしく。」

ユキは一言言って3人より先に部屋に入った。

「ちょっと…」

スーザがユキを止めようとしたのをマロニスが腕を掴んで止めた。

「スーザ、ユキの階級は主席1等飛空尉、大尉だ。それにレディファースト。昔から短気なのは知ってるけど少しは抑えろ。」

「分かってるよっ!」

スーザはそう言ってマロニスの手を振り払った。

ユキは奥の2段ベットの下に荷物を置いて制服を整えた。

「ユキ大尉、そこでいいんですか?」

マロニスが聞いた。

「私はここでいいです。」

そう言って出ていった。

「なんだよあいつ…マロニスが敬語で聞いてるのに。」

スーザがかっかして呟いた。

「何かあるな…」

マロニスがそう感じ取った。

「何かって?」

ゴーラスが隣から聞いた。

「ん?あ、いや、なんでもない。あ!俺ここな!」

そう言い手前の下のベッドに突っ込んだ。

「あっ!お前!そこはおれだぞっ!?」

スーザと奪い合いになった。

一方艦橋ではバタバタしていた。

「ファメス中将!ゴリアル海のデスアン基地からの通信が途絶えたと本部から連絡がありました。」

通信兵のバン2等飛空尉が報告した。

「先手を打たれた…と見ますかね本部は。」

ファメスはサーベルを見て言った。

「バン中尉。」

深刻な声でバンを呼んだ。

「はっ!」

「本部に偵察任務を兼任して訓練に出ると伝えてくれ。」

「はっ!」

伝言を伝えに通信室に向おうとバンがサーベルに背を向けた。

「あと!」

バンをサーベルが止めた。

バンは振り向いた。

「訓練はゴリアル海に入る前にして、護衛艦のサーザーに訓練生を避難、そのまま帰還。我々は3日目にボスフォラスと共に奪還する。そのために陸軍から第3突撃隊を送ってくれと共に伝えてくれ。」

サーベルが長い伝言を言った。

「はっ!」

バンは敬礼して通信室に走っていった。

「ファメス中将。」

また深めの声でサーベルがファメスを呼んだ。

「何でしょう、総帥。」

ファメスが聞いた。

「偵察にはあの子を使いたい。」

そう言うサーベルにファメスは驚いた。

「しかし総帥、まだユキは訓練生なんですよ?危険な任務は私は賛同しかねます。」

慌ててファメスは拒んだ。

「ギャン君の娘だ。きっと承諾してくれるはずだ。」

「しかし…ギャン一佐は…」

「君にそれを言われたくない…あれは私の責任だ。娘だからこそできると信じている。いや、今度こそ信じたい…」

そのやり取りが艦橋を静かにした。

「ファメス中将、あの子を連れてきてくれ。」

そうサーベルが命令した。

「…はい。」

ファメスは艦橋を出て降りていった。

第4格納庫に降りた時メルディーとすれ違った。

「メルディー、ユキは?」

ファメスが聞いた。

「81番室に案内して多分待機してます。」

「分かった。ありがとう。」

メルディーを置いてファメスは下へ急ぎ足で降りていった。

ファメスは急いで81番室に向かった。

81番室の前まで来るとドアを開けた。

「フ、ファメス中将!」

マロニスがそう言うとスーザとゴーラスが急いで気を付けした。

「はぁ…はぁ…ユキは?」

少し息を切らして聞いた。

「ここに来てすぐに出ていきました。」

ゴーラスが伝えた。

その時、ユキが帰ってきた。

「ユキ、サーベル総帥がお呼びだ。艦橋へ向かってくれ。」

ファメスがユキに伝えた。

「わかりました。」

ユキは自分の上着を取ると着ながら向かった。

「ファメス中将殿!」

ファメスも出ようとした時マロニスに呼び止められた。

「なんだマロニス。」

マロニスに向き直して聞いた。

「聞きにくいんですが…あのユキという少女は何者なんですか?」

ファメスがマロニスの方に身体ごと向きマロニスを見た。

「それを聞いてどうする。」

ファメスが深刻そうな声で聞いた。

その声の変わりようにマロニスがひるんだ。

「えっと…」

マロニスは言葉が出てこなかった。

「理由がないなら言えないな。」

ファメスがまた出ようとした。

「ユキのことを知りたいんです!仲間として!」

スーザの声にファメスは足を止めた。

「本気か?」

ファメスはその体勢のままで聞き返した。

「本気です。私たちは仲間として聞きたいんです。」

その言葉にファメスもだがマロニスもゴーラスも驚いた。

「わかった。」

ファメスはそう言い部屋に入ってドアを閉めて鍵までかけた。

「これは極秘だ。君たちが他言することは慎んでほしい。」

そう重い声で言った。

「はっ!」

背筋を伸ばして3人が言った。

「まぁそっちの畳に座れ。」

ファメスがそう言うと3人は畳に座り、ファメスはユキのベッドの縁に腰掛けた。

「ユキの何を知りたいんだ?」

ファメスが聞いた。

「すみません、1時間ほど前、港でノール大佐との話を聞いてしまって…」

スーザがそう言った。

「はぁ…なら隠し立てはできんな。」

ファメスが大きなため息を吐き言った。

「10年前、俺がまだ3等飛空佐だった時、2階級上の上司にギャン=ニーザ1等飛空佐がいた。娘はもちろん…」

「ユキ=ニーザ、ですね?」

スーザが聞いた。

「その通りだ。あの時は大佐の娘だったからな。奥さんは病弱で、体調の悪い時でギャン一佐が会議の時はいつも俺が面倒見ててな。2歳なのにもう小説読めるほど頭良くてな…」

