プロローグ

広大な青い海の上を進む空母戦艦がいた。

名前は『マメス』

マデラン共和国の空軍所属艦である。

挙国一致での艦隊、『エンドの布陣』では第6艦隊の中枢で、別名、【空の制圧者】と言われている。

『敵機右10度から数機!!』

見張り員が大声をあげた。

「偵察機を探せ!!高角砲は何をやってる!早く撃ち落とさないかっ!!」

艦長のサーベル大将が直上を飛行する敵機に顔ごと追っていった。

「サーベル大将!偵察機一機が着艦体制!もう一機は見えません!」

サーベルは着艦した偵察機を見て驚いた。

数弾被弾しており窓は血だらけだったのだ。

「一機だけかっ!?もう一機はどうした!?」

サーベルが見張り員に聞いた。

「周辺目視で探しましたがもう一機は見当たりません!」

返答はサーベルの頭に“撃墜”の二文字をよぎらせた。

飛行甲板に降り立ったファメスは血を流しながら白煙を上げる偵察機から降りてきた。

「ギャン大佐が…」

衛生兵に止血されファメスの言葉が途切れた。

ファメスは衛生兵をぎ払うと走って艦橋まで向かった。

薄れゆく意識の中艦橋のドアを力一杯開けた。

ファメスは勢い余り艦橋の床に倒れた。

「ファメス少佐!」

周りの兵達がファメスを囲んだ。

「ファメス君!ギャンはどうした!」

サーベルはファメスを抱え起こし聞いた。

「ギャン大佐は…30分前に…敵機との交戦で…洋上に…早く…引き返して救出を…」

ファメスはギリギリ聞き取れるくらいでサーベルに懇願した。

「よし、帰還コース30分前の位置に向け航行しろ!」

サーベルが指示を出した。

「ヨーソロー!」

航海士は敵機が向かってきた右10度に艦首を向けた。

「サーベル大将!」

レーダー室から連絡が来た。

「衛生兵!ファメスを頼む!レーダー室、なんだ!」

サーベルがそういうと艦内無線で返答した。

「艦首方向に敵艦隊!このままだと敵艦隊に突っ込みます!進路変更を打診致します!」

砲雷長がサーベルに打診した。

「サーベル艦長!私は戦いギャン大佐を救うべきです!」

雷撃長のノール大尉が艦橋に赴きサーベルの行動を肯定した。

サーベルは悩んだ。

ギャンという有能な人物を救うために敵艦隊に突っ込むべきか。

将又はたまた、残り少ない弾薬や乗員2502名の命を危険から回避するか。

艦橋は時間が止まったかのような静寂が過ぎた。

「航海長…」

サーベルは航海長のベルーラン中佐に声をかけた。

「なんでしょうか艦長。」

ベルーランは冷静だった。

「これより、残り少ない弾薬の補給と破損箇所の修復のため帰投する…」

サーベルは眉間にしわを寄せ、唇を噛み締めた。

「サーベル艦長!ご再考を…」

「黙れっ!!」

ノール大尉の懇願を退けたサーベルは悔しそうに艦橋の柱に思いっきり拳をぶつけた。

「通信長!至急撃墜地点に迎撃部隊と捜索部隊を展開せよと本部に打電!」

サーベルは吠えるように指示を出した。

「了解しました。」

通信長はそういい無線を切った。

サーベルはギャンを見捨てたのではなく、苦渋の決断を強いられ、やむを得ず帰投することにしたのだ。

2502名とギャンの命を天秤にかけ決断したのだ。


日没前、ファメスとギャンが交戦したとされる海域でギャンの乗っていたJ801型戦闘機が残骸で発見された。

ギャンの遺体は見つからなかったという。


弔銃隊ちょうじゅうたいひかつつ!」

小銃を持った兵達が胸の位置で奉げた。

「射撃用意!」

小銃を肩に付けた。

「撃て!」

バンバン、バン!

青空に弔砲が鳴り響いた。

ギャンの捜索は2日に及んだが身体自体は見つからなかった。

しかし、爪の一部や折れたと思われる歯が見つかったため戦死したとされた。

サーベルはギャンの墓に花を手向けると車椅子に乗るギャンの妻、アーリンとギャンの娘、ユキの元へ歩いた。

「サーベル大将…夫がお世話になりました…」

アーリンが車椅子で頭を下げた。

「とんでも御座いません!私は…ギャンを…見殺しにした高官です。大将としてギャンを守ることが出来なかった意気地無しです…」

サーベルは涙を流しながら自分を下した。

「そんな言わないでください。夫は職務を全うしたのです。話を聞いたところ1度は助けに行こうとしたそうではありませんか。敵がいたのです。仕方がありません。」

アーリンはサーベルを擁護した。

「しかし…」

サーベルは涙を堪えるばかりだった。

「サーベル大将、あなたは夫と同じような信頼している部下がほかにもおりますことでしょう。その方達と夫の仇を取ってはいただけませんでしょうか。」

サーベルは左手で顔を覆いアーリンの目の前で号泣した。

サーベルは新たな目標に向け歩き始めた。

アーリンとユキを見送るとファメスが包帯をいたる所に巻き、軍服でサーベルの所に来た。

「ギャン大佐は私をかばって敵機に撃墜されたのです。私の技量不足がこのようなことを招いてしまったのです…責任は私が負うべきです!」

ファメスがサーベルの後ろで訴えた。

しかし、サーベルからの返事はなかった。

サーベルは振り返り、ファメスの肩を一回軽く叩き、去っていった。

ファメスは本部に戻ると人事部に向かった。

人事部長、ハーべラスが電話をしている最中だった。

ハーべラスはファメスに待つように手のひらを見せた。

しかし、すぐに電話を切った。

「ファメス少佐、何のようかね。」

ハーべラスがいつもの陽気な感じでファメスに要件を聞いた。

しかし、ファメスはハーべラスに辞表を出した。

ハーべラスは辞表を受け取るとファメスを睨んだ。

「なんの真似だねファメス少佐。」

先程とは打って変わった表情とトーンで聞いた。

「ギャン大佐を死なせてしまったせめてもの償いです。」

ファメスは胸を張りそう言った。

はぁ…

ハーべラスはため息をつくとファメスの辞表をゴミ箱の上で破り捨てた。

「ハーべラス人事部長、なにを…」

ハーべラスはファメスの頬を殴った。

ファメスは地面に倒れた。

「サーベル大将からの指示だ。『ファメス少佐の頬を殴る厳罰に処せ』との御達しだ。さぁ、これを受け取って身体を癒してこい。」

ハーべラスはファメスに封筒を投げた。

ファメスはすぐに開けて中を見た。

『敵との交戦において、偵察の任務を果たし、作戦の成功を担った。これからの精進に期待し、次なる作戦告示と共にファメス少佐を異例ではあるが、中佐への昇進並びに護衛艦ファスタシップ副艦長に任命する。空軍大臣。』

ファメスは読み終えた所でハーべラスを見た。

「お前は状況に応じて指揮を取れるとギャンから聞いたからな。一度人をまとめられるようになってこい。期待してる。」

ハーべラスがそう言うとパイプに火をつけた。

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