七 壊れた未来が見える
拘束具の付いたベッドの上で、眠っていた女性が目を覚ました。ずっと生き残ってくれていたゼファドーアだ。
私を私と認識してくれたゼファドーアに、私は涙を流して喜んで抱きついて、戸惑わせながらも頭を撫でてもらった。
今回はちゃんとジョオアと相談して、ゼファドーアをこの家に連れてくることに決めた。ジョオアは危なげなくゼファドーアを連れてくることに成功し、私は彼女に浄化の実を与えることができた。
浄化の実は育つ速度が遅いから、ゆっくりと一人ずつしか元に戻すことはできないだろうけれど、少しずつ、みんなを元に戻せればいい。そしてみんな元に戻って、壊れていない世界が戻ってくることを願う。
「言い伝えの真実はそういうことだったんだね」
ジョオアから今までの出来事を訊かされたゼファドーアは、原因であるジョオアに敵意を向けることなく淡々と呟いた。原因に対して恨みを持たないのは大人ならではの対応なのか、ゼファドーアがサバサバしているからなのか。どちらなのかはわからないけれど、とりあえずいざこざが起こらなそうなのは安心する。
彼女もサウルが元に戻ったときと同じように、浄化の実の副作用からか強烈な眠気を訴えていたけれど、徐々に回復していった。日常生活にはもうほとんど支障がなくなってきている。
「ゼファドーア。一緒のベッドで眠ってもいい?」
ゼファドーアの部屋を覗き込みながらそう訊くと、優しく微笑んでくれた。女同士で眠れるというのがこんなに安堵感に包まれることとは思わなかった。
ジョオアと二人きりだったときは寂しさに負けて、しょうがなく一緒に眠ったけれど、こんな風に安心しきれるものじゃなかった。それに変な話を聞いてしまったから、今じゃ絶対に一緒に眠るなんてことはできない。
二人でベッドに入ってゼファドーアの腕に自分の腕を絡ませる。母親に甘える小さな子供みたい、と少し恥ずかしくなったけど、今までずっと大変だったのだからこのくらいは許されて欲しい。
「また次の人が来たら、もう部屋がなくなっちゃうね。そうなったらここは女部屋になったりするのかな」
想像して、少しわくわくした。でも大勢で寝るのなんかイヤだという人がいたらどうしようか、なんて今から心配してもしょうがないことを心配したりする。
「ずっとね。冷たい所にいるみたいだった」
しばらく話をしていると、ゼファドーアは天井を見たまま呟いた。その言葉に私の心は凍りつく。
「理性がなかった時のことは、うっすらとだけど覚えてる。あたしは……」
「ダメだよゼファドーア。自分を責めちゃダメだよ。私は生きててくれただけで嬉しいんだから」
私はゼファドーアの言葉を遮る。余計なことを考えないように。
サウルの泣き顔を思い出す。自分の罪の意識に耐えられなくて、顔も心もぐちゃぐちゃにしていた。顔には出さないけれど、ゼファドーアも心がぐちゃぐちゃなのだろう。どれほどの苦しみなのかは、体験していない私には想像するしかできないけれど、こんな壊れた世界だもの。罪なく生きることなんてできるわけがない。だから自分を責めないで。
私はゼファドーアの腕に絡めてる腕に力をこめた。そうしないとゼファドーアがどこかに行ってしまう気がして。
「冷たい所から出られて、今はあんたの体が、とても温かいよ」
ゆっくりと、そう言葉を紡いでくれたゼファドーアの顔を見ると、微笑んでいた。母親が子供のことを愛しく見るときにする笑顔みたいだと思った。
ほっと息を吐いた。ゼファドーアは大丈夫だ。私の側にいてくれる。
安心したからか、眠気にゆるりと襲われる。
「ゼファドーア……。いっしょに、生きていこう……ね」
私はそう呟いて、ゼファドーアの返事を聞く前に眠りに落ちた。
* * * *
翌朝、目を覚ますと隣にゼファドーアはいなかった。もう起きて顔でも洗っているのだろうか。それとも朝ごはん作りを手伝っているのだろうか。
深くは考えなかったのに、なぜか胸に強い不安がわだかまる。
「え? ゼファドーアが? いや、見てないけど」
朝食を作っているジョオアは手を止めて眉をひそめた。
あくびしながら階段を下りてきたサウルにも訊いてみる。
「それって……」
サウルの寝ぼけていた顔が、一瞬で厳しい表情に変わる。眉間にしわを寄せて考えている。考えている、というよりは可能性を否定したくて迷っているようにも見える。それは、私も頭のどこかで考えている、否定したい可能性と同じなのだろうか。
「外を……探した方がいいと思う」
サウルは私が否定したい考えを否定せずに口に出した。
ジョオアは何も訊かず「わかった」と応えた。
「二人ともここで待ってて。今日は雨が降りそうにないから、間違っても外に出て探そうなんて考えないでくれ」
ジョオアはほとんど完成している朝ごはんを、私にテーブルに並べておいてと言って出て行った。けれど私は動くことができずに立ち尽くすことしかできない。
サウルも不安な顔をしていて、『大丈夫』という言葉は言ってくれなかった。
“化け物”だった人の気持ちはサウルの方がわかっているだろう。だから結果を確信しているのだろうか。だから何も言わないのだろうか。
サウルは無言で朝ごはんをテーブルに並べた。そのご飯は、結局手を付けることはなかった。
* * * *
ゼファドーアは、否定したかった可能性の通りの結果で、ジョオアに抱かれて帰ってきた。
アヴァリエ様の前で首をかき切って死んでいたのだそうだ。
ジョオアがペリサデやチコカ、マリーチェママたちと同じ場所にお墓を作ってくれた。その前で思い切り泣いた。
どうしてだろうという疑問が消えない。何でこうなっちゃったんだろうという悲しみが消えない。
あの時、私に微笑みかけてくれたのに――
「どうしてなの……?」
小さく呟いてみたけれど、きっと誰かに説明されても私には理解できないと思う。化け物になって、仲のよかった人を食べて、そして正気に戻る。その気持ちを想像してみても、その想像の悲しみなんかよりももっと超えた、色々なものがぐちゃぐっちゃに混じった絶望に違いないから。
サウルなら、わかるだろうか。
隣で、一緒にゼファドーアへのお別れをしてくれているサウルは、悲しみと一緒に悔しさもにじませていた。
サウルがゼファドーアと何かを話していたのは知っている。その話は私が立ち入れない話だということもわかっていた。破滅の気に満たされたことのある者にしか分からない話をしていたのだ。そうしてゼファドーアが罪に潰されないように話をしていたのだろう。
けれどこんな結果になってしまった。サウルの言葉は届かなかったのだろうか。共感できる人が側にいても拭えないような、深い絶望だったのだろうか。
そんなに深い絶望なのに、サウルは生きることを選んでくれた。とてもありがたいことなのだと改めて思えて、私はサウルの手を握る。
サウルは何も言わず、服の袖で私の涙を拭ってくれた。
雨が降ってきた。ゼファドーアの死を悼むような、繊細な音がする雨だ。
サウルが私の手を握ったまま「中に戻ろう」と言ってくれる。細かな雨が少し冷たく体を打つ中で、サウルの手はとても暖かかった。
涙は止まらないまま家の中に入った。どれくらい泣き続けたのかわからないくらい泣き続けて、泣き疲れて、二人してソファに座って手をつないだまま、気がつけば眠りに落ちていた。
家の中にジョオアはいない。
サウルがまだいなかった頃、破滅の気に満たされた人が死んだのを見たとき、私はいつも泣きじゃくって、ジョオアはそんな私の頭を撫でて慰めてくれた。思わず抱きついてしまったときも、抱きしめ返してくれていた。でも今は正直彼に無防備に甘える気にはなれない。彼自身、私のその気持ちを察しているのかわからないが、ゼファドーアを埋めた後すぐ、外の偵察に出て行っていた。
それとも、ジョオアはこの時代の人間じゃないから、この時代の悲しみは、この時代の人間同士だけで分け合った方がいいとでも考えているのだろうか。この時代を破滅させた自分には、泣く権利なんかないとでも考えているからだろうか。
彼自身が泣いている所を見たことがない。みんなの死を淡白に受け止めている、というわけではないと思う。よく泣きそうな顔をしている。ただ、絶対に泣くまいとしているように見えた。
普通の相手なら『一緒に泣こう』と言えたかもしれないけれど、たぶん、そんな風に簡単に言えるようなものじゃない。彼の気持ちも、私の気持ちも。
