< ――――――乙十二 >

 行き違いになったか、と宇佐美は『扶桑』のカタパルトから打ち出されながら思った。

 飛んで行った味方機とは別の、ほぼ真北の方角からソビエトの爆撃隊が、多数現れたというのだ。

 艦隊は江草たちを回収するために南に進路をとっており、後方から襲撃される形になっている。

 しかも、比較的低空を進んできたためにレーダーでの発見が遅れ、大慌てでの発進になってしまったようだ。

 周りを見ると、『扶桑』と『山城』から第一陣六機の一式水上戦闘機が上がってきている。一度に上がれるのはカタパルトの数と同じ、三機ずつ。

 空母『蒼龍』からは、直掩用に残された零戦が発艦を開始していた。

『出撃済みの艦載機は本土に帰還するように指示をした』

 無線で指示が入る。帰還するまで、降りるための甲板を守り切れているとは限らないということだ。

 逆に言うと、無理して宇佐美たちが空母を守りに行くこともない。『蒼龍』には自前の戦闘機だってあるのだ。

 考えを整理しながら宇佐美は高度を上げ、敵の爆撃機を目指す。

 彼の乗る一式水戦は、艦隊に言えば下駄履き零戦だ。着陸装備と、英国人に「途中で寝そうだ」といわれるほどの航続距離を犠牲に、水上機用のフロートを装備したものだ。戦力も新鋭戦闘機のそれに準じたものだ。

「爆撃機ばかりで来たのか……?」

 遠くの空に見えてきた敵機の中に戦闘機は見えなかった。

 話に聞いたソビエト版メッサ―の双発機も護衛についていないようだが、どうにも多勢に無勢だ。

 大小四十以上は飛んで来ている。しかも、相手はやたら頑丈だと聞いている。

 はたして阻止しきれるかどうか――今しがた打ち出された、第二陣六機を追加してもだ。

 と、そこで敵が二手に分かれた。一方はそのまま後方からまっすぐ迫り、もう一方は左舷側に回った。

『戦闘機は、後方の敵に集中せよ。左舷は艦で対応する』

 無線で命令が飛んできた。

 宇佐美は前方の敵編隊に向かい、僚機も行動を同じくする。

 さらに第三陣の水戦、そして巡洋艦『利根』『筑摩』から“万能機”と称される零式水上観測機が合わせて四機打ち出された。

 それからしばし間をおいて、『扶桑』と『山城』が猛煙とともに左舷後方へ主砲を放った。

 砲弾は敵編隊のだいぶ手前で炸裂し、盛大に火花をまき散らしながら、四機ばかり爆撃機を叩き落した。

「派手な割に今一つだな」

 宇佐美は知らなかったが、『長門』よりも高性能のレーダーを搭載した二隻の狙いは正確だった。今回は炸裂のタイミングが合わなかっただけだった。

 とはいえ、その派手な砲撃は真後ろの編隊の気を引いたようだった。

 慌てたのか、見る間に隊形を崩して散開していく。

 これは好機と、宇佐美をはじめとした迎撃隊は、迫りくる爆撃機に食らいついた。

 打ち返してくる機銃弾をかいくぐりながら、回り込んで二十ミリ機関砲弾を打ち込む。

「うわ、硬ぇ!」

 でかい二十ミリ弾を受けても、爆撃機は火を噴くこともなく飛び続ける。しかし、無傷とはいかなかったのか、傾いてコースをそれていった。

 やっと一機。ほかの僚機は、さらにてこずっているようだった。

 見る見るうちに艦隊に近づいていく。

 だが、ひとつ腑に落ちないことがあった。

 今更回り込むつもりか、戦艦や空母とはコースが離れているのだ。

 

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