41話 「人形の体」


 「まったく女同士でいちゃついて何が良いんだか」

 

 私は体を泡立ててお互いを洗いあっている姉貴達を見ながら呟いた。

 

 因みにこの温泉に来るときに繭と裸の状態で手を繋いで来たことは私の中ではノーカンになっている。

 

 繭がメガネがなくてあまり見えないから私はしょうがなく手を繋いでやったんだ……地下に行くのが怖かったからじゃねぇ。

 

 「とりあえず私も体を綺麗にするか」

 

 シャワーの前に行き椅子に座った。

 

 「……大丈夫かな?」

 

 シャワーでお湯を浴びる前に体の確認をする。特に関節部分を入念に確認した。 

 

 私の関節は球体関節とよばれるもので汚れが関節に溜まりやすい構造になっている。その他水に入ると関節の隙間から浸水してちゃんと乾かさないとそこからカビが生えたりするので注意が必要だ。

 

 「……よし何もねぇみたいだな」

 

 どうやらカビが生えていないようなので安心する。

 

 何故こんなリスクを犯してまでお風呂に入るのかと言うと、単純にシャワーを浴びるのが気持ち良くて好きだからだ。

 

 「私は高貴で美しい女なんだ、常に綺麗にしとかないと大我に嫌われるからな」

 

 あとは好きな男の為に綺麗な状態を保つためだ。

 

 蛇口を捻りシャワーからお湯を出す。

 

 ふぅ、気持ち良いな。

 

 お湯を浴びると心が安らいだ。

 

 ……もとはといえば私の体のメンテナンス方法を教えてもらう為にここまで来たんだよな、それなのに色々有ったな。

 

 今までのことを思い出す。

 

 初めて外に旅行に行き黒田と繭、妹の夢見鳥と出会った、それと風船人形の梨々香と初めて友達になった。

 

 「ふふふ、まさか私が大我に惚れるなんてな」

 

 大我と最初に会ったときは只の変態だと思った。


 それに私は元々愛玩人形として造られた、だから可愛られたい。

 

 その願望を叶えてくれる都合の良い男、そう思った。

 

 けれど大我と生活をしてもちろん可愛がってくれたし何よりあいつは私をモノではなく人間のように扱ってくれた。それが私という存在を認めてくれたようで嬉しい。

 

 「ククク、……だめだニヤニヤが止まらねぇ」

 

 更に旅行先で街に行ったことを思い出して笑みが収まらない。

 

 大我は旅行に来る途中私のせいで嫌な思いをしていた、それなのに私を彼女にしてくれて更に蝶々の形をした髪飾りまでプレゼントしてくれた。

 

 これをされたら惚れるしかない。極めつけは海に行った帰り大我は私を一生可愛がると誓ってくれた。

 

 「ククク、これは結婚するしかねぇだろ」

 

 体が暖まったのでシャワーを止める。

 

 親父は大我との結婚を認めてねぇようだけどすぐに認めさせてやる……大我と結婚したらどうするかな。

 

 結婚したときの事を想像する。

 

 先ずは毎日今まで以上に可愛がってもらう、そして私はあいつに何をしようかな………………ん?

 

 ふと、疑問が沸いた。

 

 「ちょっと待て、大我は私に何でもしてくれるけど私はあいつにいったい何をしてやれるんだ?」

 

 自分の事を整理してみる。

 

 まずは結婚したら家事がある、私も練習したら家事ぐらいはできるようになるだろうがまぁそれは追々やるとして当分は今まで通り大我にやらしとけば良いだろう。

 

 次は見た目、これは大丈夫だろう。私は親父に美しく造られた、だから大丈夫な筈だ。

 

 ……けど待てよ私は見た目は美しいが人形だ、それに普通人形は自立して動かない、だから外に出るとまわりから浮いてしまう。

 

 ということは……。

 

 「外に出て働いて稼ぐことができねぇ」

 

 こればかりは本当に死活問題だ、というのも久我家にはあまりお金がないからだ。

 

 大我は旅行に私を連れて行くために一週間アルバイトに行っていた。その為朝から晩まで働いて時には家へ帰って来ないこともあった。その時の大我はいつも疲れて果てていて気の毒になった。

 

 「私も働ければ大我を楽にさせることができるのに」

 

 どんどん思考が悪い方向に向かって行く。

 

 「そうだ……大我の野郎、心春と浮気したんだった」

 

 何でなんだ? 何で大我は私だけを見てくれないんだ?

 

 「そういえばあいつ私と旅館の温泉に一緒に入ったときにいっぱいキスしてやったのに抱き締めてくれなかった」

 

 あんなに気持ちを伝えたのに……もしかして。

 

 「この体に魅力がないのか?」

 

 私は両手を持ち上げて手首をグルグルと回転させてみる。

 

 やっぱり私が人形だからダメなのかな……。

 

 気分が落ち込む。

 

 いや、そんなことはねぇ筈だ、だって大我は人形を彼女にする頭のぶっ飛んだヤツだからだ。

 

 私は背伸びをして伸ばした腕と頭をグルグルと回転させる。

 

 「よし、可動域の確認終わり!」

 

 この体に魅力がない訳ねぇ、何故ならこんな自由自在に曲げれる便利な体なんてどこにでもあるわけない、むしろ大我なんかは羨ましがってるんじゃないか?

 

 特に根拠はないがそう思うことにした。

 

 タオルを泡立てて体に当てようとした。

 

 あっ!

 

 突然ひらめいた。

 

 親父は女性と付き合ったこともない童貞だ、なのに何で私達を造れたんだ?

 

 心春は『超本物シリーズ』とかいうのできっと親父がデザインしたんだろう、でも造ったのは親父の会社の工場の人達だ。それに比べて私達『球体関節シリーズ』は親父が一から手作業で造ったものだ。

 

 分かったぞ! 親父は女性の裸を見たことないから想像で私達を造ったんだ、だから私の体のどこかを間違えて造ったんだ!

 

 全てが噛み合った。 

 

 なるほど、大我はその間違いに気づいたからあの時温泉で私を抱き締めてくれなかったんだな。

 

 その理屈だと間違いに気づいた大我は別の女性の裸を見たことがあることになるのだがあえて気づかないフリをした。

 

 そうと決まれば確認しよう。まずは心春の体からだ。

 

 心春のヤツ、きっと大我の部屋で自分の体を使って童貞の大我に性教育したんだ。

 

 大我から心春の匂いがしたのはそのせいだ。

 

 心春、よくも私の大我に教育したなぁ!!

 

 目の前に設置されている鑑を見ると私は凶悪な笑みを浮かべていた。

 

 心春の方を向く。

 

 「はぁ、わたくしも妹達と洗いっこしたいですぅ」 

 

 心春はそう呟いて体を洗っていた。私は早速心春の元へタオルを持って近づいた。

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