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お屋敷の中に入ると、広い奥座敷に直行する。帝様がそこで待っているのだ。
南の人達も到着はもうすぐだということで、今日はとりあえずの
綾芽達が来る一時間程前に東の料理人さん達
「遠くまでご苦労であったな」
「いえ」
「皆が無事のようでなにより」
夏生さん達は帝様の真向かいに腰を下ろした。
「鳳が怪我を負ったと連絡がありましたが」
「問題ない。そいつに治してもらった」
その間に座る鳳さんが私の方を
ついついドヤ顔を浮かべていたのか、ペシッと夏生さんに頭を叩かれた。
「その後なに食べたん?」
「コンビニのおにぎり。いーっぱい。おいしかったぁ」
冷めても美味しいおにぎりはなかなかに有能な食料だと思う。その中でも塩だけのが今のところ一番好き。
異論? もちろん認めます。
「そんなに腹減ってたのか?」
海斗さんがニヤニヤと笑いながら聞いてきた。
「んー。おなかへりすぎてわかんなくなってた?」
「なんで首
「わたし、あのときがんばったから! おなかすいてたけど、それをこえるたたかいがそこにはあった!」
「だからドヤ顔すんな」
夏生さんからの本日何度目かの頭ペシッ。
痛い、けど、なんか嬉しい。ついついにやけてしまう。叩かれた部分を押さえて笑ってしまった。
「雅、悪いが茶を運んできてくれるか?」
「いいですよー」
綾芽の
帝様に、橘さん、鳳さんに、夏生さん、海斗さん、綾芽。それから私の分。全部で七つか。うん、ぎりぎりいける!
「ちょっとまっててくださーい」
奥座敷を出る時、入れ替わりで奏様とカミーユ様が入ってきた。
すれ違いざまにカミーユ様が私にちょっかいをかけてこようとして、どうしても首が一瞬すくんでしまう。
もちろん、それをしっかり見ていた奏様にカミーユ様はバッチリと
「かなでさまたちも、おちゃいりますか?」
「私はいいわ」
「今はいいかな」
「はぁーい」
その途中、カチャカチャと何か音がする部屋を見つけた。
障子が開いていたのでひょっこり
「あ、りゅー!」
荷物の整理をしていた劉さんがいた。
劉さんは私に気づくと、手を止めてこちらに来てくれた。
「みやび、どうした?」
「いまからおちゃとりにいくの。ななつ」
「いっしょ、いく」
「うん! いこー」
差し出された手を
厨房では
どんどん盛り付けられていく料理はどれも美味しそうで……じゃない。そうじゃない。
「ん? おチビちゃん達、どうしたの?」
入り口近くにいた南の料理人さんから声をかけられた。
その人がすぐに手を
「あーん」
「あー」
「……どう?」
「んっ!」
外の衣はサックサク、中の
グッと親指を立てて返事をした。
問題はこのエビフライに何をつけて食べるか、だ。
「よしよし。なら、これは大丈夫だね」
「みやび」
劉さんから肩をトントンと
顔を上げると、劉さんは
……分かってる。
私がここに来たのはつまみ食いのためじゃなくって、お茶を運ぶためだ。
「おにーさん、わたし、おちゃをはこばなきゃいけないの」
「お茶? いくついるの?」
「ななつ」
「七つは……危ないんじゃないかな?」
「んーん。へいき。あのね、りゅーとはんぶんこするから」
「あ、あぁ。そうなんだ。熱いの? 冷たいの?」
「あ」
聞くの忘れてた。
ど、どーしようっかなー。
「みやび、どっち?」
「わたしはー」
お座敷、暖房つけてたから……。
「ぬるめ」
「そう言われてみれば、ぬるめっていう
「あつい、みっつ、つめたい、みっつ。ぬるめ? ひとつ」
「半分ずつね。分かったよ」
うーん、劉さんがいてくれて良かったぁ。
「はい、お待たせ」
お兄さんがそれぞれ準備してくれたうえにお
大きいお盆に六つ、小さいお盆に一つ。言わずもがな、私が小さいお盆だ。
「……もうちょっともてるよ」
「そっかそっか。じゃあ、これね。ほら、早く行かないとお茶が冷めちゃうよ」
「えっ、あっ」
お兄さんは私のお盆に
「チビ、邪魔しない」
「あい」
厨房の奥で大きな鍋の中をかき混ぜている薫くんからお
東の厨房では薫くんの言うことは絶対。料理長である彼に逆らおうものなら、料理の一品や二品減らされるなんて容易に想像ができる。
でも、ここは南の厨房で料理長は桐生さんだ。
それでも身体に染み付いた慣れとは怖いもので、さっさと足が先に動いていた。
「かおるおにーちゃま、がんばって!」
「ほら! 前を見る!」
「……うわっととと」
後ろを振り返りながら歩いていたら、目の前に柱がいきなり現れたんですけどっ。
薫くんと、
劉さんや、本当に何から何までありがとうございます。これは後で、綾芽からもらった金平糖を分けてあげねばなるまいね。
……それが私にできる最大限のお礼の仕方なんだけど、それで大丈夫?
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