2
バレてしまったからには仕方ない。
いつものように劉さんの方に行こうと両手をのばした。
いや、この空気を
「はい、ストップ」
「おぅっ」
綾芽が抱っこする手を緩めるどころかそのまま後ろに下がったもんだから、私の身体はそのまま何とかの法則に従って前のめりになった。危うく宙ぶらりんの姿勢になりかけた私を綾芽がもう片方の手で抱え直す。
何してるん?なんて言われ、涙が出そうになった。
「自分、この前の
「……っ」
「……はい」
綾芽が切り出した話は丁度さっきまで二人でしていたことで、今回の尾行事案の核心を本人に問うものだったから心臓がキュッとなった。
驚いて慌てて二人を交互に見る私をよそに、劉さんは冷静に返した。その様子を見ると、綾芽の言っていた言葉も間違いじゃなかったんだと思える。
良かった。私の勘違いだったんだ。私、てっきり……
「自分、あの日を忘れたわけやあらへんよなぁ?」
「はい。……わすれない。ぜったい」
「……そんならえぇわ」
……綾芽?
一瞬、本当にほんの一瞬だけど、酷く冷えた空気が流れた。身が
「屋敷戻るんやろ? 行こか。寒ぅてかなんし」
「はい」
もう行ってもいいかな? ダメ? まだダメ?
綾芽の方をチラチラと見上げると、それに気づいた綾芽が劉さんに声をかけた。
「はい?」
「この子、引き取って。さっきから自分とこ行きたそうにしてはったんや」
「は、はぁ。……みやび、くる?」
「いく!」
劉さんの腕に掴まると、いつも通り、後は上手い事二人の間で渡し作業をやってくれる。私はぬいぐるみのように大人しくしていればいい。実にラクチンなのですよ。
半年以上も抱っこしてると人って慣れるもので、この劉さんが一番上手い。それに、今の時期体温も関係してくる。綾芽も巳鶴さんも嫌じゃないけど、あの二人は特別体温が低いし、手先が冷たい。まだまだ寒い冬の最中にはちょっとご遠慮したい人選なのだ。
その点、劉さんは程よい温かさで文句なし。ちなみに海斗さんは私を抱っこしたまま、え?これ曲芸?みたいな動きをしちゃうから怖くて嫌だ。夏生さんはそもそも抱っこをしてくれない。薫くんも右に同じく。子瑛さんも抱っこしてくれるけど、まだまだ今後に期待ってところかな。
まぁ、要は抱っこしてくれる人の中で、この時期、劉さんの右に出る者はいないってことだ。
……あ、そうだ。二人の間でなんか解決したっぽいし。いいよね?
「ねぇ、りゅー」
「なに?」
「なにが、まだだいじょうぶなの?」
「……」
「知らんでえぇことや」
あ、ずるい!
また大人の都合ってやつか! 子供を
いいじゃん、いいじゃん。寒い中一緒に待ってたよしみでさぁ。教えてくれたって。
でも、綾芽がそう言う時、彼は
こうなったら
……けち、けち、けーち。
「そないな顔しても、ちぃっともどうもないわ」
「いじわる!」
「聞き分け良ぅしてへんと、自分のパパさん呼ぶで」
「なっ! ひきょうなり!」
劉さん、聞いた? 聞いたよね? これは立派な
警察的な役割してる人が善良なる市民を脅迫だなんて、世も末だぁー。
自分でも自覚してるけど、寝付きの良さには定評がある。
さっきまで元気よく走り回っていたのに、気づいたら縁側で突っ伏して寝ている私に、驚いたおじさん達が巳鶴さんにすわ病気かと助けを求められたこともありました。
「……りゅー。ぽんぽん……やめてー」
あれだけ気になってたことも、
「我慢せんと、そのまま寝てしもてかまへんよ」
耳のすぐ側で、悪魔のごとき
前に海斗さんだったか薫くんだったかが綾芽のことをそう呼んでいたけど、それは間違いではないかもしれない。
ずるずると
糸の切れた
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