24話 「俺が兄だ!」


 俺と繭さんは心春さんにそれぞれ別の客室に案内された。客室は八畳で机が一つと座布団あった。

 

 「大我様なにもないところですみません、直ぐに必要なものを持ってきますのでゆっくりしてくださいねぇ」

 「いえ、心春さんそんなに気を遣わないでください、あとは布団くらいあれば俺は十分です」

 「……大我様、お父様の我が儘に付き合ってくださりありがとうございますぅ、それと本当は胡蝶ちゃんと一緒に居たかったと思うんですけど」

 「仕方ないです久々の姉妹の再会ですから」

 

 俺達は胡蝶と夢見鳥ちゃんと部屋は別れた。これは他の姉妹達が久し振りに胡蝶達と再会できたので話しをしたいという理由でそうなった。

 

 家族水要らずで過ごすのもたまにはいいだろう。俺は胡蝶が自分の側にいないことに少し寂しさを感じた。

 

 「大我様そんなに寂しい顔しないでください胡蝶ちゃんは大我様の事が大好きですからきっと直ぐにこの部屋へやってきますわぁ」

 

 俺が寂しくて元気がないのを感じたのか心春さんが励まそうとしてくれる。

 

 「ははは、そうですかね?」

 「はい、きっとそうですぅ……そうだわぁ! 大我様ぁ寂しいのでしたらわたくしとお話ししません?」

 「え、心春さんとですか? まぁ別にいいですけど」

 「嬉しいですわぁ! 今お茶を持ってきますねぇ」

 

 心春さんはお茶を取りに行った、俺はとりあえず座布団に座る。

 

 「お待たせしましたぁ」

 

 心春さんがお盆にお茶を乗せてやって来た。

 

 「心春さんありがとうございます」

 

 心春さんが持って来たのは冷たい麦茶だった。部屋はまだクーラーが聞き始めたばかりで少し暑いくらいだったので飲み物はありがたかった。

 

 心春さんはお茶を置いて自然と俺の横に座る。心春さんからは甘いにおいがした。

 

 「わたくし一度じっくりお話ししてもっと大我様のことが知りたかったんですぅ」

 「え、そうなんですか? えーと何が知りたいんですか?」

 「うーん、それじゃあ大我様は今おいくつですかぁ?」

 「二十四歳ですけど?」

 「まぁ! 大我様は成人されてたんですねぇ、てっきり学生さんかと思いました」

 「そんなに若く見えますか?」

 

 確かに俺は普段から若く見られることは多かった。

 

 「えぇ、大我様の場合少し童顔ですが恐らく髪型のせいで若くみえるのかも知れませんねぇ」

 

 そうか、髪型がいけないのか、今度は長髪にでもしてみるか。

 

 「……うふふ大我様、髪でも伸ばそうかと考えていましたぁ? わたくしは今のままでいいと思いますよぉ?」

 

 心春さんはそう言ってぺたんと座って俺の方を向き両腕で胸を挟み込みまるで協調して見せつけるようにする。

 

 心春さんはピッチリしたスーツを着ているので座ることによりよけい体のラインが分かる。

 

 「大我様、因みにわたくしは二歳なんですよぉ」

 「えぇ、そうなんですか!? てっきり年上かと思いましたよ……あ、心春さんすみません決して悪い意味で言ったんじゃないんで」

 「うふふ大我様はおもしろい方ですねぇ、まぁわたくしの外見でしたらそう思われてもしかたないことなので気にしないでください、でも二歳なのは本当ですよぉ、私は二年前に会社で製造されて発売されてますから」

 

 そうだった心春さんも幻想的人形工業のラブドールだ。


 因みに心春さんは超本物シリーズという人形で特殊な素材と高度な技術を使って人間と殆ど変わらない精巧な造りをしている。その為値段はバカ高いが、人気があり日本だけでなく世界のお金持ちから買われている幻想的人形工業の主力商品だ。

 

 俺はあまりのリアルさに心春さんが人間じゃないことを忘れていた。


 ……。


 それにしても暑い。

 

 喉か乾いたのでお茶を飲むことにした。

 

 「はぁ、大我様クーラーが効き始めたとはいえまだ少し暑いですねぇ、すみませんがわたくし脱いでもいいですかぁ?」

 

 ぶほぉっ!!

