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 なんとも言えない空気がお店の中に漂っている。


 けれど、神様二人はまったく気にせず、自分がやりたいことを各々していた。



 ……うん、この二人はダメだ。



「ねぇねぇ」



 隣に座る橘さんの服の裾をちょんちょんと引っ張った。



「どうしました?」

「おみみかしてくださいな」



 背中を丸めて耳を近づけてくれた橘さんの耳元に両手で円を作って持っていく。



「るいおねーちゃまたち、おそいね」

「そうですね」

「くろきしゃんとなかなおりできるとおもう?」

「どうでしょう。そればかりはなんとも……」

「ミャウ」



 え? ミャウ?


 なんともミャウ?



 可愛い鳴き声が橘さんの口……ではなく、頭の上から発せられた。



「……うわぁ!」



 白い小さな虎……ホワイトタイガーと呼ばれる種類なんだろう小虎が、橘さんの頭に前脚をかけるようにして私を見下ろしている。


 動物園では見たことがあるけど、それも成獣になった虎で、こんな一目で子供と分かるコは初めて見た。



「西の疾風はやてではないか?」

「ちょっと雅さん、すみません」



 橘さんが頭の上に手を伸ばし、疾風と呼ばれた小虎を下ろす。


 疾風は橘さんの膝に大人しく座った。



「ねぇ、橘さん。なんか首のところについてない?」

「本当ですね。首の鈴紐に結び文が」



 よく参拝客が縁結びとしておみくじ結びどころへおみくじを結んでいくような結び方で紐に結ばれていた。


 それを橘さんが取り、目で書かれている文字を追い始める。



 その間に恐る恐る小虎へ手を伸ばすと、向こうから頭を摺り寄せてきた。


 ……んんっ!! もふもふ。



「……陛下。西の鳳さんが重傷だそうです」

「えっ!?」



 西の鳳さんってあの鳳さん!?


 海斗さんや綾芽もその昔ものすごく扱かれたっていう強者の鳳さん!?


 なんで重傷!? 何があったの?



「また、これ幸いと離反者も大勢でたと」

「……それは誰からだ?」

「西で副官を務めている泰原さんです」

「なるほど。鳳が次の長にと温めている男か」

「おそらく夏生さんにはもうすでに連絡がいってるでしょう。どうなさいますか?」

「鳳はどこで治療を?」

「都を出てすぐの山麓の病院だそうです。幸い命に別状はないそうですが」

「そうか。他には?」

「指示はこれ以降、北の八尋さんが出すそうです。離反者の名も夏生さんの指示により控えていると」

「さすがだな。……雅」

「あい」



 帝様がこちらに軽く首を曲げて目を向けてくる。



「少しの間なら構わんだろう。あまり無茶をせんというなら見舞いへ行くか?」



 それはもちろん。


 でも、今は……。



「……るいおねーちゃまが」

「なに。これは黒木と瑠衣の問題。それにほら」



 帝様が奥のバックヤードへ続く扉を指さした。


 すると、直に扉が開き、なんだか神妙な面持ちの瑠衣さんと奏様が出てきた。



「ごめんなさい、みんな。これから黒木と二人きりで話があるの」

「るいおねーちゃま」

「雅ちゃん、またね」



 そう言われると、うんと頷くことしかできない。


 バイバイと手を振って、後ろ髪を引かれながらお店を出た。




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