50話 「事件発生」
「大我ぁ……大我ぁ」
私はフラフラと歩きながら何度も私が好きな男の名前を呟く。そうすることで早く大我の元へたどり着けると思ったからだ。
大我のいる部屋まで実際にそこまで距離はないが今の私にはとても長い距離に感じる。
早く大我に会いたい……会いたいよ。
「……もう心春のことなんてどうでもいい、お前に会いたいよ」
大我は心春と浮気した。そのことを知った時は悲しかったし怒りも沸いた。しかし大我のことは嫌いにならなかった。
むしろこのあと大我と話し合って何で心春と浮気したのか理由を聞いて原因を探り出し結果自分を変えて再び好きになって貰おうと思っていた。
だがもうそんなことをしている暇はない。
苦しい、なんだこれ? 胸が締め付けられる助けてくれ大我!
やっとの思いで大我の部屋の前まで来る。
「はぁはぁ、……やっと大我に会える、きっと大我なら私の苦しみを癒してくれる」
今は大我にいっぱい可愛がられて甘えたい。そうすることでこのなんとも言えないモヤモヤと胸の苦しみから私は解放されると思った。
「大我ぁ!!」
勢いよく部屋の障子を開ける。
……。
部屋には誰も居なかった。
「……そんなぁ」
私は大我が部屋に居ないと分かった途端に足に力が入らなくなりその場にへたりこんでしまう。
「……はは」
乾いた笑いがこぼれる。
「大我に少し会えなかっただけでこのザマとは……私は弱い女になってしまったな」
妹の夢見鳥が繭が側に居なくなると取り乱してしまう理由が分かった。
「それで大我はどこに行ったんだ?」
一人言を呟いて痕跡がないか探す。すると部屋にあった大我のバックから衣類が飛び出ているのを見つけた。何かを取り出したようだ。
「おかしい私はバックを閉めて風呂に行ったはずだ」
それで思い当たることがあった。
「あ、そうか大我も風呂に行ったんだ」
だとしたらどうする、ここで戻って来るまで待つか……いや待つのは私の性格じゃない、今からもう一度大我と風呂に入る!
そう決意して部屋を飛び出す。
……。
風呂はどこだ?
地下のにある風呂から戻る時大我に出会わなかった。
だとしたら別にもう一つ風呂があってそこに大我は向かったはずだ。
私はもう一つの風呂がどこにあるか分からなかったので場所を教えてもらおうと思い廊下で姉達を探し歩いた。すると一室だけ障子の隙間から明かりが漏れている部屋を見つけた。
「姉貴、ちょっと聞きたいんだが……ヒィ!?」
私はその部屋の中の光景を見て腰を抜かした。
「こ、心春……姉貴達に何やってんだぁ!?」
「え、胡蝶ちゃん?」
部屋でおぞましいことが行われていた。下着姿で姉のヒガンバナが居た。しかしよく観察すると両足がなかった。何故ならヒガンバナの両足を下着姿の心春が取り外していたからだ。
「ん、なにどうしたの?」
私に気がついたもう一人の姉であるスイカズラが声をかけてくるがこちらは両腕がなかった。
部屋全体を見渡すとわたしの姉が全員この部屋にいるようだがどれも腕や足が取れて床に置かれていた。
「心春、全部お前が殺ったのか?」
「ええ、わたくしが
心春はキョトンとしてごく普通に答える。
何で心春は姉貴達にこんな残酷なことを平気でできるんだ!?
