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「一つ、良い方法を教えてあげようか?」



 それまで黙って話を聞いていたお兄さんが口を開いた。



「ようは奏お姉ちゃんの庇護から君が外れるようなことをすればいいんだよ」



 奏様の庇護から?


 そうやって改めて他の人の口から聞くと、私はたくさんの人に守られてるんだなぁって場違いなことを考えてしまう。



 ……ダメだダメだ。


 今ここで別のことを考えて気を緩めていると、足元すくわれかねない。



「……ちなみに、それはどんなふうに?」

「こらこら、勝手に話を進めないでよ。この子は向こう側にいてこそ真価を発揮するんだから」



 念のために確認すると、皇彼方が話に割り入ってきた。



「ちょっと黙ってて。奏お姉ちゃんに好かれる手伝いは死んでもゴメンだけど、逆なら手を貸さないわけないんだから」

「まったく。ワガママな子だね」



 お兄さんは眉をピクリと動かしたけど、それに反論することはない。


 何事もなかったかのように口を開いた。



「……いい? 君がすることはただ一つ。奏お姉ちゃんが嫌いな行動をとればいい。つまり、こちら側に」

「いや」

「は?」



 最後まで聞くまでもないよね?


 その選択肢は端から用意されてないもの。



「なにがあってもそれはいや。だって、かおるおにいちゃまをきずつけた。ぜったい、ぜったいにいや」

「へぇ。じゃあ、奏お姉ちゃんのことはいいんだ? どうなってもいいんだ!?」

「みーんなたすけるもん!」

「……足手纏いになってるくせに」



 な、なにおー!?


 言ってはならぬことをっ!?



「はいはい、喧嘩しないで。喧嘩するくらいだったら僕の話を聞いてよ」

「「いや!」」



 またかぶった!


 もうなんなのさ! この人!!


 奏様のこと、奏お姉ちゃんって呼んで慕ってるの丸分かりなのに、こんなよく分からない理由で奏様を苦しめるようなことを考える人に加担するなんて頭どうかしちゃってるよ!



「君はとんだお転婆さんだね。……奏の小さい頃にそっくりだ」

「あなたはかなでさまのおにいさまなのに、ひどいひとでしゅね!」

「でもさ、よく考えてみてよ。君は大切な人はいる?」

「……もちろん」



 家族に、綾芽達。


 それに、今まで知り合って関わった人みんな。


 みんなみんな、私にとっては守りたい大切な人達だ。



 ……いかん。話を聞いてって言われてイヤって大声で言った後だったのに。


 簡単に話術にはまってしまった。



「その人を失うわけじゃない。けれど失ったも同じ。どうしてだと思う?」



 そしてまた、こんな時になぞなぞですか。


 しかも問題からして答えが重そうだし。



 失うわけじゃないのに失ったも同じ?


 失ってないなら失ったも同じなわけないでしょ?


 だって、失ってないなら、まだ一緒に……



 ……あ。



「わすれられる、あいてがわたしたちのすがたをにんしきしてくれなくなる?」

「ご名答」



 皇彼方はニンマリと口端を上げた。



「奏は一度ならず二度までも大切な者を自ら記憶から消した前科があるからね。忘れられては困る約束なんだ。だから、忘れさせない。そのためなら僕はたとえ神にだって僕の舞台上に上がってもらうよ?」

「……おーぼーですね」



 皇彼方の笑顔が怖い理由の一端が分かった気がする。


 この人は自分の目的のためなら周りを顧みない。


 それだけじゃなく、きっとその約束とやらを果たすのに自分の命が関わってくるとしても、この人は喜んで差し出す。


 それくらいの一種の狂気すら感じられる。



「……みんななかよく、なんでできないのかなぁ?」



 私がふと呟いた独り言を、皇彼方はその本心から笑ってないのが丸分かりの笑みで流し、もう一人のお兄さんには鼻で笑われた。



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