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 痛い。苦しい。怖い。


 死にたくない。



 色んな気持ちが頭の中に流れ込んでくる。



「……呑まれるな」



 アノ人が私の頭を片腕で包み込んだ。


 周りから見れば私の身体はアノ人の着物の袖で完全に隠れてしまっているだろう。



 ……あ、やっぱり、なんだかんだ言ってもすごい。



 不思議なことに、それまで聞こえていた声も気持ちも聞こえないし感じなくなっていた。



「……相談なんだけど、僕はこの部屋全体に結界を張ってこの扉を開ける。これ以上放置してたらこの病院だけじゃなくて、他にも害が及ぶかもしれないし。あぁ、貴方はそのままその子を守っててよ。その子、変に同調しちゃってるから」



 私が言いだしたことなのに。


 完全に足手まといになってるなんて……情けない。



「好きにして構わない」

「了解。それじゃあ、上座の神の承諾も得たことだし」



 気配で千早様が結界を張り終えたのが分かった。


 何が原因で錆びれたのか考えたくない鉄が動く音がする。



「……うわぁ」



 千早様が妙な高さの声で小さく呟いたのが聞こえてきた。


 恐る恐る中を想像してみるけれど、モザイクしか見えない。



 いっそここまで来たら気絶していた方がいいような気すらしていたところに、フフフと場違いな笑い声が部屋に響いた。



「随分お困りみたいねぇ」



 この声……もしかして、アノ人のお友達のオネェさん!?



「……何よ。その勝ち誇った顔。憎たらしいわね」

「雅が我に抱き着いている」

「そんなの近くにいた大人があんたしかいなかったからでしょうが。やーい。バーカバーカ」

「バカと言う方がバカという言葉を知らんのか」

「言ったわね?」



 ……二人とも、空気を読んで。


 今、マイペースさを発揮させていいところじゃないから。


 見えないけど、見えないはずなんだけど、千早様が白い目で見てるのが分かっちゃうから。



 えっと、千早様。


 悪い人達じゃないんです。本当です。


 ただ、二人共、長い事神様してると場の空気が読めなくなっちゃう時がやっぱりどうしてもあるみたいで。


 いや、あの、本当……ごめんなさい。



「それにしても酷いわね」

「ここまでだと僕ではどうしようもないから、元老院を呼んだよ」

「そう。懸命ね。私達には退ける力はあっても消す力はないもの」



 けす、とは?


 助けを求めてきた人達を、けす?


 そんなのダメだよ!!



「雅ちゃん。一人でも十分国すらも呪えるのよ? それがこんなに凝り固まった多数だとどうなると思う?」

「……」



 オネェさんが優しく私に諭してくる。


 そんなオネェさんに、私は何も言い返せない。



「……ふふっ。本当に優しい子ねぇ。ますますイイわぁ」

「え?」

「大丈夫よ。彼が元老院を呼んだと言っていたでしょう? きっと適任者が来るはずよ。この人間達の魂を消さずにすむ力のある者を」

「ほんとう?」

「えぇ。……ほら、噂をすれば」



 ギギギギッと何かが開く音がする。


 元老院の人が来るって言ってたから、あの赤い門の音かもしれない。



「ハッアーイ! お呼びと伺い参上しましたぁ!!」



 て、テンション高いですね。


 アノ人とオネェさんのマイペースな話も空気読んでって思うけど、この人はそれ以上だよ。



「……これはこれは、なるほど。私が任を受けたわけですね」

「早くどうにかして」

「分かってるわよぅ。でも、その前に」



 ……あ、あれ?


 なんか寒気?



 頭の天辺、の、上?


 すごく視線を感じる。



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