「な、何でこんなことを?」
私は腰を抜かしたまま震えながら心春に質問する。
「何でって言われたらお父様の代わりにわたくしはしてるんですよぉ……全くお父様自分が
「親父が殺ると言ったのか?」
何てことだ、あの優しい親父がまさか殺人鬼だったなんて。
「あ、そうだちょうど良かったですぅ胡蝶ちゃんも今から
心春が手を叩き嬉しそうに言う。
………………殺される。
私は心春もといサイコ女を呆然として眺めた。
心春は私が邪魔なんだ、私を殺して大我を自分のものにするつもりだ。
「さぁ胡蝶ちゃんそんなところに座ってないでぇこっちへ来てください」
サイコ女が私に手招きをする。
「う……あぁ……」
私は恐怖で震えて声も出せず体にも力がはいらない。
「ん? どうしました胡蝶ちゃんさっきから動かないですけどぉ……あ、わかりましたぁ! ふふふ胡蝶ちゃんったらわたくしに抱っこして運んで欲しいんですねぇ?」
サイコ女が意味のわからないことを言い出した。
「ふふふ、お風呂で繭様が夢見鳥ちゃんを抱っこしているのを見て羨ましくなったんですねぇ? えへへへへ」
今度は両手を頬に当て何故か恥ずかしそうに体をくねらせ始めた。
気持ち悪い。
「胡蝶ちゃんは体が大きいから抱っこして運ぶのは大変そうですけどわたくし頑張りますわぁ!」
サイコ女はそう言って気合いを入れるとニヤニヤと気持ち悪い笑顔で私に迫って来た。
「えへへへ……胡蝶ちゃんは甘えん坊ちゃんでちゅねぇ? 今お姉さんが抱っこしてあげまちゅからねぇ?」
気持ち悪い赤ちゃん言葉で私に話しかけて来る。
ヤバい、このままだと私は絞め殺される……畜生! 動け私の体! 震えるんじゃねえ動け! ……大我ぁ!!
パシンっ
サイコ女の手があと数センチと迫ったところで私の体はやっと反応して手を弾いた。
「痛っ……胡蝶ちゃん?」
「はぁはぁ……ふぅ」
私は息を整えるとすぐに起き上がる。
「私に触れんじゃねえ! このデブサイコ女ぁ!!」
ピシィ
私の言葉にサイコ女の体は石像のように固まった。この隙に私はこの場を後にして駆け出した。
───
「私に触れんじゃねえ! このデブサイコ女ぁ!!」
わたくしは妹の胡蝶ちゃんの言葉にショックを受けた。
その後胡蝶ちゃんはわたくしを無視してどこかへ駆け出した。
「……グス、わたくしはただ胡蝶ちゃんを整備して綺麗にしてあげようと思ったのにぃ……あんまりですぅ」
涙はでないが泣きたくなる。
わたくしはお父様に代わってお風呂上がりの妹達を解体して水気を取ってあげていた。
こうしてあげないとこの子達はすぐに間接の隙間に汚れやカビが発生してシリコンの肌が傷んでしまう。
「きぃぃ! 胡蝶ちゃんったら心春お姉様に何てひどいことを! 私に足が着いてたら今すぐ追いかけてひっぱたいてやるのにぃ」
ヒガンバナちゃんが大声で言う。
「……はい」
ヒガンバナちゃんの言葉を聞いてまだ解体されていないキンセンカちゃんが整備途中で置いておいたスイカズラちゃんの腕を拾って渡す。
「……キンセンカお姉様、私は腕じゃなくて足が欲しいんですけど、もしかしてわざとやっています?」
「うん……おもしろい?」
「おもしろくないです! もうやだぁ!」
ヒガンバナちゃんは激しく床を転がった。
「キンセンカお姉様私の腕を持ってかないでください! 返してぇ!」
スイカズラちゃんが慌てて言う。
ポキッ。
「……はい、これ」
カマズミちゃんが自分で片方の腕を外してスイカズラちゃんに渡す。
「ちょ、ガマズミお姉様、御自分の腕を渡されても困ります! それと無茶して自分で体を外さないでください」
部屋が騒がしくなった。
「……グス」
ポンポン。
わたくしが落ち込んでいると誰かが肩を叩いた。
「心春姉ちゃん元気出しなよ」
振り替えるとヒマワリちゃんがいた。
「……慰めてくれてありがとねヒマワリちゃん」
「いいってことよ!」
そう言ってヒマワリちゃんはわたくしの頭を撫でる。
……。
「……ヒマワリちゃん妹の腕を使って姉の頭を撫でるなんていい加減心春お姉ちゃん怒るわよぉ? それと早く妹の体を綺麗にして元に戻してあげなさい!」
「あはは! ごめんなさい」
ヒマワリちゃんの後ろで両腕両足を解体して動けないツキミソウちゃんが腕を返せとヒマワリちゃんに怒っていた。
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