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◆ ◆ ◆ ◆



 こちらへ来る時に、千早様から渡された鈴。それを二度鳴らす。それが帰還の合図となるらしい。



「……」



 言われた通りにやったというのに、何も起きないとはどういうことだ?



「陛下。それ、貸してもろてもえぇですか?」

「あぁ」



 持っていた鈴を綾芽に渡すと、綾芽は鈴を回したりのぞき込んだりしてくまなく調べ始めた。

 そして、綾芽も二度、鈴を揺らした。しかし、来る時に現れた赤い大門はやはり現れない。



「……はかられた?」

「千早にか?」


「遅くなりました。少々出るのに手間取ってしまって」



 雅の母親が家の方から駆けてきた。


 だが、遅くなるもなにも、帰るためのすべがない今、確実に立ち往生おうじょうだ。



「どうされたんですか?」

「その鈴を鳴らせば帰れると聞いたが、効果がない」

「呪具の一種ですね。貸していただけますか?」

「あぁ。綾芽」

「どうぞ」

「ありがとうございます」



 雅の母親は鈴を両手で包み込むようにして持った。しばらくして、鈴のひもを持った彼女はわずかにその鈴を振った。


 リィーン


 明らかに私達が鳴らした時とは音の響きが違う。


 そして、フッと先程までこの場にいなかったはずの影が現れた。



「優姫」



 雅の父神が彼女の背に手を伸ばし、抱きしめた。いや、正確には抱きしめかけた、と言った方が正しい。



「陛下」

「む」



 綾芽に腕を引っ張られ、近くにあった木陰こかげまで連れて行かれた。そして、そのまま綾芽は二人の方へ視線を投げた。


 これはここで黙って見ていようということか。なんだか不穏な感じがするが……まぁ、綾芽がそうしたいのならそうさせておこう。


 私も綾芽の隣でだまって二人の様子を見ていることにした。


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