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ご褒美をもらっちゃったんじゃ、大人しく帰るしかない。
疾風の様子はきちんと後で教えてくれるっていうから、どうぞよろしくお願いしますと奏様にお願いして西のお屋敷を出てきた。
便利よ便利、元老院の赤の大門。開いた門の向こう側はよく見慣れた綾芽の部屋。
「ただいまかえりましたよーっと」
誰もいない部屋だけど、一応はね。
「僕は翁に報告してくるからもう行くけど、一人で大丈夫かな?」
「あい。ありがとございました」
「いや、うん。そうじゃなくってね。……ほどほどに」
「へ?」
縁側の障子に向けてコリン様が視線を投げる。そして、頭をクシャリと一撫でして姿を消すのとほぼ同時に、縁側の障子に人影が二つ。見間違いなんかじゃなければ、小柄な方はハリセンをパシパシと手に打ち付けている。そして、もう一人からはうどんの美味しそうなつゆの匂いと、もれなく足揺すり付き。
「あ、あー……なるほどぉ」
コリン様が心配してくれたのって、これかぁ。
し、仕方ない。ここはひとつ、ここに来て爆上がりしてる謝罪スキルを
えー、まず障子の前に座ります。この時、妙な体勢をとってはいけません。ブリッジなんてもっての他です。
ちなみに、ブリッジしつつ謝罪してのけたおじさんは、翌日まで庭の木に
次に。
スタァーンと音を出すほど勢いよく開け、それと同時に頭を下げ、土下座です。
「むいしきとはいえ、ちからをつかってしまって、もうしわけございませんでしたぁっ!」
ここで重要なのは、謝る理由もつけることです。これも東のおじさんが教えてくれました。説教する側の人間が一番腹が立つのはただ謝ればすむと思っている奴だって。
ちなみに、先の簀巻きおっさん事件の加害……いや、先に迷惑を被っていたのはおじさんだから被害者?のおじさんの一言です。と、とにかく、実に実感がこもった言だったと言っておきましょう。
そして、ここ重要。
「しゅぎょーをもっとしっかりやって、きちんとこんとろーるできるようになります!」
今後の指針も付け加えましょう。お説教をするのが趣味の救いがたい人以外は
けれど、それを分かっている綾芽がこの方法を夏生さんに使っているのを見たことはありません。何故かはっきりした理由は分かりませんが、もはや夏生さんの怒りは次元が違うのでしょう。それなら分かります。
ただし。これは一般的な方向けの謝罪方法。
「いつまで?」
「へ?」
顔を上げると、まるで能面のような無表情でこちらを見下ろしてくる二人。無表情っていえばアノ人か、南のナンバー2の凛さん。だけど、普段は表情筋が仕事をしている薫くんと千早様の二人がやるとなるとなんかこう、精神的ダメージが
「いつまでにやるのかって聞いてんの」
「え、えーっと……それはわからな」
「分からないけど、とか言うんじゃないよね。この口は」
「んみょ」
薫くんに頬を片手で強く掴まれ、アヒル口になった。
「ねぇ。手、どけてよ」
「ちひゃひゃしゃみゃ」
「君の手が邪魔で頭を叩けないでしょ」
で、ですよねー。弟子の頬の危機を助けてくれるんだ!って、勝手に一人で感動しちゃってた。ですよね、そうですよね。一緒に怒ってらっしゃいますもんね。
それにしても、期限まで区切ってくるとは、なかなかの所業ぞ。知識をつければいい勉強や、ちゃんとつけてさえいればいい毎日の日記付けとはまた違う。技術的な問題は向き不向きというものがあって、その不向きなものを人並にするには並大抵の努力と体力が必要だと思うわけでして。
「だいたい、奏も、あんたんところの上司も甘いんだよ。徐々に力をつければ大丈夫だなんて、何かあってからでは遅いんだからね。まぁ、もうその何かに何度も触れてると思うけど」
「それは同感。自分達だって色々身につけるために相当ギリギリのことやってるくせに甘い。甘すぎる。使わせなければいいっていうのは、使わないっていうことが自分で選択できる人間にすることだからって何度も言ってるのに」
「この可哀想な頭の子にはそんな芸当、当分無理。無理無理。絶対無理。だからこそ僕が時間を
「だよねー」
なんだろう。そんなに無理って繰り返されると……ちょっとムムッてくる。
「むぅ。はるまでにやったるわぁ!」
「でた。逆ギレ」
「春って
「あといっかげつくださいぃっ!」
冷静な薫くんの一言に、私の絶叫が部屋に響いた。
泣こうが
反論を述べたかろうとも、優位性を忘れてはならないぞ? バーイ海斗さん。なお、こちらも夏生さんに対しては以下略。
二人はそろそろ一度、夏生さんに本気で謝った方がいいと思う今日この頃。そして、口をついて出た言葉に、自分で言っておきながら軽く絶望という二文字を覚える今日この頃でした。
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