第5話 マンドラゴラ
午前中は畑で暴れている野菜たちの処理に追われた。アレがそこらの町でも行き、人を襲うようなことになれば大惨事だ。
その後はドリアードに畑のほんの一部を浄化してもらい、土を入れ替え、たい肥をまいた。
後は水、か。おれとシエルは昨日確認した、あの川へと向かうことにした。
「あのーー、ダガーオニイサンー。変なお野菜さんがあるんですけどーー。あれ、なんでしょーかー?」
出かけようとしたおれを、ドリアードが呼び止めた。
妙な植物がそこにあった。毒どくしい色の葉が、風にわさわさと揺れている。これは野菜なんかじゃない。
「これは……マンドラゴラだ」
「マンドラゴラ?」
シエルとドリアードが同時に言った。
「根っこの部分が人の形をした、毒の植物だ。引き抜いた時に凄まじい叫び声を発し、それを聞いたものは発狂する。調剤の仕方によっては万能な薬にもなるらしく、錬金術師たちが喉から手が出るほど欲しがる代物だ」
「へーー。すごいんですねー」
しかし何故、畑にマンドラゴラが生えるのだ。王国の錬金術師たちに知れ渡れば、ただ事ではなくなるだろうな。
「ロープがあれば、葉にくくりつけて、叫び声が聞こえない位置から引っ張って抜いてしまうのがいいだろう」
「あーー、ロープ、ありますー。ちょっと待っててくださいー」
ドリアードが家に向かおうとした、その時だった。
「へいへいへいへい、待ちなおじょうちゃん!」
地面から声が聞こえてきた。おれたちは顔を見合わせた。まさか、このマンドラゴラが喋ったとでもいうのだろうか。
「よっこらせっと」
ぼごっと土からマンドラゴラの根っこの部分が現れた。そいつはまるで小人のようだった。目と口の部分は丸く穴が開いている。
「ったく、せっかく最高の土地を見つけたってのによぅ。おいらを追い出そうったってそうもいかねぇぜ!」
マンドラゴラがぴょんぴょん飛び跳ねる。
「わー! かわいー!!」
シエルが翼でマンドラゴラを包み込んだ。
「うひひひ……はっ。鳥のおじょうちゃん、やめてくんな。おいらのアイデンティティが崩壊しちまう。おいらはだんでぃに生きたいのさ」
マンドラゴラがぴょんと翼から抜け出した。
「おまえさん、この畑を元の豊かな畑に戻そうとしているんだってな」
マンドラゴラがおれに言う。
「悪いことは言わねぇ。おとなしく帰りな。そうすりゃ、命はとりゃしねぇよ」
おれはダガーを構えた。
「くくく。強気だな。いいだろう、格の違いってもんを見せてやるぜ! 後悔すんなよ、あんちゃん!」
そしてマンドラゴラが飛びかかってきた。
「すんませんでしたー!! 命だけはー! 命だけはお助けくださいー!」
マンドラゴラが土下座した。
弱い。とてつもなく弱かった。
「さっさとこの畑から出ていけ」
「へ、へい! ただちに!」
「あー、まってくださいー、マンドラゴラさんー」
「へい、なんでしょうかおじょうちゃん」
「ここを豊かな土地にする、お手伝いをしてくださいませんかー? そうすればずっと、この畑にいてもいいですよー。マンドラゴラさんのためにー、ちょっとだけですけどー、よくない土を残しておきますからー」
「な、なんて優しいおじょうちゃんだ! こんなオイラに手を差し伸べてくれるなんて! 一生ついていくぜ!」
「わー、よかったね! マンドラゴラちゃん!」
「おいらのことはドラゴって呼んでくだせぇ! こう見えてもマンドラゴラ界のプリンスなんですぜ!」
「わー! よくわからないけど、すごーい!」
「へへへっ!」
なんだかわからないが勝手に話しがまとまっているようだ。余計な時間を食ってしまった。
「……ちっ。勝手にやってろ」
「あ、待って! ダガーおにいさんー!」
おれはドリアードとマンドラゴラを残し、早足で川へと向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます