第6話

6.


 せいたんをあんな目に遭わせたクソ野郎を探し出す。

 俺らの目的はそれだけだった。

 俺もコウもマジで、お遊びで探偵ごっこをしているつもりは全く無かった。じゃないと他人の家に上がり込んで尋問めいた事なんかしない。

 せいたんの意識はまだ戻らない。

『一生目を覚まさなかったら?』

『覚醒しても何か障害が残っていたら?』

『このまま死んでしまったら?』

 声は俺の不安を高らかと告げていた。それを聞く俺はますます不安になるが、俺にはせいたんの意識の回復を心から祈る事しか出来なかった。

 怒り。

 大切なダチを酷い目に遭わせた奴への怒り。無力な自分への怒り。とにかく怒り。

 でも俺の中の怒りの熱は、段々と治まってきた。怒りが風化した訳じゃない。コウにしつこく言われた通り冷静であろうと努めた結果、自分でも落ち着いていくのが分かった。

 冷静に考える事。

 でも、それを揺るがす存在に出会ってしまった。花村涼香。俺は今まで一目惚れなんてした事無かったし信じてもいなかった。でも彼女の事を考える時の高揚は、昨夜も認めた通り強烈なものだ。心が掻き乱される。でもそれは不思議と不快ではない。

 真犯人が見つからなければ竜太郎への嫌がらせは止まらないかもしれないし、もしかしたら涼香さんにも何か被害があるかもしれない。それだけは許せなかった。

 彼女を守りたい。

 強くそう思っている自分に気付く。でも恐らく、彼女は俺の助けなんて必要としてない。あの、地球上の生物全てを見放したような眼に、俺がどう映ってるかは分からない。そもそもあんな人に『変わってる』と言われる自分が分からない。

 訳が分からない。

「イツキ」

 三丁目から柚ヶ丘本町方面に向かっている途中、無言だったコウがえらく低い声を発した。

「何だよ」

「あの女はやめとけ」

 俺は目を見開いてコウを見る。

「何の話だよ」

「バレバレだっての。おまえ、涼香さんの事気になってるだろ」

 やっぱバレてたか。俺ってそんなに分かり易いか。軽く凹む。

「あの人は多分、自分と竜太郎さんだけの世界で完結してて、よそ者が入ってくる事を良く思ってない。いや、それに慣れてないとでも言うのかな。あの眼を見りゃ分かるだろ。他人を何とも思ってない人種だよ」

「でも、俺らに協力してくれてるじゃねえか」

「それは竜太郎さんが望んでるからだ。俺の印象だから断言は出来ないけど、彼女は誰にも、何にも期待してない。ご両親が亡くなってるのも一因かもしれないけど、他人に期待しない事で自分を守ってる感じがする」

 俺は黙ってコウの話を聞く。彼女のあの態度が自己防衛なら、やっぱり彼女を守る存在が必要なんじゃないかとか思う。

「まあ、そんな人だからこそおまえが惹かれるのも分かるんだけどな」

「流石須賀先生、付き合いが長いと違いますな」

 俺が茶化してコウが少し笑った時、それが視界に入った。

住宅地の中の空き地。雑草。動物の糞。落書きされた看板。

 そして、そこに倒れている人間。

「おい、コウ!」

 俺らは慌てて倒れてる男の元に駆け寄った。黒いシャツに黒いスラックスを履いた男性は、うつぶせになって嘔吐していた。俺とコウは最悪の事態を想定する。まさか、また?

「大丈夫ですか?」

 俺はその人を抱き起こす。三十代後半くらいで、顎髭が目立つ。顔面は蒼白で、俺は更に嫌な予感を覚える。弛緩した彼の腕を取って、肘の裏を確認する。針を刺した跡は無い。手首や首筋も見たが、外傷は無かった。

「大丈夫ですか?」

 今度はコウが尋ねる。顎髭男は目をしぱしぱさせて、俺達の顔をまじまじと見た。

「だ、大丈夫……かなぁ? ちょっと自分でも分からない」

 言った途端にまた嘔吐する。

「ごめん、多分もう大丈夫」

 そう言って立ち上がった顎髭男は、そのままふらふらと三歩歩いてまた膝から崩れ落ちた。俺とコウは一瞬顔を見合わせてから駆け寄る。

「何かあったんですか?」

 コウが問うと、何とか立ち上がった彼がむせる。

「いや、ちょっと暑さにやられたみたいだ。もう大じょ……」

 また嘔吐。髭に吐瀉物が付く。

「病院に行った方が……」

「いや、今病院から帰ってきた所なんだ」

 男はそう言って落とした黒いバッグを探した。コウは足下にあったそれを拾い上げる。

「この辺の方ですか? 近くならお宅まで送りますよ」

 どういうつもりか、コウがそう申し出た。顎髭男はまた座り込む。そしてどう頑張っても自力で歩けない事を自覚したのか、

「じゃあ悪いけど途中まで来てもらっていいかな」

 と言って笑った。顔色は悪いが目が大きく、それなりに見れた顔だ。頬に付着した雑草と吐瀉物を除けば。

 それから俺とコウは彼に肩を貸して歩き始めた。

「……そこ、そこの角を右に行った所」

 男がそう言ったのは、三丁目を抜けて二丁目に入ってすぐだった。

「ありがとう、助かったよ」

 さっきより幾分顔色がマシになった男は、そう言って一人で歩き出そうとした。

「心配なのでおうちまで行きますよ」

「いや、ホントにすぐそこだから平気」

「今変な事件が起きたりしてますから、危ないですよ」

 コウは巧みに言って、結局男の家の前まで肩を貸して歩いた。

 随分古い、大きな家だった。普通の一軒家二つ分の敷地に洋風の建物と広い庭があって、角には大きな木が生えている。門扉から家屋までの両脇にはきれいな花がたくさん咲いていて、庭の芝生も手入れが行き届いていた。

「本当にありがとう」

 男は軽く微笑んで立派な門扉を開けた。

「ご家族はいらっしゃいますか? 一人で大丈夫ですか?」

 極めて紳士的にコウが言うと、男は一瞬目を逸らした。

「平気だよ。迷惑かけてすまなかった」

「心配なので良かったらお部屋まで送らせて下さい」

 随分食い下がるな、と俺は思ったが、そう言われた男の視線がうろつい始めた。

「もう大丈夫だって、本当に」

「でも……」

「平気だって言ってるだろ!」

 男が声を荒げる。確かに恩人とはいえ家に上げたくない奴も居るだろう。でもこの男は違った。

『こんなに分かり易いのに』

『コウは全部分かってるよ』

「何か、僕らを家に入れたくない理由でもおありですか?」

 笑顔を絶やさぬままコウが言った。男は顎の髭をいじりながら口をパクパクさせている。

「助けてくれた事は感謝してるよ。でも変な言いがかりは止めて欲しいな」

 男は言い捨てて玄関まで歩き始めた。コウは静かにそれを見ている。やがて男はドアまで到着し、鍵を開ける。ドアが開くと一瞬内部が見える。至って普通の、いやちょっと豪華な玄関だった。コウはまるで宝石を鑑定するみたいな眼でそれを眺める。動く気配は無い。ドアが閉まる。セミの鳴き声が響く。コウは動かない。

「コウ、一体何なんだ?」

「バカかおまえ。表札見ろ」

 俺は言われた通り表札を探す。

『五條』

 脳がその名前を認識した次の瞬間、家屋からガラスが割れるような音が聞こえた。



 玄関の鍵は開いていた。俺とコウは迷わずドアを開ける。二階まで吹き抜けになっている玄関にはあの男、外科医の五條の靴が幾つか散らばっていた。

「どうしましたか?」

 コウは厳しい顔つきのまま奥へ進んだ。何となく上を見上げた俺の視界に、妙な物が入ってくる。

「おいコウ、あれは……?」

 廊下の天井に、黒い蛍光灯のようなものが列を成していた。

「ブラックライトだ」

 コウに言われて思い出す。カラオケ屋やラブホによくある、白い物が光るあのライトか。でも一体何の為に? しかもこんな数を?

 リヴィングの扉を開く。広々としていて、大きなソファとテーブル、大型テレビ、立派な柱時計などが目に入ったが、五條の姿は無い。天井を見ると、ここにもブラックライトがたくさん設置されていた。

 居間から出て更に廊下を進む。突き当たりに扉を発見。俺とコウは頷き合い、ドアを開けた。

「なっ……」

 その異様な光景を前に、俺は息を飲んだ。コウも絶句している。

 五條は俺らに背を向けて部屋の中央のロッキンチェアに座っていた。室内は、天井のみならず壁にもブラックライトがあった。

 それよりも先ず目を引くのは多数のガラスケースだ。虫かご程度のものから、天井に届きそうなサイズまで、大小様々なケース。

 そしてそれらの中では、見た事もない不気味なものが蠢いていた。昆虫か? いや、こんなでかい虫が居るか?

 すぐ脇のケースの中を見る。全身に赤味を帯びた毛を生やし、長い足をもぞもぞと動かしてケース内をうろつく生物が居た。その隣にも、奥にも、色や大きさは違えど八本の足で動く巨大な物体が入っていた。毛が黒いものも居れば、紫の模様が入ってるのも居る。サイズも様々で、5センチくらいの小さなものから俺の手くらいありそうな巨大なやつも居た。

 部屋の奥には冷蔵庫と大きなラックがあって、そこには俺には何なのか分からない機材が積まれていた。多分餌や、温度等を調節をする為の機器だろう。

「君達、不法侵入で訴えるよ?」

 五條が振り返る。相変わらず顔色は悪かったが、先程とは全く違う笑み、快感と多幸感に包まれた笑顔を浮かべていた。寒気がする。この男は一体何をしてるんだ?

「大きな音がしたので、心配になったんですよ」

「ああ、これの事か」

 五條が視線を遣ったのは、足下で粉々に割れた大きなガラスケースだった。どうやら空だったらしい。

「ふらついて倒しちゃっただけだから平気だよ。問題は無いから出て行ってくれないか。本当に警察を呼ぶよ?」

 顎髭を撫でる五條はさっきとは別人のように威圧的だった。それは恐らく、この部屋がコイツの安全領域だからだ。黒目がちの眼を細めて、入り口に突っ立つ俺らを品定めするように見る。

「……タランチュラ、ですね。凄い数だ」

 コウが言うと五條は口角を釣り上げて笑った。

「知ってるのかい? ほら、君の脇のケースに居るのがチリアン・コモンだよ。ローズヘア・タランチュラとも呼ばれてる。それほど大きい種ではないけど、美しいだろう? その隣のバカでかい奴は見える? ゴライアス・バードイーター、世界最大の蜘蛛としてギネス登録されてる。このサイズまで育てるには苦労したよ。ほら、こっちのタランチュラを見てくれよ、コバルトブルーだろ? こんなに美しい生物は居ないよ。このブラジリアン・ピンクブルームも……」

 五條は今にも立ち上がってこの部屋のタランチュラ全種の魅力を語り出しそうな勢いだった。明らかにハイになってる。声の音量が上がり、分厚い唇の端に唾が溜まる。

「五條さん、ペットは個人の自由ですが、薬は事によっては違法ですよ」

 瞬間、演説の邪魔をされた五條の表情が変わる。

「薬? 何の事かな?」

「空き地で貴方が吐いた物を見ました。食べ物以外にも錠剤やカプセルがかなりありましたね。どう見ても通常の服薬量とは思えない。オーヴァードーズですか?」

 俺は思わずコウの横顔を見る。コイツ、最初から気付いてやがったのか。対して五條は、頭を落とし俯いたかと思ったら唸るように笑い出した。

「君は医者かい? 俺は医者だよ、薬の事は素人よりはよく分かってる」

「でも貴方は外科医だ。精神科の薬は門外漢なんじゃないですか?」

 そのひとことで五條が目を見開く。

「……そうか、最初から俺の事知ってたって訳か。俺が君らに何かしたかい?」

「別にアンタが薬飲みすぎて死のうが俺らの知ったこっちゃないっすよ。ただ一昨日の夜どこで何をしてたか知りたいだけで」

 五條が初めて俺を正面から見据える。その眼は洞穴のように深い黒で、俺はそのままそれに吸い込まれて落ちてしまうような気分になる。

『タナトスだ、コイツからはタナトスの臭いがする』

『それにしても凄い量のブラックライトだね』

「一昨日……ああ、あの日は当直で病院に居たよ。湯浅総合病院だ。どうせ知ってるんだろうけど。疑うなら病院側に確認してみるといい」

 五條は笑ったまま挑戦的に言い放った。

「察するに君達、例の吸血鬼事件の関係者か何かだね? 残念だけど俺は無関係だよ。本当に残念だけど」

 哄笑。俺はまた体内に熱さを感じる。せいたんの事件はコイツにとっても他人事。コイツはタランチュラが無事なら世界が破滅しようが構わないのかもしれない。

『本当にこれだけだと思うか?』

『ブラックライトに照らされて光るもの』

『やましさが無いなら何故家に上げるのを拒んだ?』

 突然声が大音量で脳内に響き、俺は思わず頭を押さえる。

「イツキ? 大丈夫か?」

『目の前にあるものこそ見落としてしまうんだ』

『結果より過程を重視する傾向』

『なんだ、まだ分からないのか』

「……ブラックライト」

 俺は息も絶え絶えに呟いた。五條の笑みがほんの一瞬固まる。

「……まだ、何か、居るんじゃないすか?」

 五條の方に一歩踏み出しながら、俺は言った。

「この家のブラックライトの数は尋常じゃない。絶対何らかの目的があって設置してるはずだ。例えば……逃げ出したら困る動物を探す為、とか」

 混乱したまま、頭の中に響き渡る声の言う通りに考えた結果を、俺は口にしていた。俺は歩みを止めず五條の前を通り過ぎ、部屋の突き当たりの布が張られたケースの前で立ち止まった。

「ブラックライトで光る……サソリか!」

「お、おい!」

 コウが五條をすっ飛ばして駆け寄ってきてケースの布を剥ぐ。

 そこには、薄い黄緑色の手足に、茶色がかった胴体から巨大な鎌のような尻尾を生やしたサソリが居た。十センチ以上はある。

 更にその奥のケースに目を遣ると、同じく大型の、黄色っぽいスリムなサソリが威嚇のポーズを取っていた。尾から飛び出た針に刺されるとどうなるか、想像したくもなかった。

「……五條さん、このサソリは?」

 五條は口を半開きにしたまま俺らとサソリを交互に見ていた。

「サ、サソリだってペットとして違法なんかじゃないさ。俺はタランチュラとサソリを長年飼育してる。周囲を危険な目に遭わせた事もない」

「本当にそうですか? 数年前から毒性の高い一部のサソリは輸入、飼育共に禁止されています。俺は専門家じゃないから分からないけど、この二匹は違うんですか? それを証明して頂かないと近隣民としては安心出来ませんね。ペットショップに電話して見て貰いましょうか?」

 言いながら携帯を取り出すコウを見て、今度こそ五條は肩を落とした。

「……そうか、こういう幕切れも有りか……」

 それはさっきまでのハイテンションとは打ってかわった、脱力し切った声だった。

「てっきりこの子達に刺されて死ぬか、オーヴァードーズで死ぬかのどっちかだと思ってたよ」

 そう言って、五條は初めて穏やかに笑った。



 五條啓太は優秀な外科医だった。彼を頼って遠方から湯浅に来る患者も居る。しかし本人曰く、三十五才を過ぎた頃から命を扱う自分の仕事に精神力がついていかなくなったという。

