幽霊の正体見たりなんとやら

1


□ □ □ □



 鳳さんが運びこまれたのは、都を出て一時間程の山麓にある大きな病院だった。



「みかどさま。わたし、あるきます」

「そうか? なら手を繋ごう」

「あい」



 消えずに残っていた子虎――疾風が私の肩に飛び乗った。私の頭に前足をかけ、両肩にそれぞれ後ろ足を乗せている。



「疾風。私と陛下以外の一般人には見えないようにできますか?」

「ミャウ」



 分かったと言わんばかりに答えた疾風の身体が白い光に包まれた。



「……雅」



 帝様と反対側を見ると、アノ人が手を差し出してきている。まだ密かに帝様に対抗心を燃やしているらしいアノ人は、なんとしてでも負けたくないらしい。


 お母さんにしか興味がないなら早く帰ればいいのに。


 ちっちゃい! 神様の器としてちっちゃいよ!?


 その時、すーっと視界の隅を何かが通った。滑らかな動き。大きさは丁度人の……。



「し、しかたないなぁー!」



 気のせい気のせい。

 だって、おばけなんて……駄目だ。ここ、病院やった。


 すかさず、身長の高い二人の手ではなく、腕をぐわっしと抱えこむ。

 心の平穏は目に見える形で確保しておくに限る。



「こちらです」



 信号待ちの時に橘さんが前もって病院に連絡していたおかげで、すぐに病室へと案内された。



「長時間の面会はまだご遠慮いただけると……」

「分かりました。ありがとうございます」



 ここまで案内してきてくれたのはこの病院の院長先生だった。すごく緊張しているのか、しきりに額の汗を拭っている。

 その気持ちは分からなくもない。私的なものとはいえ、帝様の行幸みゆきだし。それだけでなく、子供には分からない大人の問題もからんでるのかもしれないし。


 とはいえ、そこまで緊張することもないと思うんだけど。


 院長先生はペコペコと頭を下げ、そそくさと立ち去っていった。



「雅さん」

「なんですか?」

「いいですか? 鳳さんの怪我を治すのは最小限にしてください」

「どうして?」

「貴女の力は特別だからです。一般人に貴女の力のことを知られるわけにはいきません」



 そう言えば、夏生さん達も言ってた。

 この力は諸刃の剣だって。


 それに、忘れてないよ? 合言葉。

 “ひとーつ、神様の力は無闇に使いません!”



「約束できますか?」

「できます!」

「それじゃあ入りましょうか」



 橘さんが病室をノックする。すると、中から返事がかえってきた。

 帝様達の手を離し、横開きのドアを開けた。



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