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□ □ □ □
冥府の官吏のお兄さんの謎の訪問から一夜明け、私、ただいまちょっと不機嫌真っ
別に、朝起きたら綾芽がいなくて
毎朝毎朝、私の方が目を
今日! 綾芽は私をおいて、あろうことか先に部屋から出て行ってた! 酷い裏切りを見た!
「ふぬ! ふぬ! ふぬ!」
丁度良い時に薫くんや料理番のお兄さん達がうどんの
「……ねぇ。そんな気持ちで作ったものが美味しくなると思ってんの?」
「そ、そうだ、そうだよね。わたしとしたことが、なんたりゅこと」
いつの間にか背後に立っていた薫くんから耳元で
「ご、ごめんねぇ!」
必要以上にぺしゃんこになってしまったもう向こう側が
時間が足りないからと薫くんに取って替えられた生地をラップに包み、足元に
「薫さん。
「……これ、
「はい」
「鰹だけじゃなくて、昆布も入れて。鰹、どれくらい入れた?」
「全員分なので、五つ掴みです」
「そう。じゃあ、昆布も同じ五きれでいいよ」
「分かりました」
料理人のお兄さんと薫くんが話している間に、誰かから肩をトントンされた。振り返ると、別のお兄さんがうどんの麺を一本
「あーん」
「ひゃー! あー!」
なんと! つまみ食いさせてくれるんですか!?
ちなみに、私は薫くんからつまみ食いはご飯がきちんと入らなくなるから駄目と禁止されている。そんな私にこっそり
「……ん? んー」
「どうかな?」
「んー。かたいものがすきなひとはこれくらいでだいじょーぶ。でも、わたしはもうちょっとやわらかいほうがいいなぁー」
小さな子の離乳食ばりの柔らかさとまではいかないけどさ。
「味は?」
「ふふん」
「あ、いや、雅ちゃ……」
「ここのおりょうりで、おいしくないものがあるわけがない!」
「つまり?」
「おいしいにきまってる! ……え?」
気のせいじゃなければ、途中から別の声が話に入ってきてたような。そしてそして、さらに言えば、その声は……。
「さっきもつまみ食いしてなかったっけ?」
腕組みをして私を見下ろす薫くん。
こんな時はあの夏生さんよりも怖い。ホント怖い。
「あ、あれはぁ……そのー、えっとねー……そう! あじみ! かおるおにーちゃまとおなじように、あじみてつだってたの!」
「味見? 何食べても美味しいとしか言わないんだから、味見の程度が知れてるでしょ」
「そ、そんなことないよ!? ね!」
麺をくれたお兄さんに助けを求めると、両手をパチンと合わせてきた。
え? それは何? ごめんねのポーズ?
「綾芽さん達がやってるの見て、雛鳥の
お兄さん、今じゃない。やってもいいけど、むしろ可愛がってくれるなら大歓迎だけど、分かる? 今じゃない。
だってほら、薫くんを見て。ちゃんと見て。さっき一瞬私が怒らせたけど、あのお兄さんがタイミングよく話をそらしてくれたでしょ? それが今や、私だけでなくお兄さんも冷たい目で見られてるよ?
「それなら出来上がった時に言われるだけで十分。で? 他に言い訳は?」
「ぐぬぅ。……ない、ことも、ない」
「いやに
「これはおてつだいのごほう……」
「びにはならないよ。別に用意されてるかもしれないでしょ」
「え?」
「ご褒美っていうのは、与える相手が選ぶもので、
「それって……もしかして、もしかしたりしてっ!?」
それはご褒美が別に用意されてるってことでオーケーですか!?
薫くんの言葉に期待がより一層高まっていく。
「さぁね。ちゃんと言いつけ守れて、きちんとご飯も食べ終わったら、もしかしたらあるんじゃない?」
「おにいさん、わたし、もうつまみぐ……じゃなかった、あじみはできません。ほかのおにいさんたちも、きょうはのーせんきゅーです。みんなおいしい。おいしいから、ごはんのときにたべるから。……はやくつくろ?」
真面目にキリッとした顔で言ってみました。
こねてーこねてーこねこねてー。おいしくなって、ちょうだいなー。
即興で歌まで作って歌いながら足踏みを再開した。
その時、
「はい、
電話を切ったお兄さんは受話器をすぐに置いたかと思えば、厨房の中にいる薫くんの名を大声で呼んだ。
「どうしたの? なんだって?」
「西で負傷者多数とのことです。ここからも手当の心得がある何人かと、それから……」
「この子も?」
「すでに現場にいる元老院の雷焔殿からの指示だそうです」
奏様が私を呼んでる? もちろん行きますよ! 手当のお手伝い!
「あと、迎えは……」
お兄さんが少し困った顔を浮かべた次の瞬間。
「やれやれ。祭り以外の仕事が増えるのはごめんなんだけどなぁ」
「我々が門を
廊下から二人組が食堂へ入ってきた。
肩をすくめ、ずれたモノクルの位置を直すのは元老院のおひとり、カミーユ様。そして、その副官であるコリン様だった。お二人はこの間、彼らのボスである元老院長様からこの件が綺麗に片付くまでこの世界にとどまることを
そのお二人がいう門は奏様がいつも出すあの赤い門のことだろう。確かに、あれならすぐに行ける。いうなれば、どこでもドアと同じ原理だ。
「さぁ、早くご準備を」
コリン様に促され、私と、何人かの料理人さん達はコックコートやソムリエエプロンを脱ぎ、準備をするために急ぎ足で厨房を後にした。
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