 

 俺は飲んでいたお茶を吹き出す。


 そのとき吹き出したお茶でズボンを少し濡らしてしまった。

 

 「あらあら大我様大丈夫ですかぁ? 今お拭きしますねぇ、暑いので直ぐに乾くとは思いますが」

 

 心春さんはハンカチを取りだし俺のズボンを拭き始めた。

 

 うわっ、女の人に下半身を拭かれてる、恥ずかしい!

 

 「た、確かにまだ暑いですね、良いですよ、ぬ、脱いで」

 「大我様ありがとうございますぅ」

 

 心春さんはスーツの上着を脱ぎ始めた。

 

 「はぁーすずしいですわぁ」 

 

 心春さんの格好は上はカッターシャツに下はスーツスカートと黒いタイツだ。カッターシャツからブラが少し透けて見えているので目のやり場に困った。

 

 「大我様足が蒸れてしまいますのでタイツも脱いでもよろしいですか」

 「たたたた、タイツぅ!? えぇ、どうぞ!」

 「ふふふ、大我様、はしたない女のだと思わないでくださいねぇ」

 

 心春さんは目の前でタイツを脱いだ。綺麗な生足が出現した。

 

 俺は心春さんを見てムラムラしてきた。そしてそのままジィーと小春さんの生足を見続けた。

 

 ハッ……俺は何してるんだ? しっかりしないと。

 

 俺は気を粉らわす為に何でもないように振る舞い適当に話題を振る。

 

 「それにしても心春さんはすごいですね、生まれて二年しか経ってないのにこんなに仕事をしてるなんて、俺なんて二十四歳なのに無職ですよ」

 「うふ、大我様そんな事気にしないでください、何とかなりますわぁ、例えばわたくしの……ごほん、ごほん、なんでもありませんわぁ!」

 

 心春さんは今は何を俺に言おうとしたんだろう?

 

 「ごほんっ、えーとですね……父はわたくしに仕事を何でも覚えるさせようとするから大変ですわぁ」

 

 心春さんは少し不満そうにして話を続けた。

 

 「父はもう年ですから長くありません、ですからわたくしに仕事をさせて跡を継がせようとしておられるんですぅ」

 「心春さん大変そうですね……もしかして今は精神的にとても辛いですか?」

 「大我様心配なさらないでください確かに辛いですがわたくしはこの仕事にやりがいを感じておりますので頑張れますわぁ……ははっ」

 

 心春さんはそう言って俺に笑顔を向けて話すが少し元気我ない。本当は毎日の仕事でものすごいストレスを感じているのであろう。

 

 「……大我様ぁ」

 「うわっ! こ、心春さん!?」

 

 いきなり心春さんが甘えるような声を出して俺に身体を近づけた。

 

 「大我様ぁ、実はわたくし今とても寂しいんですぅ」

 「えっ、それはまた……な、何でですか?」

 

 ヤバイ、本格的にヤバイ、俺はどうすれば良いんだ!? この人まさか俺を誘惑しようとしてんのか!?

