40話 「乙女だらけの百合温泉」


 「……驚いたわ、地下にこんなところがあるなんて」

 

 私の目の前には白い湯気が出ている温泉が広がっていた。温泉のまわりにはちゃんと照明があって明るい。更にシャワーも設置されていて私はさらに驚いた。

 

 「おいアレを見ろよ」

 

 一緒に来た胡蝶ちゃんがそう言って天井を指でさしたので、その方向を見る。

 

 「わぁ、綺麗」

 

 地下の天井は高く一部自然にできたと思われる大きな穴が空いておりそこから月と星が光る夜空が見えた。

 

 「本当に古家さんの言った通り驚いたわ」

 「ああ、そうだな……この景色を大我と見たいな」

 

 え、大我さんと……。

 

 胡蝶ちゃんの言葉に私は反応した。

 

 確かに大我さんとこの景色を一緒に見たいな、それでその後はキスして……っ何で私エッチなことを考えてるの!?

 

 頭を軽く左右に振って気持ちを落ち着かせる。

 

 「繭、何やってんだ?」

 

 胡蝶ちゃんが私を不思議そうに見つめる。

 

 「ううん、何でもないの」

 

 そうよ、私は大我さんと何でもないのよ、だって付き合ってないんだから……それに大我さんは胡蝶ちゃんのことが好きだし。

 

 「ふふふ、繭様ぁどうですか? このお風呂」

 

 心春さんがタオルで前を隠した状態で私に問いかけて来た。

 

 「すごいですよ心春さん! どうしてここに温泉があるんですか?」

 

 質問すると心春さんは待ってましたとばかりにニンマリとした。

 

 「この温泉はですねぇ戦国時代辺りに修験道をしていた我が古家家の御先祖様が発見したんですぅ」

 

 へぇ、そんな昔からあるんだ。

 

 「以来御先祖様はこの地に住まわれ温泉を整備しましたぁ、そしてなんとこの温泉には名だたる大名から武将まで入りに来た由緒ある温泉なんですぅ!」

 

 心春さんはタオルで前を隠すのも忘れて熱弁する。

 

 「心春さん前を隠して下さい!」

 

 心春さんはハッと気づき慌ててタオルで前を隠す。

 

 「ゴホン……まぁ話を続けますと戦国の終わりに商業を始めた御先祖様がいてその当時の土地の大名をこの温泉に招待しましたぁ……」

 

 ……。

 

 心春さんの説明によると商業を始めた御先祖様が当時の権力者をこの温泉に招待することで気に入られ穏便を図ってもらったそうだ。

 

 以来そうしたことを繰り返して成功したので立派な屋敷を建てる程になったということらしい。

 

 「……ですからこの温泉は古家家の家宝なんですぅ、お父様は思い出ある屋敷の他に御先祖様が守ってきたこの温泉を自分も守ろうと今まで必死でがんばってきましたぁ」

 

 心春さんは恥ずかしそうな顔をして話を続けた。

 

 「わたくしも次期古家家当主としてお父様の意思を継ごうと思うのですがこのような醜態を晒すようではまだまだですねぇ」

 「そんなことないです、心春さんはしっかりしていて立派だと思います……くちゅん!」

 

 話の途中で少し肌寒さを感じてくしゃみをしてしまった。

 

 「あらあら、わたくしとしたことが長く話すぎてしまいましたわぁ、繭様すみません、シャワーを浴びにいきますか」

 「……そのほうがいいかも知れないですね」

 

 私達はシャワーを浴びに行った。

 

 「こら! あなた達ちゃんと体を洗ったの!?」

 「軽くシャワーで流しただけだよ」

 「それじゃあダメよ!」

 「なんだよ、姉ちゃんめんどくさいなあ」 

 「……ふぅ」

 「……暖かい」

 

 チャポン。

 

 「お姉様方もちゃんと体を綺麗にしてからお湯に入って下さい!」

 

 あれぇ?

 

 シャワーを浴びに行くときまわりを見て気がついた。

 

 ……誰がどの子か分からない。

 

 みんなお風呂に入るので結んだ髪をほどいている、そのため目立った特徴がなくなり見分けがつかない。

 

 恐らく注意しているのはヒガンバナちゃん達だろう、胡蝶ちゃんは私の近くに要るから分かる、しかし……。

 

 夢見鳥はどの子だろう?

 

 夢見鳥は私達より先に行ってしまったのではぐれてしまった。


 目を凝らすとシャワーの場所で椅子に座っている白髪の女の子が見えた。

 

 あの子かしら。

 

 「夢見鳥ここにいたのね、今から体を洗ってあげるわ」

 「……え、繭お姉様がバラのことを洗ってくれるんですか?」

 

 あれぇ?

