ひげを剃る。そして女子高生を拾う。

作者 しめさば

キマイラよ、それでも君は女子高生を拾うか?

  • ★★★ Excellent!!!

 異世界転生がほぼ一強と言って差支えがない現代のライトノベルないしウェブ小説界。俺つえーは確かに爽快だし、現代社会の不平不満は時代が進むほどに色濃く反映されてくることと思う。

 しかし、そんな現状にいまいち乗り切れないはみ出し者たちはウェブという露頭を彷徨い続ける。異世界、異世界、転生、転生、異世界じゃないかなと思ったらやっぱり異世界。お、これは、現代を題材にした作品か、おい、未完で作者が投げ出しているぞ、異世界異世界異世界、現代を題材に、いや、これは、もはやハリーポッターでは、みたいなサルベージを繰り返しては憂う日々。

 更に、はみ出し者の中には年を重ねた者たちも。かつて学生だった時の熱量も暇も持ち合わせておらず時代にもハマれない。その癖ハードカバーや新書には聡くない文芸界のキマイラ。

 そんな生きそびれてしまったモンスターの一人が私。もう涼宮ハルヒなんてアニメ化されて十年以上経過している。自分で書いて十年かと少しへこんでしまうくらいに時の流れは残酷だ。

 だが、キマイラの衆よ、私はそんなハードカバーは読まなくて近年のライトノベルに抵抗感のある皆さんにこそ、この『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』を勧めたい。


 書籍化もされている本作は、あらすじだけ見ると「なんだよ、女子高生といい感じになるラブコメか。」と思ってしまうが、その実きちんと錬られたドラマと、ほどよい現実のデフォルメを施されたキャラクターの魅力が味わえて、他のウェブ作品とは一線を描く物語が展開されている。

 まず家出してきた少女を拾うことの葛藤が描写され続けることが面白い。決してご都合主義には傾くことがなく、女子高生を拾った「おっさん」も「女子高生」自身もその事に対し悩み続けるのだ。そして、ふたりの生活の中には希望があって、けれど一線を越えてしまいそうな危うさもあって、思わずページを進める手が止まらなくなることだろう。

 更に関係図だけ書けば『ハーレムもの』になってしまいそうな主人公をめぐる登場人物たちも、複雑でややこしくて、社会人という設定特有の甘さだけではない一面を持っているのが魅力的なのだ。悪役的な登場人物への対峙も地に足がついている感じが割と現実的に見える。

 つまるところ、この物語の作者はバランス感覚が絶妙なのである。いわゆるライトノベルにカテゴライズされるような軽い文体の中に、生々しい描写が加わっているので、読みごたえがあるのに何処が寓話性のようなものも感じられる。

 書籍化されるべくしてされた作品という印象で、これには文芸キマイラの私も「すげえ」と呟かされてしまった。なんなら私は書籍を買う事を決意したくらいだ。こんなに読みやすく、えげつない部分にも踏み込んで、その癖続きが気になる連続ドラマのような物語。これが流石に売れないのは嘘だろう。


 綺麗事だけでは済まない家出少女をめぐる物語は、キマイラたちに、それでも女子高生を拾うのか、と問いただしているようだ。

 キマイラたちよ、拾うのは厄介だが、拾い読みするのは至高である。気難しいキマイラたちにも是非読み進めて貰いたい一作だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

その他のおすすめレビュー

横林大々(コント)さんの他のおすすめレビュー 8