 

 「お父様は家に帰ると双子の妹達といつも一緒に居るんですぅ、なのでわたくしはお父様に甘えれませんわぁ」

 

 話を聞いて古家が娘である双子の姉妹の人形達に囲まれていた事を思い出す。あの懐かれようだと心確かに春さんが家で甘えるのは難しいと思う。

 

 更に心春さんが話すには仕事場では古家さんと一緒なのだが甘える暇はないくらい忙しいそうだ。

 

 「わたくしはあの娘達より先に製造されたという理由だけで長女に成りました、けれども跡継ぎと指名されたからにはしっかりしなきゃいけません、けれど、甘えたいですぅ、うわぁぁん!」

 

 心春さんは気持ちが高ぶり泣き出した。しかし人形なので涙は出ない。

 

 「今日の話でもショックでしたわぁ! お父様はわたくしを気まぐれで造ったってぇ、それってあんまり必要じゃなかったってことじゃないですかぁ、えーん! やっぱりわたくしはいらない娘なんですわぁ! 家族の中で除け者なんですわぁ!」

 

 心春さんはわんわん泣いて最終的に俺にしがみついた。その際胸が当たるので余計気まずい。そしてそろそろ俺の理性もヤバイ。

 

 あああっ! 神様、仏様、胡蝶様、どうか俺から煩悩を消し去ってくださいっ!

 

 俺が目を瞑り必死で祈っていると心の中で天の声が響いた。

 

 『久我大我よ、良く聞きなさい』

 

 あっ、貴方は!?

 

 『我は天の声、そんなことより心春を見なさい、彼女は泣いている、可哀想であろう』 

 

 え、ええ。

 

 『そのような女性に煩悩を抱くなど鬼畜の所業であるぞ、恥を知りなさい』

 

 うるせー! そうならない為の方法を教えろよ!

 

 『それでは教えよう、心春は二歳児でお前より年下だ、更に親の愛や家族愛に飢えている……そこでだ、お前は心春の兄になりなさい』

 

 はっ? 何言ってんだこの天の声。

 

 『最後まで聞きなさい、兄となれば心春は妹、妹に煩悩を抱く兄はいないであろう』

 

 あっ、確かに……そうと決まれば。

 

 俺は何か悟りを開いた気がした。後から考えたら唯の勘違いだが。

 

 「心春さん泣かないでください」

 「……大我様ぁ?」

 「心春さん確かに常に古家さんを他の家族が囲っていたら甘えづらいのもわかりますし長女だからしっかりしなきゃいけないという気持ちも分かります」

 

 心春さんは無言でこちらを見ている。

 

 「ですが今は長女だとかそういうことを忘れてください……それで、そのなんと言うか俺が心春さんの兄になりますから!」

 

 心春さんはポカーンとして俺を見る。

 

 「大我様それはいったいどういう意味ですか?」

 「俺は年上で心春さんは年下です……だから寂しかったら兄である俺に甘えてください!」

 

 …………うわぁ! 何言ってんだ俺、何が天の声だ、馬鹿じゃねぇのか?

 

 「……うふふ、あははは!」

 

 心春さんが笑いだした。

 

 「うをおおお! すみません調子に乗りすぎました、さっきの言葉は忘れてください!」

 

 俺がそう言うと心春さんが俺の手を握り言ってくる。

 

 「大我様ぁ慰めていただきありがとうございますぅ」

 「……いえそんな、なんか変なことを言ってすみません」

 「……あの大我様、わたくし本当に兄と呼んで甘えてもよろしいですかぁ?」

 「えぇ、いいですよ……え、ちょ」

 「お兄さまぁ!」

 

 心春さんが俺が言い終わる前に飛び付いてきた。なんとか心春さんを受けとめ優しく抱き締める。

 

 「お兄様は本当にお優しい方ですねぇ」

 「……はい」

 

 あれ? これヤバイかも。

 

 心春さんは俺の胸に顔押し付けてスリスリする。

 

 もしこの光景を胡蝶に見られたら〇される。

 

 俺は今更ながら自分の後先考えない行動と発言に後悔し始めた。

 

 「ねぇお兄様ぁ」

 「……なんですか心春さん」

 「わたくしお兄様のことが好きになりましたわぁ」

 「……あっ、はい」

 

 うぎゃああぁ!!!

 

 俺は心の中断末魔を挙げた

 

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