< ――――――――乙参>
加藤たちは、青森にきて早々、急遽舞台を率いて西に向かうよう命じられた。とにかく緊急らしい。
途中で海軍の小型爆撃機や双発攻撃機と合流して、目的の海域に向かう。
と言っても陸地が遠くなったら、誘導は海軍任せだ。たださえ、この辺りの地形には疎い。
「あれが竜飛岬だったかな」
雲間にそれらしき先っぽを見つけた。何隻か大型艦も見える。
だが、何か違和感を感じた。
「長門と赤城?」
デカいがサイズの違う二隻が、少数の護衛を伴って、まっしぐらに陸奥湾を目指している。
海軍の事には明るくない加藤だが、普通は同型で動くものだろうと思った。
だが、小一時間ほど飛んだところで、その理由は分かった。
そこは既に戦場だった。
大火災を起こしながら漂流する戦艦、そして小型艦にまもられてもたもたと進む一回りデカい戦艦が見えた。
潜水艦の残骸らしきものも、一つ二つ。
また低めの空を下駄履き水上機が飛び回り、辺りを警戒しているようだった。
「飛行機は、来ていないようだな」
飛んでいるのは、日の丸の機体ばかりだ。
『艦爆隊が攻撃をはじめる。戦闘機隊は上空から見張りを………』
隊内無線で指示が飛び、艦爆隊の一部が降下を始めた。
見ると、その先で潜水艦が急速潜航をかけている。
今のところやることは無いので、言われるとおり”見張り”を始めた。
「なんだ……?」
遠く大陸寄りの雲間から、数隻のフネが北上するのが見えた。
そんな遠くのを気にしても仕方ない、とその時は六に気にも留めなかったが、後にどうしようもなく後悔することになる。
やや時はさかのぼる。
戦艦「陸奥」炎上の報をうけ、艦隊は緊急戦闘態勢に入っていた。
とにかく整備が出来ているということで、オマケに小型爆弾を二つ付けられた一式水戦で、「山城」を放り出されたのが十分前。
宇佐美は真っ先に空へ出ていた。
命令は、潜水艦を見つけろ、だ。出来れば撃破しろと。
とにかく、水面に目を凝らす。
「そう言われてもな」
単座の戦闘機で対潜はしにくい、と思っていたらすぐに一隻発見した。
「敵潜、はっけーん」
無線で「山城」に呼びかける。
『爆撃せよー』
「りょうかーい」
宇佐美は、一応訓練でやった程度の無理のない急降下をかけて、潜水艦の辺りに爆弾を落とした。
あえなく、はずれ。
「スマン、はずした!」
『カマワン、どいてろー』
どういうことだ、と宇佐美は上昇させて見渡すと、「山城」からデカい発砲炎が見えた。
四発、もう一度四発。主砲の交互射撃だ。
ここまで凡そ二万二千から二万五千程度、十分狙える距離だ。
少しして砲弾が宇佐美の眼下に相次いで落下し、爆弾を落としたあたりを覆うように、大きな水柱が何本も立ち上がった。
そして、一瞬だけ敵潜のスクリューが水面に飛び出し、すぐに水中へと消えた。
上空から見て砲弾は直撃はしてないかったが、戦艦の巨弾は落下と爆発の衝撃だけでそこにあった潜水艦を叩き割ってしまった。
「敵潜水艦、轟沈を確認」
『了解。捜索を続けよ』
母艦「山城」からの落ち着いた口調での返事が、逆に宇佐美の気を引き締めさせた。
「了解!」
見渡すために機体をもう一段上昇させる。
少し離れた水面では、空母「蒼龍」の艦爆が投げつけた爆弾がさく裂していた。
相手を見つけたのか、駆逐艦があちこち走り回っている。
一体どれだけの潜水艦が潜んでいたのだ、と宇佐美は再び水面に目を凝らした。
「まだ居るじゃねえか」
すぐ近くで、戦隊を組んでいたと思しきもう一隻が、慌てるように潜って行くのが見えた。
すぐに「山城」へ無線でそれを知らせる。
『観測機を向かわせる。それまで、見失うべからず』
「りょうかーい」
観測機が来るなら安心だ。
宇佐美は、すぐにやってきた観測機にその場を譲り、他に潜んでいないか探しに移った。
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