ソファの上で目が覚めた。泣いているジョオアの夢を見ていた気がするが、違う人だったような気もして、少しぼんやりと考えた。けれど夢の中の人が誰にしろどっちでもいいことだよね、と考えるのをやめた。
なんとなく隣のサウルを見る。私の肩に頭を預けて眠っている。昔はやんちゃ坊主で、今はちょっとだけ頼りがいのある男の子になってきたけれど、それでも寝顔はかわいいな、なんて思って少しだけ和む。
視線を前に戻す。今は火の入っていない暖炉がある。いつも通りのリビングの光景なのに、なぜか違和感を覚える。そこに、いつもと違うものがあるような気がしてならない。
直感的に思った。
未来だ。
手を伸ばせば届きそうなそこに、未来があるのだ。
私は今、未来の空気を感じているんだ。
ジョオアの奥さんが目覚めたという、時間移動の力が私にも使えるようになるのだろうか。
いくつかの未来の気配を感じた。けれどそれらはすべて、破滅の臭いのする未来ばかりだった。
どうして平和な過去の気配がないのだろう。この壊れた世界をやり直すのならば、平和な過去が必要なのに。
慌てて目の前に広がる未来の気配から過去を探したけれど、見つからない。過去が一つもなかった。そして思考が一つのことにたどり着く。
途端、悲鳴を上げていた。
気が付いた時には私の悲鳴で目が覚めたのだろうサウルに「大丈夫か!」と肩を揺すられていた。
涙が頬を伝ったが、私は「大丈夫」と答えた。
「ちょっと、怖い夢を見ただけだから」
「……本当に?」
ああ、なんだか以前も同じような会話をした気がする。あの時怖い夢だとごまかしたのはサウルの方だった。あの時私はなんでも話してほしいと願ったけれど、どうしてもそのことを話すことができなかった。
私が時間移動の力に目覚めて、破滅した未来しか見えないのなら……。つまり私たちには、破滅した未来しか残されていない……だなんて。
▲ ▽ ▲ ▽
『怖い夢を見ただけだから』
それってこの間、俺が心配するヒイカをごまかすために言った言葉と同じじゃねぇか。
そう思ってもっと追求したくなるが、話したくないことかもしれないのに、無理に話をさせるのはどうなのだろう……と思いとどまった。少しでも安心してもらえるようにヒイカの頭をゆっくりとなでる。
「おまえはすぐに無理するんだから、あんまりいろんなモン溜め込んだりするなよ? 一人で抱え込むのがつらいことなら、心配させるとか考えないでちゃんと話してくれ。な?」
ヒイカの頭をなでていると、ヒイカの、何かにおびえていた瞳が少し落ち着いていき、徐々になぜか疑問を浮かべた表情になり、俺の顔をまっすぐな瞳で見つめてくる。
「なんか変なの」
「なにが?」
「だってサウルが普通に優しいんだもん」
「うっせぇ」
頭をなでていた手を止めて、ヒイカの頬をつまむ。
ヒイカが困った顔をするのがなんだか面白くて、正義感の強いヒイカが一生懸命な顔をして、いたずら小僧な俺たちの悪事をどうやって阻止しようかと行動するそのやり取りが楽しくて、俺の行動でヒイカが一生懸命考えたり泣いたり笑ったりするのがとても嬉しくて、いつもヒイカをからかって遊んでいた。
けれど今のヒイカの困った顔は、何一つ嬉しくない。俺が何もしていないのに、悲しい顔をしているのは何も面白くない。
ただ、今はヒイカの笑顔だけを望む。
「いひゃいよ」
そう言ってヒイカが俺の頬をつまんでくる。俺はすかさずヒイカのもう片方の頬もつまんでやる。ヒイカもすかさず俺のもう片方の頬をつまんできた。
お互い「ぷっ」と噴出した。手を放して、ヒイカが儚げながらも笑顔を浮かべてくれる。
ホッとする。何を抱え込んでいるのかわからないが、まだ笑ってくれる。俺は今度は、ヒイカの頬を優しく包んで、
「ヒイカの笑顔が嬉しいなんて言う俺は、やっぱり変かな」
と言ってみる。
玄関から扉の開く音がした。外の偵察に行っていたジョオアが帰ってきたのだろう。ヒイカがその音にはじかれたようにソファから立ち上がる。
「あ! あたし、洗濯しなきゃいけないから! い、行くね?」
顔を真っ赤にして慌てたように早口でまくし立て、速足でリビングを出ていく。なんだか恥ずかしがっているようなリアクションだ。だがヒイカは何も恥になることはしていなかったのに、何を恥ずかしがったのだろう?
