第19話 解呪できませんでした
しばらく病んでまして長く空きました。
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リュートの両手を持ち(せっせっせ状態)呪文を唱える。
「《
パシーーンッ
「っつぁ!」
衝撃に思わず手を離してしまった。
私の魔法が弾かれて霧散したのだけど、弾かれた魔力が衝撃波となって自分に返って来た。
「大丈夫?お姉しゃん?」
不安げにレス君が私の顔を覗く。
「あ、うん。大丈夫、リュートはなんともない?」
「ガウ」
「ん、なんともないって」
衝撃波がリュートに影響していなかったか聞くと、レス君が翻訳してくれた。
「リュート、ちょっと《鑑定》してもいいかな」
この世界の《鑑定》は個々のもつステータスを覗き見るというもの。
ただし通常無意識に見られることを拒むので《鑑定》スキルの低いものは弾かれて何も見えない。
例外は本人が許可した場合。これも全てが見れる訳じゃない。
本人が許可しているようでも「やっぱりやだなぁ」なんて思ってたりするとほとんど何も見えなかったりするのだ。
今回見るのは『呪』に関する部分限定。
腕の文様に集中する。
結果はかなり強力な呪と言うより、多分呪いを解くための『キーワード』が存在し、それ以外は弾かれるという特殊仕様かと思われる。
呪のタイプは徐々に対象者の
死には至らぬものの弱体化させる事で逃亡を阻止することが目的だろう。
自然回復力の優れた獣化状態で弱体化を緩やかにしてはいるものの、人化すればたちまち身動きできなくなってしまう。
そんなわけでリュートは人型形態に戻れず、衰弱状態なのだ。
これを解呪するには『キーワード』を見つけるか、ちゃんとした『解呪儀式』が必要のようだ。
なんて厄介な『呪式』組んでるの。
『呪』に必要な
魔力が枯渇すると失神する上、不足した状態でさらに魔力を使えば生命力が削られる。
衰弱状態でさらに削られればそれは即ち『死』だ。
なんつー悪質な《呪》だ。
『逃げたら死ぬよ』だけど直接殺すわけじゃないから『
『解呪儀式』は『聖なる地』にて『神の力』を借りて行うもの。
その辺の教会や神殿ではなく、『本神殿』と呼ばれるところで『神降ろし』のできる巫子の力を必要とする。
すなわち、ものすごい金がかかるということだ。
今解呪できないならとりあえずの対応としては『症状緩和』しかない。
常に生命力を奪うなら《
同じく魔力を回復する必要もある。
魔力回復に手っ取り早いのは〈マジックポーション〉を飲むことだが、これの乱用はポーションの効果が効きにくくなるので一日3本以上の仕様はだめ、というのは常識。
なら《
「お姉しゃん?」
考え込んでしまった私にアス君が袖をひっぱり注意を引くように声をかける。
下から不安げに覗き込むアス君、テラカワユス!
「あ、ごめんね。ちょっと考え込んじゃった。《解呪》はできないけど《呪》を緩和できるかもしれない」
エレーニア=ディヴァン。オルフェリア王国王立学園の首席たる
ということでインベントリの中から使えそうなものを探す。
取り出したのはミスリルのスローイングナイフ4本と結構な数の魔石。
ゴブリンや角獣の魔石は魔力保有量が少ないのでまずこれを加工する。
鈍く透明度の低い魔石を集め《錬金術》で凝縮すると、透明度のある赤い魔石が一つ出来上がる。
これは『王国一と言われた錬金術師』に教えてもらった秘術。複雑な積層型魔法陣と緻密な魔力操作を必要とする為、使えるものがほとんどいないそうだ、私使えるけど。
魔石はその保有魔力により透明度が増す。色は属性に関係するらしいが今回は属性はどうでもいい。
予備を含めていくつか作成。
「キレイ…しゅごい…」
アス君が魔法陣を見てキラッキラの瞳で呟いてます。
さて次はミスリルのスローイングナイフ。
二本を一本の紐状に、そこに《常時生命力回復》の魔術式を刻んで行く。通常は魔力は装着者から吸い上げるのだが、それはできないのでセットした魔石を対象に書き換える。ついでに微量ながらも空気中の魔素を取り込むようにして、っと。
「はい完成」
ぱちぱちぱち
アス君が手を叩いてくれました。
《常時魔力吸収》もセットした魔石からと空気中の魔素を吸収するようにした。
緊急用にキーワードでセットした魔石の残存魔力を一気にHP、MPに変換できるようにした。
《常時生命力回復》には『コード:レッド』、《常時魔力吸収》には《コード:ブルー》です。
出来上がったミスリルの紐をリュートの両腕、《呪》の文様の上に巻きつけます。
ぐるぐる巻きバングルみたいになりました。
リュートが目を見開く。虎が目を見開くって。
「ガウガウ」
「兄しゃま?」
「ガウゥガウ」
アス君がこっちを見上げた。
「怠さがとれてきたって」
「リュート、しばらく様子見てから《ステータス》確認して見て、HPが大丈夫そうなら……」
突然リュートの身体が淡く光り手足が伸び身体の毛がシュルシュルと引っ込んでいく。
獣人の変幻を目の当たりにしてちょっとびっくり。
数秒後、目の前に四つん這いの全裸の青年が・・・
「「「あ」」」
三人同時に「あ」っと声を出したがその意味合いは全く違う。
ガタガタガッシャーン
私は慌てて衝立の向こうに逃げ込むも足元に置いていた甕やら盥やらに躓く。
さすがに鼻血は出さずにすみました。
しかし脳裏にはそれなりに筋肉質ですべすべの肌の裸体(しかも四つん這い!)のイメージが・・・
乙女には刺激が強いです。インベントリからリバーシブルマントを取り出し放り投げる。
「と、と、とりあえず羽織って、羽織ってぇ」
「兄しゃま、これ」
ごそごそ
「お姉しゃん、もういいでしゅよ」
今目の前に半獣形態でリバーシブルマントを羽織ったリュートがいます。
半獣形態。
スタイルは人なのですが全身毛むくじゃらの、言うなれば『二足歩行の虎』状態です。
アス君の「あ」は嬉しそうな「あ」でした。リュートが久しぶりに人化できたんです。当然でしょう。
リュートの「あ」は「あれ?ダメっぽい」の「あ」
「人化デハHPノ減少ガ多クテ駄目ダ。半獣化状態デナントカ維持デキルクライ」
「しょれでもよかったでしゅ」
嬉しそうなアス君がリュートの手を握っている。
「まあ、うん、そう、ですネ」
何を言っているんでしょうか、私。虎顔のリュートを見てホッとしたような、残念のような?
「…服、そう服を買いに行きましょう!このままじゃやばいというか」
リュートは服を買うまでは獣化状態でお願いします。
古着屋で下着三着づつ、シャツとズボンを二着づつ、アス君サイズの防具は売ってないので防具替わりの皮のベストと靴はしっかりしたロングブーツ(ダンジョン用)はサイズ合わせて調整してもらう。あとは街中用にモカシン風の靴。
それぞれフード付きのマントを購入。
ごく普通の服なので後で
それぞれのサイズに合わせたリュックとショルダーバッグ、ウエストポーチ。剣帯用のベルト。武器は後日あららめてと言うことにして一旦宿に戻ろう。レイディにも紹介しないと。驚くだろうな二人とも。
宿の部屋については部屋はそのまま。そもそも部屋料金だからね、宿というよりアパートだ。
さすがに一緒のベッドと言う訳には行かないのマットレスを購入。
「ネル時ハ獣化スレバイイ」
とか言いますがそう言う問題じゃないです。彼が16歳の青年ということに違いはないのですよ。
え?同室はいいのかって?
そこはほら、パーテイーとかで同じテント使うし。
「借リタオ金ハ必ズ稼イデ返ス」
というリュート。その横でアス君が「うんうん」と頷いている。
少年二人と思ったら違ったけどだからってここで放り出すつもりもない。
リュートはポーターでなく冒険者として登録してパーテイーを組むということで話がついた。
宿に戻るとアス君が疲れてるのでベッドで眠る用に言う、遠慮していたが朝早かったのもあるし、リュートも眠そうだったので2人は先にさっき買ったマットレスに横になる。
「柔らかくってあったかいでしゅ」
久しぶりのベッドにアス君はすぐに寝入った。
眠ってる間に色々やってしまおう。
先ずは買ってきたパンツとズボンに獣人仕様に尻尾用の穴を作る。
ちょちょいちょい。お針子ジョブお役立ち。《高速運針》はSP消費しますですハイ。
おつぎは《
まずショルダーバッグとポーチとリュックに《収納》でマジックバックに。ポーチの容量は小さいがポーションなどを入れられるように、マジックバック化すると中身が破損しにくいのだ。荷物は無くしたり盗まれたりしにくいよう常に持っておく為に。眼が覚めたら魔力認証で使用者固定してしまおう。
アス君のブーツには《
シャツとズボンには《
革のベストには《衝撃耐性》と《魔法耐性》
マントには《防水》と《温度調節》
リュートのシャツとズボンには《
この《HP回復》は空気中の魔素を使用するので微々たるものだ。
マントには同じく《防水》と《温度調節》
はあはあ、一度に大量にやると流石に来るな。ちょっと休憩。
アス君のの寝顔見て癒されよう。
「お姉しゃん、お姉しゃん」
はっ、いつの間にか眠ってたようだ。
外は夕暮れで赤く染まっていた。そろそろ晩御飯かな、今日はどうしよう。
ぐっぐ~
アス君が真っ赤になった。ふふふ、眼福眼福。
「ご飯食べにいこっか。その前にちょっと寄るところがあるから付き合ってね」
リュートとアス君と一緒に厩舎に行く。
厩舎に来るとレイディが「Gyua!」と鳴いて近寄ってきた。案の定アス君はかたまった。
しかしリュートはすぐにアス君を後ろに庇い身構える。
『それ、食べていいのなのヨ?』
レイディの視線に2人の耳がピンとなり毛が逆立つ。
「ダメ、今日から一緒に暮らすの、仲間だから、家族みたいな感じ」
『仲間?家族?あたち、オネーサン、弟できたなのヨ!』
いや、レイディの方が精神年齢も実年齢も下だし。どちらかといえば妹ですよ?
「アス君、リュート、この子は従魔のグリフォンで名前はレイディって言うの、よろしくね」
「Gyua!」
「ほら、レイディも挨拶してるから、挨拶してあげて」
「しゅごい、僕グリフォン初めて見ました。僕アスでしゅ、よろしく」
アス君は興奮気味にぴょんぴょん跳ねる、反対にリュートは険しい眼差しで小さく呟く。
「リュート、ダ」
く~~っ、アス君可愛いなぁ。インベントリからレイディ用の器と角猪肉を出す。
「じゃあ、これをレイディにあげてくれる?」
「うん」
アス君は大きく頷き器を受け取るとレイディの前へ進みでて口元に差し出す、下に置いていいんだよ。
レイディは「Gyuru、Gyuryu」と頭をコテン、コテンと倒してからバクンと肉を咥えた。
「お姉しゃん、食べたよ」
嬉しそうなアス君は空になった器を差し出した。受け取りもう一つ肉を置く。
「君ハ……イヤイイ」
何か言いかけてやめるリュートはそのままアス君の隣に行き後ろからアス君を包むように器を持ってレイディの前へ行く。
レイディは「Gyua!」と鳴いてすぐに肉を咥えた。リュートはレイディの頭をそっと撫でた。
それを見てアス君もレイディを撫でる。
なでなでタイムです。撫でられて嬉しそうなレイディ。撫でて嬉しそうなアス君。
それを見て微笑む(虎フェイスでも表情はわかる)リュート。
なんでしょう、この癒しタイム。ご褒美ありがとうございます。
その後夕食は1階の食堂で食べました。
美味しそうに食べる2人に涙がほろり。いや、不味いわけじゃあないんですよ。
微妙にナイフが使いにくそうなリュート。半獣化の手では持ちにくいのかな。
でもこの程度で「おいひ~」って喜ぶ姿がね。オネーサン、これから毎日美味しいご飯作るから、楽しみにしててね。
では1日の締めはお風呂です。風呂桶(もう風呂桶命名で)を衝立の向こうに出します。
さらにインベントリから衝立を追加し見えなくしました。
「俺外ニ出テル」
微妙に赤面してる気がするリュート。
恥ずかしいのはこちらですが、男娼だった彼が赤くなるのは意外ですね。
アス君と一緒に入り頭を洗ってあげたり、お湯かけたり楽しい。アス君、耳の後ろもって(人と違って頭の上にあるから)ぺたんと倒し目をぎゅっと瞑ってる、か、可愛いです。
パジャマを買うのを忘れてた。明日買いに行こう。風呂桶を《ピュリフィケイション》で綺麗にした。
一時間ほどでリュートが戻ってきた。
「リュートも入る?」
「イヤ、半獣形態デハ、チョット……」
ああ、毛が邪魔ですね。
なので《ピュリフィケイション》かけました。
「俺ハコッチデ寝ル」
リュートはマットレスの方を指す。
インベントリから毛布を出して渡した。
アス君がリュートと私を交互に見る。
ガタイの大きい冒険者は多いのでベッドのサイズはダブルサイズ。
マットレスも同サイズだ。
「僕お姉しゃんと寝ていいでしゅか?」
ケモ耳に添い寝なんてご褒美、ゲフンゲフン。
リュートは衝立を移動させてベッドとマットレスを仕切った。
そのまま寝るのかと思ったら獣化したよ。
「ガウ」
「この方が楽なんだって。おやすみなしゃい兄しゃま」
「ガウ」
ではおやすみなさい。
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