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 それからものの数分で着付け終えた奏様は私の周りをグルグルと周り、最終チェックをし始めた。完璧主義の奏様らしく、わずかなほころびさえもしっかりと正していく。


 そっと横目で響様を見ると、響様も何やら小物の準備をしている。振り鼓と言われるもので、分かりやすく言うとでんでん太鼓だ。まだまだ物の価値を知らぬ子供の頃にカラカラと鳴らして遊んだものが実は祭り事に使う大事な年代物のモノで、ひいおばあちゃんにばっちりと犯行現場を見られた時は大層叱られたものだ。


 ……うぅ、嫌なことを思い出しちゃった。



「雅ちゃん?」

「あ、ごめんなさい。なんでもないですっ」



 その時のことを思い出した私の身体がブルリと震えたのに気づき、奏様がほんの少し首を傾げて聞いてきた。それにフルフルと首を振り返して答える。すると奏様も気を取り直してチェック作業に戻ってしまった。



「……よし。大丈夫そうね」

「はい。この分なら丈直しも必要ないでしょう」

「そうね。あとは髪の毛をどう結うか、よね?」

「本来、侲子を務められるような年齢の子の見た目と雅ちゃんの見た目には大分差がありますし」



 あ、確かに。


 よく絵巻物とかで皆が目にするこうくるんって輪っかにして結ぶヤツ。確か上げみづらって言うんだけど、本来もう少し後、十歳くらいの子供がする結び方だからなぁ。やっぱりこういうきちんとした行事の時は、しっかりとそういうのも守った方がいいんだろうねぇ。


 奏様は腕組して考えこんでしまい、響様も眉を下げて私と奏様の方に交互に視線を送ってきた。



「……まぁ、結び方の決まり事なんて人間が決めたものだし。侲子も後の時代には方相氏と一緒に鬼と同一視されることになるくらいだから、人間が定めた概念なんてあやふやなものよ。なら、こちらのやり方を取り入れてもいいわよね」

「えっ?」

「響、上げみづらでいくわよ」

「は、はいっ! 結い紐はこちらでいいですか?」

「えぇ。ありがとう」



 奏様の鶴の一声で決められ、手早く結ばれて内心戸惑っていると、奏様が私の肩を掴んで目を合わせてきた。



「雅ちゃん」

「あい」

「いい? 雅ちゃんの役目は自分の格好を気にすることじゃないの。大儺での自分の役割を立派に果たすことなの。そうよね?」

「……あい」

「できるわよね?」

「できます!」



 そうだった、そうだった。そうでした。


 私のやるべきことは当日の装いについて考え込むことじゃない。帝様達からお願いされたこの大事なお役目を滞りなく終わらせることだ。


 それから。



「かなでさま、わたし、がんばります!」

「えぇ。楽しみにしてるわ」



 そう。私は頑張るのだ。


 それもこれも、他でもない。海斗さんと立てた計画、プランAを成功させるため!


 やればできる子、私、柳雅。頑張りますっ!



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