「サウル。なんで不思議そうな顔してるの?」
今ヒイカが出て行った扉から、ジョオアが顔を出した。
「いや。なんかヒイカが恥ずかしそうに出て行ったから」
「うん。僕もヒイカの顔を見たけど、確かに恥ずかしそうにしてた。それでその恥ずかしそうな表情から何があったかなんとなく想像はつくけれど……」
「なんだよ?」
「サウルって、全然恥じらわない奴だったけど、子供の頃からそうだったんだねぇ」
「だからなんなんだよ!」
なんだよ。素直な気持ちを伝えて何が恥なんだよ、わけわかんねぇ。こいつの言っている恥が何かは分からないが、しみじみとした口調をしてるくせにバカにしていることだけはよくわかる。
「でも、それでいいと思うよ。それでヒイカが元気になるなら」
そう言って、ジョオアは扉を離れた。自室に向かったのだろう階段を上る音が響く。
『ヒイカが元気になるなら』
そんなことおまえに言われなくてもわかってる。
それが自分の役目だとも思う。
俺も化け物だった。ゼファドーアも化け物だった。そしてヒイカに元に戻してもらった。
だったら、化け物だった頃の気持ちがわかる俺なら、ゼファドーアの自殺を止められたはずなんだ。なのに止められなかった。
ゼファドーアの自殺を止められなかったこと自体もつらいが、なによりもそれでヒイカを傷つけてしまったことがどうしようもなくつらい。ヒイカを守る。その想いがなかったら、自分もゼファドーアと同じ道を選択していただろうから。ヒイカを泣かせてしまっては、ここに留まると決めた意味がなくなってしまう。
だがヒイカを泣かせたからといって、自分はいらない存在だと悲観はしない。してはいけない。そうして自分がいなくなればヒイカはまた傷つく。ヒイカは俺に惚れているから。そんな自惚れた考えではなく、そうじゃなくてもヒイカは傷つく。それがヒイカという人間だから。
今は、小さな笑顔でもいい。少しの安らぎでもいい。それを与えてやるのが、俺の役目で、俺の願いだ。
▲ ▽ ▲ ▽
《神》としての記憶が、あの未来への扉の開き方を教えてくれる。でも私は、それを少しも開いてみる気になれなかった。
すでに破滅している時代に移動しても意味はないし、またあの破滅しかない未来の空気を感じるのは嫌だった。
見えた未来が真実なら……今の時代でいくら浄化の実を使おうとも、破滅してしまっているこの状況を変えることはできないのだろうか。
ベッドの隣の小さな棚に、調度品のように置かれている小さな植木鉢を見る。
外の広い場所に植えてもなぜか大きくならず、実をつけない。この小さな植木鉢の中だけで少しずつ実をつけてくれる浄化の実。未来が破滅しかないのなら、これを育てる意味もないのだろうか。
階下からジョオアの朝ごはんができたという声が聞こえる。
私は目を閉じて深呼吸して、ゆっくりと十数える。
落ち着かなければいけないと思った。今の私はゼファドーアのことで落ち込んでるだけじゃなくて、なんだかすごく挙動不審だ。きっとサウルもジョオアもどうしたのかと訊ねるだろう。私はきっとごまかし続けることができずに、未来は破滅しかないのだと話してしまうだろう。
そうならないように、二人の前で動揺した顔を見せてはいけないと思った。姿見で自分を映し「大丈夫」と確認してから部屋を出る。
食卓には、ココンのスープと秋の味覚の定番の魚、サーマカンの塩焼き、それと白いご飯が暖かそうに湯気を立てて、私の栄養となってくれるために置かれている。でもそれぞれの優しい香りはとても美味しそうなはずなのに、私の鼻に届いていないはずがないのに届いていないように、私の食欲は全く掻き立てられなかった。
