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「えっ? じゃあ、雅ちゃん、今、陛下達と一緒に南にいるの?」

「あい」



 一人用のカップよりもさらに小さなミニカップに正方形に切られた抹茶のミニケーキ、クリーム、とろりとした餡子あんこ、それからさくらんぼ。


 あ、このクリーム、栗の味がする!



「どう? 美味しい?」

「おいしい! かなでさまもおいしい?」

「えぇ。でも、これだとありきたりだから、真新しさを目指すなら」



 奏様と瑠衣さんは二人で盛り上がりだした。話のネタはどんどん移り変わり、いつの間にか、最初の料理の話題は遠くへ追いやられていた。


 当初の目的が奏様を元気にすることだし、いいんだけど。


 いいんだけど!

 私も! ガールズトーク? 交じりたい!


 最初は料理のことだったから、あんまりアイデア面で戦力になれないから黙ってたけど、今の話題はどう聞いても料理とはかけ離れている。



「むー」

「ほら、二人共。意気投合したのはいいですが、特に瑠衣さん? 大事なうちの上得意であるお方の存在を忘れないように」

「黒木、何言ってるの? 雅ちゃんが上得意?」



 じょうとくいってどういう意味だろう? お得意様って言うから、それのもうちょっといいお客ってこと?

 綾芽とか海斗さんとかにねだって、結構ここの持ち帰り用のお菓子とかも買ってもらってるけど、まだまだそれには届かないんだぁ。


 ……くっ。何か分かんないけど、悔しい!



「雅ちゃんは上得意じゃなくって、うちの名誉店員よ! だから、東に愛想がつきたらいつでもうちにいらっしゃいね!」



 ちょ、ちょっと待って、瑠衣さん。

 その話は大分前にお断りしたはずだったけど?


 黒木さんの方をチラリとみると、黙って首を横に振っている。


 これは諦めるのを諦めろってことですか?



「あら。雅ちゃんたら、引く手数多あまたなのね。元老院うちも年中人手が足りないから、今のうちに立候補しておこうかしら」

「ふぉっ」



 思わぬ方向からのアプローチにびっくりたまげたよ?


 しかも、わりと目がマジだ。


 千早様も、あぁそうだろうね、と、したり顔をしつつ、別の品のオレンジピールをチョコにつけて口に運んでいる。


 ……それも美味しそう……じゃなくって!



「あの、かなでさま……むがっ」

「私のお誘いは何も今でなくてもいいの。だーかーら、今の時点での拒否は受けつけません」

「むむ」



 お断りを入れようとしたら、奏様に先手を打たれた。奏様が食べていた半透明の寒天ゼリーをヒョイッと口の中に突っ込まれる。


 これもなかなか。



「甘味で随分と気を持ち直すなんて、さすがだね」

「……美味しいと可愛いは正義だもの。ねぇ、雅ちゃん」

「あい。おいしいとかわいいときれいとやさしいはせいぎ」

「増えたな」

「増えましたね」



 だ、だってそうじゃんか! 異論は認めるけどね!



「美味しいを除く場合でそれに当てはまるのは」



「おかあさん」

「優姫」



 むっ。


 やっぱり親子か。果てしなく嫌だけど、その通り。



「へぇ。雅ちゃんのお母さん、会ってみたいわ」

「会ったことあるけど、確かに綺麗だったわ。それに、私に対しても敬意はあれど臆さず意見するほどだもの。私も好きね、あぁいう子」

「ますます見てみたくなっちゃう! ね、ね、写真とかないの?」

「えっ、えっ」



 し、仕方ないなぁ。


 ちょっとだけよ?



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