8


◆ ◆ ◆ ◆



 いよっしゃ、みーっけ!



「おーい! 夏生さん、こっち見つけたぜ」

「今行く」



 ばらけて他の場所を探していた夏生さん達を呼び集めた。


 綾芽は……あっ!

 あいつ、また自分だけサボってスマホいじってやがる!



「おい、綾芽! 何してやがる! 俺達は仕事に来てんだぞ!」



 そんな綾芽を目ざとい夏生さんが見逃すはずがなく、すぐに叱責しっせきの声が飛んだ。


 へっへっへっ。怒られろ怒られろ。もーっと怒られちまえ。



「いやいや、遊んでへんて。薫から連絡ですわ。瑠衣さんがあの記憶、取り戻したかも、て」



 は!? マジでかっ!

 いやいや、おかしいって! だってそんなはずねぇだろ!?

 俺達が都を離れてまだ半日も経ってねぇんだぞ?

 年単位で忘れられてたもんを、なんで今更思い出すんだよ!



「……その話は後だ。ひとまずこっちを片付けるぞ」

「はいはい」



 ギロッとにらむ夏生さんに、綾芽は両手を上げて降参ポーズをとった。



「……なんの異常もなさそうだけどな」

「あぁ。一応清めとくか」

「劉。車に積んどる神酒と塩、持ってきてくれへん?」

「はい」



 黒木さんがついてて、何があったってんだ。


 ……あー、ちくしょう! そっちが気になって龍脈どころじゃねぇ!



「まったく。次から次へと問題が起きやがって。頭が痛ぇ」

「巳鶴さんにもろた頭痛薬、いります?」

「……いらねぇ」

「飲んでた方がよくねぇか? 酷くなったら駄目だろ」



 ……これが飲んでも大丈夫なヤツなのか確かめるためなんかじゃねーから。

 そんなこと、思ったこともねーから。



「おまたせ、します、た」

「すまねぇな。……ん? ありゃあ、南の 陽炎かげろうじゃねぇか?」

「ほんまや」



 神酒と塩が詰められた板箱を劉から受け取ろうとそっちを向いた時だった。

 見覚えのある鳥影が俺達がいる方へ飛んできているのが見えた。鳳が南から西へ移る時、一緒に連れていった式。それが鷹の形を模した陽炎だ。


 陽炎は次第に距離を縮め、若干ビビるくらいのスピードで下りて……


 ……って、待て待て待て!

 やっぱりかよ! こっち来んじゃねぇ!



「うっわ! おまっ! いった! しっかりつかむんじゃねぇ! 加減しろ加減!」



 こっんのっ! いつか燃やしてやろうと思ってたんだが、今やってやろうか!? あ゛ぁん!? しかも、一万歩くらい譲りに譲ったとして、掴んだら動くな!


 ……あぁあぁあぁ。


 鋭く大きな爪で掴まれたせいで着てたジャンパーの肩の部分がボロボロに。何が起きるか分からねぇからって高級品着てこなくて正解だったわ。


 そんでも結構気に入ってたから、後で主にしっかり請求してやるからな! 畜生!



「あ、ちょっと動かさんといて。なんか足首んとこ紙結わえてるわ」

「じゃあ早くこいつを引きがしてくれよ。……いった! 痛ぇっつってんだろ!」



 なんだよ! あいっかわらず主に似て憎ったらしい奴だな!

 なんでいっつも俺目がけてくんだよ!



「……夏生さん。鳳さんが重傷やて」

「なんだとっ!?」

「そんで離反者もかなりの数出たらしいわ」

「誰からだ?」

「西の泰原やすはら。鳳さんが西の中でもまともや言うてた人やろ?」

「あぁ。なら、前のと違って今回の情報は正しいか」

「どないしますの?」

「……離反者の名前だけ控えとくように言っておけ。北の八尋やひろにも伝えて、西の指示系統に介入するように伝えろ。南には俺が指示を出す」

「了解。西には陽炎が戻るとして。北と南にはこっちから式を飛ばせばいいんだろ?」

「あぁ。……ったく、今日はなんて厄日やくびだ」



 まったくだ。

 ……これが偶然だってんなら、おっそろしいな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る