「でもなぜ、そんな大佐の娘で頭のいい人がスラムへ?」

そう語ったファメスにスーザが質問した。

「あれは10年前の海戦だった…俺とギャン一佐は偵察で出撃してな。乱戦に巻き込まれたんだ。俺達は敵機てっきバタバタと落としまくった。だが、俺に3機も付いてきやがった。被弾して、足を負傷した。もうダメだって思った時、ギャン一佐がおとりになってな…今でも覚えている…」

ファメスは目を閉じて思い出していた。

『ファメス!お前は帰投しろ!これは命令だ!』

「その言葉で機を急降下させたんだ、力を振り絞ってな。海面まで降りて空母まで戻ったが、急降下から水平飛行に移るその時、上をみたら…火だるまのギャン一佐の機が見えたんだ。戻ってから救助するように頼んだが、危険であるという理由で、そのまま帰投した。そのせいで奥さんは病気が悪化、その2カ月後に亡くなった。親を一気に2人無くしたユキは奥さんの亡くなった日に失踪した…」

そう語るファメスを前に3人はすこし質問するのをためらった。

「俺にとってギャン一佐は俺やノールの上司であり、サーベル大将の部下だった。ほかの上司にはないオーラがあったよ。俺はそれに救われた。」

少し重たくなった雰囲気にみんな悲し目をした。

「ファメス中将はどうしてユキを見つけられたんですか?」

スーザが聞いた。

「ギャン一佐の遺言が見つかったんだ。サーベル総帥が見つけたんだ。それを私に見せてくれてね。その遺言には『ユキが15になったら入軍できるように計らってくれ』と書いてあった。元々、女性入軍案は私ではなくギャン一佐が提案してたんだ。だが、佐官さかんだったから、聞き入れる本部の将官はいなかったよ。だから私が推し進めたんだ。その第一号にユキを入れようと思ったのだが…どこにいるか分からずじまいでな。」

「だから職なしや、戦死した兵の家族が行くスラムへ探しに行ったんですね。」

ゴーラスが聞いた。

「あぁ、そうだ。すぐに見つけられたが…昔の面影は顔以外無かったよ。」

「顔以外無かったってことは昔は別人のような感じだったのですか?」

マロニスが聞いた。

「昔は活発でな、大人しいとはかけ離れた存在だったよ。あの時、私が犠牲になればこんなことにはならなかった…」

ファメスは下を向き自分を責めた。

「今となっては何も変えられないのだがな。」

3人はユキの過去を知ってどう接したらいいか模索していた。

「私はそろそろ出航準備をしなければ…」

そう言い残し鍵を開けて外に出た。

3人はまだ模索していた。

その頃艦橋ではサーベルがユキを艦長室に招いて話をしていた。

「君にこの任務を頼みたい。できるか?」

サーベルがさきの任務を説明し頼んでいた。

「わかりました。細かく指示を頂けたら失敗なく完遂できると思います。」

ユキが答えた。

「あと…君のお父さんのことは、今でも悪かったと思っている…本当に申し訳ない。」

サーベルはユキに頭を下げて謝った。

「いえ、父はサーベル総帥のために任務を全うして亡くなったんです。謝らないでください。」

ユキはそう返した。

「そうだ、お父さんとお母さんの墓の場所は聞いているかね?」

サーベルが唐突に思い出したユキの親の墓のことを聞いた。

「えぇ、ファメス中将から聞いています。もちろん昨日お参りしました。」

ユキがそう伝えた。

「奇遇だね、私も昨日の夜行ってきたよ。あの花は君かね?」

「そうですね。恐らく私です。その前から花が手向たむけられていましたが…」

「恐らくファメス中将かな。君のお父さんの死に一番責任感じていたのは彼だったからな。月命日にいつも行っているのだろう。毎年命日に私は行くんだが、何度か墓地であったことがあるよ。」

そういう話のキャッチボールもここで途切れた。

「そうですか…では私は失礼します。」

そう言いユキがドアへ歩き出した。

「ユキ大尉。」

サーベルがユキを呼び止めた。

「なんでしょうか?」

ユキがサーベルの方へ向き直して聞いた。

「必ず戻ってこい。」

サーベルがそう言うと少し沈黙が流れたが、ユキは、わかりましたと言い出ていった。

サーベルは目をつぶり昔を回想していた。

『ギャン一佐!出来るのかね!』

『サーベル三将、私にはできないことないですから。』

『ギャン一佐。』

『なんでしょう?サーベル三将』

『必ず戻ってこい。』

『わかりました。』

サーベルは目を開け現実に戻ってきた。

「ギャン…許してくれとはと言わないが…お前の娘を守ってくれ…」

そう呟いて窓の外の海を寂しそうに見つめた。

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