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◆ ◆ ◆ ◆



 ピィピィとうるさかったチビを黙らせると、見かねた烏天狗の男が抱えて飛ぶと言う。疾風の方をチラチラと心配そうに見ていたチビも、飛んで疾風の上の方の様子を見せてやると言われればおずおずとその手を伸ばしていた。疾風の心配八割、宙を飛ぶことへの好奇心二割ってところだろう。


 おりを男に任せ、俺も改めて疾風の身体に目を向ける。鳳も隣に来て、目視できる範囲で全身を見て回った。



「うーん。……フフッ。見事に回復してるわね。うんうん、お見事お見事」

「疾風から感じ取れる力がいつもと変わらない。……いや、僅かに、上、か?」



 鳳も俺と思っていることは同じ、か。神力の制御をするための師匠をつけられたり、元老院に短期間とはいえ行かせて鍛錬させてきたとはいえ、まだまだ甘かったというわけだ。


 というか、むしろさらにパワーアップしてきたと思うのは俺だけか?



「本人としては、傷をさけて手を当てただけだった部分が、実は通力が漏れ出ていた箇所だった、というところか。塞ぐどころか、アレの力も少し上乗せされて逆流してるみたいだがな」



 顎を指ではさみ、今の所の見立てを話す鳳に、雷焔も頷いてその考えに賛同してみせた。



「通力の消失はそれぞれの個体に適した環境下か、元老院にある泉にかるかで回復させたいところなんだけど……これはもう、ね。そろそろ本気で元老院総出であの子を囲い込む算段つけさせてもらうから」



 俺の方に視線をちらと寄越す雷焔に、フンと鼻を鳴らして返した。



「俺達が全員死んだ後の話、そういう約束だろ。……とうぶん先だろうがな」

「あら、私達からしてみればほんのすぐよ」



 確かに、人外の奴らにしてみればそうかもしれない。不可能なことを口にすることもないから、おそらく必要にせまられれば本当にやってのけるだろう。妙にこちらを威圧いあつする気を出し、はすに構えて言ってくるからまたたちが悪い。


 これ以上は何かしら向こうに都合の良い言質を取られる可能性もある、か。この話はここで終いとした方が賢明けんめいだろう。


 グギュルルル


 ……まったく。こっちが真剣に考えてるって時に。


 頭上から聞こえてくる断続的な腹の虫。もちろんあいつのだ。


 上の方の傷もしっかり治療されていることを確認して満足したらしく、大層ご満悦まんえつだ。もう男に用はないとばかりに俺の方へしきりに手を伸ばしてくる。


 グルルルルルル


 なんだ? その、分かってるだろ?的な顔は。

 あれか。俺に飯に連れてけってか。


 ……こんのバカ娘がっ! ほんっと手間のかかるっ!


 男から受け取った雅を少々雑にたわらかつぎにし、後のことは三人に任せて俺達は食堂へ向かった。


 途中で何やら言いたげに見てくる奴もチラホラいたが、余所よその奴らだ。全部スルーしてやった。東では日常茶飯事のこと。その証拠に、東の奴らは誰も何も言わん。



「なちゅきさーん。おなかへったよぉー」

「うるせぇ! 黙って待っとけ!」



 ちくしょう! 保護者! 

 見回りに行かせたのは誰だ!? 俺だ!



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