 

 バラちゃんは夢見鳥と外見が同じなので間違えてしまった。

 

 「どうしましょう、いつもはボタンお姉様が洗ってくれるのだけど……」

 

 バラちゃんは悩み始めた。

 

 「えっと、その……」

 

 私は人違いですとは言えなかった。

 

 「たまにはボタンお姉様以外に洗ってもらうのも良いかも」

 

 ええっ!

 

 「何が良いのかしら?」

 

 突然横から声がした。

 

 「ボタンお姉様!?」

 

 声の主はボタンちゃんだった。

 

 「バラ、もう一度聞くわね、何が良いのかしら?」

 

 ボタンちゃんは手にタオルを持ち腕を前で組んで下半身は隠そうとせずに堂々とした態度でバラちゃんに問いかけていた。

 

 「ひっ、ボタンお姉様申し訳ございません!」

 

 バラちゃんは怯えている。

 

 「ふふふ、バラったら何を怯えているのかしら……繭お姉様、バラはこの姉のボタンが綺麗にしますわ、だからとうぞあそこにいる夢見鳥の所に行ってあげてください」

 

 ボタンちゃんは顔には出さないが私をバラちゃんに近づかせたくないようだ。

 

 「ええ、そうするわ、ボタンちゃん夢見鳥の居場所を教えてくれてありがとう」

 

 ボタンちゃんを嫉妬させちゃったみたいね。

 

 すぐにその場を去り夢見鳥の元へ向かう。

 

 「あ、繭こっちこっち!」

 

 シャワーの前で椅子に座っている夢見鳥が私に気づいて手招きする。

 

 「もう夢見鳥、先に行ったらダメじゃない」

 「あぅ、ごめんなさい」

 

 夢見鳥は私が少し怒っただけでしょんぼりとした。

 

 「繭、夢見鳥のこと嫌いになった?」

 「大丈夫、嫌いになってないから、それより体を洗ってあげるから背中を向けて」

 「本当!? やったー!」

 

 夢見鳥は喜んで私に背中を向ける。

 

 私は夢見鳥の白く長い髪をかき分けて背中を晒させる。

 

 さて、どうしよう?

 

 私は普段夢見鳥を綺麗にするとき濡れたタオルで優しく拭いてあげていた。

 

 夢見鳥の肌はシリコンだから傷つけないように気をつけないと。

 

 「皆どうやって洗ってるのかしら?」

 

 私は他の子がどうやって洗っているか知るためにまわりを見渡した。

 

 「もう、ガマズミお姉様はもっと姉としての自覚を持ってください!」

 「……分かった」

 

 ヒガンバナちゃんがガマズミちゃんの頭をシャンプーを泡立ててゴシゴシ洗っている。

 

 「キンセンカお姉様もいい加減一人で体を洗えるようになってください」

 「……ヤダ、いつも洗って」

 

 スイカズラちゃんはキンセンカちゃんの体をタオルで泡立てて洗っている。

 

 「ふんふんふ~ん」

 

 あれはヒマワリちゃんかしら。

 

 ヒマワリちゃんは鼻唄を歌いながら頭を洗っている。

 

 「……にしししっ!」

 

 そこへ手にタオルを持ち体を泡立たせたツキミソウちゃんが何か企んでいるような笑いをして近づく。

 

 シュッ。

 

 ツキミソウちゃんがタオルをムチのようにしならせる。

 

 バシッ!

 

 「ぎゃあっ!!」

 

 ツキミソウちゃんがしならせたタオルの先がヒマワリちゃんの背中に直撃して悲鳴を上げさせた。

 

 「……つぅ、こらぁツキミソウ! よくもやったなあ!」

 「あはははは! ヒマワリ姉ちゃん私を捕まえてみろぉ」

 

 ヒマワリちゃんはツキミソウちゃんに掴み掛かるが泡で手が滑って中々掴めないようだ。

 

 「ふふふバラ、私が洗った方が気持ちよくて良いでしょ?」

 「はぁはぁ、はいボタンお姉様ぁ」

 

 お互いに体を泡立てた状態でボタンちゃんがバラちゃんの後ろから抱きつき手をバラちゃんのお腹の辺りに持って行き撫でている。

 

 ダメ! これ以上見たらいけない。

 

 ……。

 

 他の子達を見て分かった。

 

 どうやら普通にボディソープとシャンプーで洗っても良いみたいね。

 

 私はタオルを泡立てて夢見鳥の背中を優しく洗った。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る