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「貴方達はどうしますか?」

「僕は東の屋敷に戻ります。大勢で押しかけてもあれだし」



 橘さんの運転する車で来ていたから丁度いいと、このまま西の山麓にある病院へ向かうことになった。


 薫くんとはお店を出て別れることになる。



「じゃあ、いい子にしとくんだよ?」

「うん。みんなにげんきにしてますっていっといて」

「はいはい。それじゃ」



 薫くんは手を上げて挨拶を交わすと、路地を曲がって行ってしまった。



「私も今度こそ戻らなきゃ。雅ちゃん、ありがとう。貴女の優しさがこの先も損なわれないよう祈ってるわ。……あだとならない程度に」

「かなでさま?」

「ううん。なんでもないの。じゃあ、千早。任せたからね」

「ふぅ。思ったより面倒なことになってきた。たまに戻る時には菓子でもてなしてもらうからね」

「用意しておくわ。……では、また」



 奏様がパンと柏手を打つと、あの赤い大門が出てきた。

 街中だけど、普通の人には見えないみたいで大きな騒ぎになることはない。



「……」



 奏様は門を潜る寸前、お店の方を一瞥いちべつしていった。

 そして、奏様が完全に門を潜り終えると、門は一人でに消え失せた。



「では、私達も行きましょうか」

「あぁ」



 帝様に手を引かれ、帝様を乗せるだけあって色々な細工が施してある特注車だという橘さんの愛車の後部座席に乗り込んだ。


 戻ってきたら、瑠衣さんと黒木さんが仲直りしてますよーに!


 あの世で一番偉かったっていう神様だから、筋違いなのはわかってるけど、一応神様であることには違いない。

 車の中で手を合わせて自分に向かって拝み倒す私を、アノ人は不思議そうに見下ろしていた。



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