第1話 嵐
世界樹の森の大陸の近海は、荒れるに荒れていた。尋常ではない嵐だ。
白鯨号はそんな嵐をものともせずに進んでいる。凄まじい荒波なのに、ほとんど揺れも感じられない。快適な船旅って感じだ。この船は世界最高の船だからな。
しかし、ここでちょっとした問題に直面していた。船の進路が、無数の大きな“渦”に阻まれたのだ。
「“魔導炉”を起動させりゃ突っ切っていけると思うが、どうする?」
ルドルフが俺に向かって言う。魔導炉っていうのはつまりあれだ……ええと。まぁ、あれだ。簡単に言うと、すげー力で無理やりこの海域を突っ切ろうってわけだ。
「俺たちは大丈夫だが、他の船員は耐えられるか?」
「アイの魔法でどうにかならねぇか?」
ルドルフがアイを見る。
「厳しいかもしれません。あれは、なんて言うかこう、感覚的なものですから……」
魔導炉が発動すると、発せられる凄まじい魔力により、酔ったような状態に陥ることになるのだ。吐き気以外にも、頭痛や耳鳴り、それに全身の骨が軋むような感じ……あれはきつい。魔法使えるヤツは比較的症状は軽いみたいようだが……。
「いったん近くの港町に停泊して、嵐が静まるのを待つか」
「そうするか」
数日もすれば収まるだろう。最悪、他の船員たちは港で待機させておいて、強行突破するしかないか。
『この嵐は静まりません』
「誰だ!」
船室の隅から聞えてきた“音声”に、俺たちは振り返った。
『お久しぶりです、レオン様』
「お、お前は……! え? 誰?」
見知らぬ顔だ。魚人種の女みたいだが、面識はない。
「レオンさん……また女のひとと……」
「ち、違うって! 俺は何も!」
アイからものすごく怖い気配が放たれているのがわかる。アイを怒らせたらどうなるのか、正直見当もつかないが……とても恐ろしいことになるのは間違いないだろう。ミネアとのことが知られたら……うぉぉ……俺はなんてことを。
『リディルの港町では、大変お世話になりました』
ん? リディルの港町、リディルの港――。
「って、あの時の魚人か?」
旅の一番最初で立ち寄った、リディルの港町での出来事を思い出す。
ボロ布を被った魚人に、食糧を買ってやったんだったな。
『はい。あの後、レオン様に言われたとおり、仲間たちとともに安全な海域に移動しました。そこで偶然、海王様の家来の方と出会い、この海域まで連れてきてもらったのです。海王様は、住み家を失った魚人たちを“海の城”へと招き、そこで暮らせるように配慮してくれているのです』
海王。ああ、そうか。ここは海王の住む海域でもあったのか。
「ということは、この嵐は海王に関係していることなのか?」
『その通りです、レオン様』
そして魚人の口からは、なんとも恐ろしい事実が語られた。
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