 人の命を預かるだなんて、俺だって考えたくない。想像するだけで重圧に押し潰されそうだ。でも本物のプロフェッショナルなら、それを乗り越えて仕事に尽力すべきだと思う。

 だが五條にはそれが出来なかった。オペの予定が入る度に心が重くなった。腕利きだ、と周囲から称賛される度にプレッシャーがかかった。オペの前に嘔吐したり、胃壁に穴が空きかけた事もあったらしい。結果、五條は知り合いの薬剤師から精神系の薬剤を違法に買い取り、情緒不安定になった際に大量に服薬するようになった。そんな状態でまともにオペが出来るかというと、これが不思議と上手くいったのだという。

「リタリンやコンサータも飲んでたからね、集中力が上がるんだよ」

 自重気味に、五條は言った。

 タランチュラとサソリは、幼い頃からの憧れの的だったらしい。前者は俺には恐ろしい化け物にしか見えないのだが、何にでも惹かれる人間が存在するように、五條少年はその美しさの虜となった。あまり出回っていない蜘蛛やサソリの関連書、図鑑などを集めて日夜それを見てはいつか自分の物にしたいという欲求を抱えていた。しかし当然の事ながら、親がそんな危険そうなペットを許す訳がない。

「実際はタランチュラやサソリは安全なんだよ。危険視されてるのはメディアの所為だ。彼らに罪は無い」

 そして八年前、五條の両親はニュージーランドに移住し、そこで余生を送る事を決めた。五條少年が夢見ていた、タランチュラとサソリとの共同生活が可能になった訳だ。マニアックなペットショップや、最近ではネットを通じて、五條はペットを増やし続けた。外科医という職業は多忙を極めるが、どれだけ疲れて帰っても、彼らを見ると癒されるのだ、と五條は言った。

 コウが言った通り、キョクトウサソリ科という種族は現在輸入も飼育も法律で禁じられている。しかし政府の許可を得た研究者などは飼育しているのだ。マニア同士の横の繋がりで、五條はイエローファットテールスコーピオンとデスストーカーという、気性が荒く毒性も極めて高いサソリを入手した。二年前の事だ。

「仕事を終えて帰宅して、この部屋で二匹のサソリを見ると不思議な気分になるんだよ。人の命を救ってきた俺が、人の命を脅かす生物と対峙している。まあ実際サソリ毒での死亡例は非常に少ないけどね。でも、この子達が俺を刺したら、きっとただでは済まない。その事実に、えらく興奮したんだ」

 五條がその『危険な遊び』を始めたのは一年前だ。疲労困憊で帰宅し、ペット部屋に入って、二匹のサソリのケースの蓋を、ほんの少し開ける。

 サソリは時にそこから外に出ようと素早く動き回る。

 もし脱出したら、恐らく五條は逃げられない。

 刺される。致死量まではいかなくとも、毒を注入される。

 死が、目前に迫る。

「それがたまらないんだ。自分でもちょっとおかしいかなと思う事もある。でもあれは快感なんだ。セックスなんか目じゃない快感だ。少なくとも、俺にとってはね。人の命を救った時の達成感とは真逆のものだよ。面白いと思わないか? 人の命を助ける事で食ってる俺が、自分の命を自ら脅かして喜んでる。生きてる事を実感する、なんて言うと嘘くさいし実際少し違うんだけど、あの興奮は、あれは、他の何物にも代え難い。これは、俺の生と死のバランスを取る為の儀式なんだ」

 それでもサソリが逃げ出したら違法飼育がバレる。それは困る。保身の気持ちもあったが、他のサソリ飼育者達に迷惑をかけたくないという思いもあったという。だから、サソリはブラックライトに当たると光るので、家中に設置したという訳だ。

「自首して下さい」

 五條が話を終えて黙り込むと、コウがそう告げた。

「何なら僕らが警察まで同行しても良いです。薬の違法売買と、違法サソリの飼育。どれくらいの罪になるかは分かりませんが、罪は償うべきです」

「はは」

 その笑い声は乾き切ったものだった。

「幕切れは存外にあっさりしてたな。君達が来なければ、俺もこの街も平和だったのに。これから俺は、一体何を支えに生きていけばいい?」

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