それでも普段と同じ、なんでもない顔をして「いただきます」をした。
「あのさ。食べながらでいいから、聞いて欲しいんだけど……」
なかなか食べる気になれなくて、スープのカップの暖かさを手のひらに感じていると、サウルがぽつりと呟いた。声はどこか不安なのだろうかためらっているのだろうか、恐る恐るといった小声だったけれど、目は、言わなければならないと決意したことがよくわかる真剣さで、私とジョオアを見ていた。
「……思ったんだ。なんか、ゼファドーアの最後の場所に違和感があるって。なんで最後にあの場所を選んだんだろうって。だってゼファドーアは天秤の神様をあんまり信仰してなかったのに」
言われてみればそうだった。ゼファドーアは神様のことや言い伝えのことを信じてなかったわけじゃないけれど、自分の未来は自分で切り開きたい――そんなことを言っていて、あまり神様にお祈りをしたり儀式に参加したりしない人だった。なのになぜ、最後の場所にアヴァリエ様の前を選んだのか。確かに不思議だ。
「それで、思い出したんだ……。俺が、化け物やってるとき、ときどき……アヴァリエ様の所へお祈りに行っていたのを」
「お祈り?」
最初に『食べながらでいい』と言われたのに、私は完全に食事のことを忘れてサウルの話に聞き入っていた。
「うん。何を考えて祈っていたのか、そういう細かいことは憶えてない。けど、確かに憶えてることがあって、それはそこに、俺たちの知ってる天秤の神様とは別の何かがいた……ってことを確信しながらお祈りしてたってこと。もしかするとゼファドーアはそのことを憶えていて、だから最期の場所にそこを選んだんじゃないかって」
理性を持たない、破滅の気に満たされた人たちがお祈りをする。そんな対象が存在している。
頭では『そんな存在が本当にいるだろうか』と思っているのに、なぜかトクトクトクと速いリズムで心が震えている。心がその存在を確信している。
「わかった。調べてみよう」
ジョオアも私と同じ感覚に陥ったのか、疑うことなくサウルの話を受け入れた。その存在がどこにいるのか具体的なことは分かるかとサウルに訊ねるが、サウルは存在は確信したが場所はわからない。と答えた。とにかくアヴァリエ様がカギだということしかわからない。
わからないなら徹底的に調べてくる。そう言ってジョオアは朝ごはんを食べるとすぐに出て行った。
《その存在》とは何なのか。この破滅に満ちた世界を元に戻す手掛かりになるだろうか……。
そこまで考えて、私は昨日、未来は破滅しかないと絶望していたのを思い出した。なのに今はそれを忘れて期待を抱いている。変なの。と思ったとき、そうだ変なのだ。と思い当たる。
ジョオアが元々いた世界は、ジョオアと未来の私が結婚した世界だ。だけど、ジョオアがこの時代に来て、この時代のジョオアはいなくなり、ジョオアと私が結婚するなんて可能性は完全に断たれた状況になっている。
破滅した、という点では変わらないけれど、状況が全く違う。ジョオアがいた未来と全く違う未来に、この時代は進んでいる。
つまりは絶望した未来が見えても、違う未来の紐を手繰り寄せることができるのではないだろうか。今の未来が、未来への扉の向こうにあった未来と、同じように進むとは限らないのではないだろうか。
未来はいろいろな未来に分岐する。だからたくさんの未来が見えたのだ。
諦めてはいけない。私はそっと心にそう刻む。
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