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 なんだかなぁな気分をなんとか浮上させ、私達はナースステーションの角を曲がった。



「……け、て」



「ちはや……っとと」



 周りの人には見えてないんだった。



 ……千早様、何か言った?



「僕は何も言ってないよ」



 ……えー。だって、今、なんか……。


 どこから聞こえたのか分からないほどか細い声だったけど、確かに聞こえてきたんだけど。



「どうしたの? 迷子?」

「……んーん」



 角を曲がった先の廊下でナース服を着たお姉さんが声をかけて来た。


 一瞬、なんだか分からないもやっとした感じがしたけれど、それが何なのか分からないことにはどうしようもない。


 気にしないでおこう。



「誰と来たの? お父さんかお母さんは?」

「……おかあさんはおうち。おとうさんは……」

「あ……ごめんね。……じゃあ、一緒に行こっか」



 んん? なんだか勘違いされてるみたい?


 一応生きてるよ? アノ人。 お父さんって言えないだけで。



「んーん。だいじょうぶ」

「でも、危ないから」



 少し眉を寄せたお姉さんが私の身体を持ち上げて抱っこをしようと手を伸ばしてきた時。



「雅」



 黒髪から自前の銀髪にいつの間にか戻したアノ人が私達の背後に立っていた。


 お姉さんの手をすり抜けるように抱き込んだアノ人はお姉さんをジッと見つめている。



「……そう。貴女にはあの人達から守ってくれる人がいるのね」



 良かった、と、目尻に涙を浮かべ、さっき見たお姉さんの幽霊同様にっこりと笑って消えていった。



 ……あ、あのお姉さんも幽霊だったなんて。


 違和感の正体、これだったんだ。 


 この病院の看護師さん達、みんなズボンスタイルだもんね。



 ……って、さっきのお姉さん、なんだか意味深なこと言って消えちゃったんですけども!



 あの人達って誰!?


 守ってくれるってことは、その“あの人達”って悪い人達ってことでしょ?



「か、かむばーっく!!」



 幽霊は怖いけど、話半分にして消えられるのもなんか嫌だぁー!!


 気になるじゃんかぁ!!



「幽霊相手に戻って来いなんて言うやつ初めて見た」

「わたしもはじめていった」



 って、また口に出しちゃってる。


 アノ人も銀髪に戻ってるってことは周りの人に見えないようにしてるってことだろうし。


 自重だ、自重。



「呼んだかしら?」

「みゃっ!!」



 心臓に悪い……。


 さっき消えたはずの看護師のお姉さん幽霊がすぐ真横に現れた。


 片方の二の腕をもう片方の手で掴み、何故自分が再び呼ばれたか分からないのか、不思議そうに首を傾げている。



 よ、よし。このお姉さんは怖くない。


 突然消えることを考えなければ普通の人と同じように見えてるんだから、いける。いけるぞ!



「あのひとたちってだぁれ?」



 そう聞くと、お姉さんの眉が寄った。


 よほど口にしたくないのか、話すのがはばかられる内容なんだろう。



「だいじょうぶ。なんとかしてみせる!」

「あなたが?」



 うぅむ。この小さな身体のせいで心配されておるね?


 ご安心ください。


 今ならこの二人もついてきます!!



 千早様とアノ人の手を掴んで、二人を見て、お姉さんを見て。


 ニコッと笑うと、お姉さんはアノ人がなんとかすると思ったらしい。



「よろしくお願いします」



 アノ人に深々と頭を下げた。



 ……その人、言いたかないですけど、お母さん絡みじゃないとあんまり動いてくれないんですのよ?


 だから、私が!


 がん、ばり、ます!!



 ……あ、千早様。手、離さんといて。


 お姉さん以外の幽霊出てきたら怖いやん。




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