【完結】 exile 異端《ウィルド》の血を引く魔女であることを隠すため、性別を偽り男装して聖騎士となったのに付き従う部下は超女ったらし亡命者と無表情にグイグイ迫る黒髪黒瞳の鉄血参謀
「アッーーッチッチッチーーー!! 何しやがんだいきなり!」
「アッーーッチッチッチーーー!! 何しやがんだいきなり!」
「やあやあこれはこれはどこのどなた様かと思えば我が永遠の朋友にして宿命の敵、ターレン・アルトゥーリ卿ではないか! こんな敵地のど真ん中で再び貴公と
グラスがわりのゴーグルを指先でかかげ、お調子者ぶって振り返ったところへ。
ホースでぶちまけたような無数の銃弾に見舞われた。
銃火にあおられた髪がチリチリに焼け、ゴーグルが飛び、手袋に穴が開く。
「……次に会うときは敵だと言ったはずだけど」
束になった黒光りのする銃身から、硝煙がいくすじも流れる。
「昨日の敵は今日の友と言うじゃないか」
「口いっぱいに銃弾つめ込まれたいなら、お望み通りにするけど」
猫背ぎみの姿勢に、油じみの浮いたボア付き作業着。やたらと膨らんだ腰袋。襟元には白マフラー。
目深にかぶった耳垂れの帽子の下に、陰鬱なまなざしを片方隠している。
ゾディアック帝国軍、第十
アルトゥーリは、幅広のベルトで肩がけした軽機関銃の先をアンドレーエに向けて突きつけた。丸い盾のような
「よくもやってくれたな。見逃してやった恩も忘れて」
押し殺した声で吐き捨てる。
アンドレーエは、服のあちこちに開いた穴をはたいた。焦げくさい埃が立つ。
「何だよ、久しぶりに会ったってえのに。ずいぶんなご挨拶だな。せっかくの一張羅が穴だらけだ」
振り返ってアンシュベルを手まねく。
「アンシュ、もういいぞ。こいつは俺の知り合いだ」
「なぁんだ、そうならそうと早く言ってくれれば」
アンシュベルが瓦礫の影から顔をのぞかせる。
「勝手に動くなって……女!?」
機銃を突きつけたアルトゥーリに向かって、アンシュベルは手を横にぴょこぴょこと振って走る女の子走りで駆け寄った。
あざとい上目づかいでぴょこん、と懐に飛び込んでニコニコと愛想を振りまくや、両手を取って柔らかい胸元へと押しつける。
「初めましてぇ、あたし、第五師団の師団長付きメイドのアンシュベルって言います。師団長の身の回りのお世話をさせてもらってまぁっす!」
アルトゥーリの顔がこわばった。
「めっ、メイド……さん……だと?」
「油断するなよ」
痛ましげな表情で、アンドレーエは忠告する。
「
アルトゥーリがはっと我に返った時にはもう遅かった。
円盤型の弾倉が分解され、足元にがらりと音を立てて落ちる。こぼれた弾丸が地面にバラけた。
「てへ、ごめんなさいですう。壊しちゃいましたぁ」
アンシュベルはぺろりと小さく舌を出す。
アルトゥーリは顔を半分ゆがめた。使い物にならなくなった機関銃を放り投げる。重い音がした。
「俺の考えた最強の秘密兵器その一をいきなり壊すとか、何。だから女は嫌いだ」
瓦礫の崩れる音が聞こえた。鉄の棘に覆われた漆黒の宮殿を振り返る。
「しまった。こんな奴らを相手にしてる場合じゃなかった」
異様な質量を帯びた黒紫の霧が、宮殿を取り巻く城壁からふつふつと吹きこぼれている。
アンドレーエは馴れ馴れしく声をかけた。
「おう、奇遇だな。ちょうど俺たちもあれを何とかしようと思って駆けつけたとこだ。手伝うぜ」
「邪魔すんな。うっとーしい」
「何でよ。敵どうしが恩讐を越えてガッチリ手を組むとか、超燃える展開じゃね?」
「うざ。話しかけんな」
あからさまにいらだった声が返る。アルトゥーリは、腰袋から部品を取り出した。またたく間に鋼鉄の
「何ができてんの」
「誰が教えてやるもんか。黒コゲにすんぞ」
手筒の先から、一瞬、青い炎が走った。どうやら火炎放射器らしい。
「うへえ……マジですげえんだな、おまえ」
緻密で的確な手際をほれぼれとながめる。
「うちの副官が見たら土下座して涙流して弟子入りさせてくれっていいそう。もう副官じゃねえけど。いやさあ俺さ、実はさ、お尋ね者になってんだよね。いろいろやらかしちまってさ」
「いちいちうるさい。あっち行って」
猫背を向けたまま、振り返りもせずにアルトゥーリは手作業を続ける。
「なあなあ、あれ、何だと思う。まさかサリスヴァールが魔物の召喚失敗したとか?」
アンドレーエはわざとカマをかけた。
「まさか。いや、イェレミアスならあり得るかもだけど……って、誰が敵に教えてなんかやるもんか。ばっかじゃねえの」
アルトゥーリは完成した火炎放射器を手に立ち上がった。
振り返るなり炎を勢いよく吹き出す。
鼻先に炎が迫る。アンドレーエは海老反りにのけぞった。眉毛が炭化する。
「アッーーッチッチッチーーー!! 何しやがんだいきなり!」
「着火確認よし。動作検証よし」
「焼き殺す気か!」
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